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    流菜🍇🐥

    @runayuzunigou

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    流菜🍇🐥

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    TF主ルチ。二人がストリートピアノに遭遇する話。

    ##TF主ルチ

    ストリートピアノ その日、僕たちはシティの隣にある大きな街を訪れていた。中央市街にある大型のドーム施設で、アマチュア向けのデュエル大会が行われるのである。どうやらそれなりに由緒がある大会らしく、賞金も地域の小規模大会とは桁違いだった。こうしたお金も僕たちの貴重な収入源だから、わざわざ電車で出向くことにしたのである。
     目的の街までは、電車を乗り継いで一時間ほどの距離だった。大会は朝早くから始まるから、僕たちは前日から泊まり込むことにした。ルチアーノのワープ機能を使えば一瞬なのだけれど、それだとあまりにも風情が無いと思ったのだ。それに、こうした小さなお出かけだって、僕たちにとっては貴重なデートの機会なのだ。
     そんなこんなで、大会前日のお昼過ぎに、僕たちは隣街を目指して出発した。片手に大きなキャリーケースを引きずりながら、繁華街の人混みを掻き分けて駅へと向かう。看板を見て行き先を確認すると、ルチアーノの手を引きながら電車に乗った。手を繋いだまま車内を歩く僕を見て、彼は不満そうに鼻を鳴らす。
    「わざわざそんなことしなくても、僕は迷子になったりはしないよ」
    「そうは言うけど、人に押されたら離れちゃうかもしれないでしょ。万が一のこともあるんだから、ちゃんと手を繋いでおこうよ」
     尖った声で愚痴を漏らすルチアーノを、僕は苦笑混じりの声で宥める。確かに、平日の昼間は利用客が少ないようで、車内の座席には点々と空きがあった。とはいえ、都会の人々は時間に余裕がないから、乗り降りの時に周りの人を突き飛ばしたりするのだ。間に割り込まれたら困るから、できるだけ近くにくっついていたかった。
    「間に人が入ってくるのは、君の動きが鈍いからだろ。もっと素早く動いてれば、手を繋ぐ必要なんかないんだよ」
     しかし、そんな僕の切実な想いも、ルチアーノには伝わってくれなかったみたいだ。これ以上手を繋ぐ必要が無いと分かると、彼はすぐに手を振りほどいてしまう。音を立てながら座席の方へと向かうと、空いているスペースに腰を下ろした。
     急がないと座席が埋まってしまいそうで、僕も慌てて彼の後に続く。周りにぶつけないように気を付けながら、キャリーケースのローラーを床の上に転がした。ルチアーノの隣に腰を下ろすと、両手でしっかりと持ち手を握りしめる。力一杯握っていたはずなのに、発車したときの動きでケースが横に揺れた。
     お互いに一言も言葉を交わさないまま、僕たちは電車に揺られていく。シティから離れれば離れるほどに、景色は長閑な田園風景へと変わっていった。背の高いビルが姿を消したかと思うと、今度は緑の集まる山林が姿を現す。三十分ほど窓の外を眺めていると、ようやく乗り換えの駅へと辿り着いた。
    「ここで降りるよ」
     隣のルチアーノに声をかけると、僕はキャリーケースを持ち直す。降りる準備に少し手間取ってしまったが、彼は手伝ってはくれなかった。黙ったまま座席から腰を上げると、僕を置いたまま車内から出ていってしまう。そんな彼の背中を追いかけるような形で、僕もなんとかホームへと降り立った。
    「次はこっちだよ」
     屋根から下がるように吊るされた看板を眺めると、ルチアーノを先導するように歩を進める。そんな僕の態度が気に入らなかったのか、彼は不満そうに鼻を鳴らした。ちらりとこちらを一瞥すると、すぐに前へと視線を戻す。僕の隣に追い付くと、尖った声で口を開いた。
    「そんなこと、言われなくても分かってるよ」
     不機嫌そうな様子のルチアーノを引き連れたまま、僕は次のホームへと歩いていく。キャリーケースを抱えての移動は大変だったが、彼が助けてくれる様子はなかった。僕も最初から期待していないから、なんとか一人で目的地へと運ぶ。ホームに滑り込んできた電車は、さっき以上に人が少なかった。
     ガラガラの車内に上がり込むと、迷わずに隅の席に座る。座席の横のポールに腕を通すと、壁際にキャリーケースを固定させた。見た目はあまりよくはないが、この持ち方が一番安定するのだ。目的地までは二十分ほどしかかからないが、できるだけ楽な体勢の方がいいだろう。
     車内に発車ベルの音が鳴り響くと、電車は隣町へと進んでいく。今度は市街へと向かう路線だから、窓の外の景色はさっきの逆再生になった。視界に広がる緑は徐々に少なくなり、背の高い建物が増えていく。電車がホームに停車する度に、乗り込んでくる人々も増えていった。
     隣街へと辿り着く頃には、車内の座席は全て埋まっていた。立っている乗客を掻き分けるようにして、僕たちは電車の外へと降り立つ。初めて足を踏み入れる駅だから、出口を探すのにも一苦労だ。首を回して周囲の看板を見ると、ようやく探していた出口を見つけた。
     ルチアーノが付いてきていることを確認してから、僕はエスカレーターの列に並ぶ。通路を通って改札に向かうと、ICカードをタッチして改札を抜けた。それなりに大きな駅らしく、建物の中には店舗が軒を連ねている。キャリーケースを引きずりながら出口を目指していると、どこからか音楽が聞こえてきた。
     耳を澄ませて聞いてみると、それはクラシックを演奏するピアノだった。場違いなメロディにびっくりして、僕は思わず足を止める。僕の背中にぶつかりそうになって、ルチアーノも慌てた様子で足を止めた。不満そうに僕の背中を小突くと、彼は湿った声で口を開く。
    「どうしたんだよ。急に立ち止まって」
    「なんか、ピアノの音が聞こえない?」
     上手く言葉が出てこなくて、僕は率直に言葉を返した。隣まで歩いてきたルチアーノが、呆れたように大きく息をつく。駅でクラシックが聞こえるなんて奇妙だと思うのだが、彼にはあまり伝わっていないようだった。横目で僕の表情を一瞥すると、呆れ顔のまま言葉を重ねる。
    「そうだな。下手くそな演奏だから、アマチュアのコンサートでもやってるんだろ」
    「そうなんだ。せっかくだから、ちょっと見に行ってみようよ」
     投げやりに答える彼の声を聞いて、僕は店舗の方へと身体を向ける。一度気になってしまったら、正体を見るまで気が済まなかったのだ。駅でクラシックのコンサートをするなんて、演奏者は相当の物好きに決まっている。幸い、時間にはまだ余裕があるから、ホテルのチェックインに遅れる心配もなかった。
    「おい、ちょっと待てよ。そんなもの見なくていいだろ」
     急に方向を変える僕を見て、ルチアーノは慌てた様子で後を追う。咎めるような声が聞こえてくるが、僕は足を止めなかった。音の発生源を追うように歩を進めると、建物の中央へと向かっていく。そのまま五分ほど歩き続けると、視界の先に開けた空間が見えてきた。
     すべての通りが重なる交差点の中央に、円形の広場が作られている。謎のクラシック音楽の発生源は、その中央にものものしく置かれていた。一段高くなったステージの上に、大型のグランドピアノが設置されているのだ。座席には若い女の人が座っていて、真剣な表情で鍵盤を叩いていた。
     その演奏の勢いに圧倒されて、僕はその場で足を止める。同じく演奏に引き寄せられたのか、周りには何人かの人が集まっていた。少し離れたところからステージを見上げると、奏でられる演奏に耳を傾けている。
     しばらく演奏を続けた後に、その女性は鍵盤から指を離した。周囲を囲む観客に視線を向けると、一度大きくお辞儀をする。そんな彼女の姿を見て、観客も演奏を讃えるかのように拍手を始める。小規模なコンサートの様子を、ルチアーノは呆れたように眺めていた。
    「なんだよ。対して上手くもないのに」
     小さな声で呟くと、ステージの上の女性を見つめている。幸い、女性の耳には届かなかったようで、彼女は次の演奏を始めた。新しく演奏された音楽も、どこかで聞いたようなクラシックだ。周りの人々も曲を知っているのか、同じ場所で音楽に聞き惚れていた。
     女性の奏でるメロディに耳を傾けながら、僕はステージを観察した。いったい、この小さなコンサート会場は、どのような目的で作られたものなのだろうか。演奏のためであることは間違いないが、営利目的であるとは思えなかった。
     その疑問の答えとなるものは、思っていたよりもすぐに見つかった。グランドピアノのすぐ隣に、カラフルな看板が立っていたのである。身体を傾けて印刷面に視線を向けると、そこには『ストリートピアノ』の文字が踊っている。どうやら、このご立派なグランドピアノは、通行人が自由に演奏することが許されているらしかった。
     女性の演奏が勢いを増すにつれて、広場にはたくさんの人が集まってくる。大人から子供までの通りすがりの人々が、彼女の演奏を聞きにやって来たのだ。ストリートピアノを弾いているということは、この女性もアマチュアの一般人なのだろう。しかし、あまり音楽に詳しくない僕にとっては、彼女の演奏は圧倒的な力を持っていた。
     目の前の光景に釘付けになったまま、僕たちは奏でられるメロディに耳を傾ける。そんな僕たちの横顔を、ルチアーノは呆れた様子で眺めていた。数分かけて演奏を終えると、女性は席から立ち上がった。
     周囲に集まっていた観客に視線を向けると、彼女は大きくお辞儀をする。その仕草を合図にしたかのように、人々は盛大な拍手を始めた。ピアノを中心とした広場全体が、大きな拍手の音に包まれる。冷めた瞳で女性の後ろ姿を見届けると、ルチアーノは呆れたように言った。
    「なんでこんなに盛り上がってるんだよ。あれくらいの演奏なら、誰にだってできるだろ」
     彼の口から飛び出した辛辣な言葉に、僕は苦笑いを浮かべてしまう。何もかもをそつなくこなしてしまう彼にとっては、ピアノも基礎的な技術のひとつらしかった。しかし、現実の人間にとっては、クラシックなど簡単に弾けるものではない。彼の認識を正しておこうと、僕は小声で言葉を返す。
    「できないよ。クラシックを弾けるようになるには、相当練習しないといけないんだから。それとも、ルチアーノはピアノも弾けちゃうの?」
    「弾けるぜ。そんなに見たいなら、今から弾いてきてやろうか」
     自信満々な声でそう言うと、彼は広場の中央に向かっていく。一段高くなったステージに上がると、静かに椅子へと腰を下ろした。急にやって来た子供の姿を見て、周囲の人々がざわめきを放ち始める。しかし、そんなギャラリーなど見えていないかのように、彼は鍵盤に指をかけた。
     小さな指先が鍵盤に触れると、本体から重みのある音が溢れる。それは徐々に音の重なりとなって、重厚なメロディを奏で始めた。僕には聞き覚えのない音色だったが、これもクラシックのメロディなのだろう。力強くてはっきりしているのに、どこか悲しくなる音色だった。
     ルチアーノの演奏が始まったことで、広場を取り囲んでいた人々も会話をやめる。子供が演奏している光景が珍しいのか、真っ直ぐにルチアーノに視線を向けていた。人々の関心を一身に集めながら、彼は安定した手付きで鍵盤を叩く。暫くして演奏が終わると、周囲からは拍手が沸き起こった。
     黙ったまま椅子から立ち上がると、ルチアーノはこちらへと歩いてくる。彼に向かっていた観客の視線が、そのまま僕たちの方へと流れてきた。少し恥ずかしそうに僕の隣に立つと、強引な仕草で腕を掴む。思いっきり僕の腕を引っ張ると、彼は小さな声で言った。
    「こんなもんだな。ほら、行くぞ」
     人間離れした怪力に引きずられて、僕の身体は広場の外へと流れていく。慌てて足を動かしながらも、僕は別のことを考えていた。機械でできたこの男の子には、ピアノを演奏するための技術があったのだ。初めての一面にびっくりして、僕は呆然と彼を見つめる。
    「ルチアーノって、本当になんでもできるんだね」
     頬を赤らめる彼の横顔を眺めながら、僕は小さな声で呟く。早足で外を目指していたルチアーノが、ちらりとこちらに視線を向けた。
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    流菜🍇🐥

    DOODLETF主ルチ。ルチとあたまなでなでチャレンジをしたいTF主くんの話。
    あたまなでなで 手に持っていたカードを机に置くと、僕は携帯端末に手を伸ばした。ボタンを押して電源を入れると、インターネットのブラウザを起動する。画面に検索ウィンドウが表示されると、目的の単語を打ち込んでいった。情報を元にストレージのカードを引っ張り出すと、再びブラウザを立ち上げる。
     ブラウザのロゴが表示されると、意味もなく画面をスクロールする。モニターに表示されているのは、閲覧履歴を基準にしたおすすめ記事だった。過去に見たサイトの関連記事を表示してくれるから、上手く使えば情報収集に役立つのである。中には、普段は見ないような記事がおすすめされることもあって、ついつい読み込んでしまうこともあった。
     そんなこんなで、この日のインターネット検索でも、僕はブラウザのおすすめ記事を見ていた。僕が調べるのはデュエルモンスターズのことばかりだから、記事もデッキ構築や大会に関するものばかりである。タイトルを読み飛ばしながらスクロールしてみるが、あまり心の惹かれるものは見つからない。そんな中で、ある記事のサムネイル画像だけが、唐突に僕の視界に入り込んできた。
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