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    流菜🍇🐥

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    プラシドとルチアーノがホセの命令で遊園地に行く話。キャラの解像度が低いので何でも許せる人だけ見てください。
    #8月8日はイリアステル三皇帝の日

    ##本編軸

    遊園地 ゲートを潜り抜けると、そこは別世界だった。ロゴをモチーフにしたオブジェの置かれた広場には、軽快な音楽が流れている。通路には親子連れや学生たちが歩き回り、楽しそうにオブジェの前で写真を撮っていた。スタッフは皆が鮮やかな制服を見に纏い、明るい笑顔で人々を迎え入れている。
     ルチアーノは恐る恐る園内に足を踏み入れた。後ろからは次から次へと人が入ってくる。いつまでも立ち止まっているわけにはいかなかった。
    「これが、遊園地というものか」
     隣から、プラシドの声が聞こえた。視線を向けると、大学生が着るような私服に身を包んだ仲間の姿が見える。私服も似合わなければ、遊園地という場所も似合っていない。滑稽な姿だった。
    「そうみたいだな」
     そういうルチアーノも、いつもと違う姿をしていた。上はTシャツ一枚、下はジーンズというラフな洋服に身を包んでいる。ジーンズを履いているのは、子供っぽすぎる格好は嫌だというせめてもの抵抗だった。
    「それで、どこに行けばいいんだ」
     プラシドに言われて、ルチアーノは不満そうに唇を尖らせた。彼だって、何をすればいいのかなど分からないのだ。遊園地なんて、データベースの知識でしか知らなかった。
    「知らないよ。僕だって、こんなところ初めてなんだから」
     答えても、プラシドは動こうとしない。仕方なく園内へ踏み込むと、入口付近に立て掛けてあったマップを手に取った。

    「お前たちには、遊園地に潜入してもらう」
     ルチアーノとプラシドを呼び出すと、ホセは唐突にそう言った。
    「は?」
     ルチアーノは声を上げた。言葉の意味が理解できなかったのだ。同じ感想なのか、プラシドもぽかんとした顔をしている。二人して、間抜け面を晒してしまった。
    「聞こえなかったのか? 遊園地に潜入してもらうと言ったのだ」
     ホセは冷静に繰り返した。堂々とした態度に、二人が同時に眉を吊り上げる。不満を態度で表すと、プラシドが先に口を開いた。
    「意味くらい分かっている。なぜ、遊園地に行かねばならんのだ」
    「そうだよ。僕たちの任務に、遊園地なんて関係ないだろ」
     ルチアーノも畳み掛けるように言うが、ホセは動じなかった。冷静に二人の仲間を見下ろすと、表情を変えずに言葉を続ける。
    「神から、お告げがあったのだ。デュエルアカデミアに通うシグナーの子供の様子を見に行け、とな。潜入するのはルチアーノだ。お前にしか、学生のふりはできないだろう」
     ホセの話を聞いても、ルチアーノは納得しなかった。顔をしかめると、尊大な態度で足を組み直す。
    「待てよ。それと遊園地に、何の関係があるんだ? 学校に潜入するなら、制服を用意するだけでいいじゃないか」
     ルチアーノの意見は最もだ。隣で聞いていたプラシドが、続けて抗議の声を上げた。
    「そういう話なら、俺は無関係だな。そんな茶番など断らせてもらう」
     逃れようとする二人を見て、ホセは威圧するような視線を向けた。物分かりの悪い子供たちに、威厳のある声で告げる。
    「何を言っている」
     二人が、一斉にホセへと視線を向けた。ルチアーノは怪訝そうな表情を、プラシドは冷めた表情を、それぞれの顔に浮かべる。
    「お前たちは、子供の気持ちが分かるのか? 学校という場所は、子供たちの集団生活の場だ。子供の気持ちが分からなければ、疑われてしまうだろう」
     その言葉に対して、ルチアーノは反論ができなかった。ホセの言うことは最もだ。疑われてしまえば元も子もない。
    「プラシドもだ。お前は、ルチアーノの付き人として振る舞ってもらう。子供の集まる場を観察して、保護者の振る舞いを学んで来い」
     これには、プラシドも黙らざるを得なかったようだ。不服そうな顔をしながらも、大人しく話を聞いている。
    「分かったな。これは、神のお告げなのだ。神に従うつもりがあるのなら、指示に従え」
    「…………分かったよ」「仕方ない、従ってやろう」
     不承不承を隠さずに、二人は返事をする。そうして、彼らは遊園地に向かうことになったのだ。

     マップを広げると、ルチアーノは上から除きこんだ。園内全体を縮尺した地図には、アトラクションやショップの場所と解説が書き込まれている。一番人気は、中央に位置するジェットコースターらしい。マップを畳むと、背後にいるプラシドに声をかけた。
    「一番人気は、このジェットコースターみたいだぜ。突っ立ってても仕方ないし、とっとと行こうぜ」
     先導するように歩き出すが、プラシドは動かなかった。神妙な顔で進路に見える建造物を見ながら、覇気の無い声を漏らす。
    「ジェットコースター、か……」
     ルチアーノが怪訝そうに振り返った。プラシドは、さっきと同じ場所に立っている。不審に思って、前に出していた足を引っ込めた。
    「なんだよ。行かないのかよ」
    「一人で行けばいいだろ」
     返ってくるのは、そっけない返事だけだった。その横顔は、ジェットコースターから視線を逸らしているように見える。あることに思い至って、ルチアーノはにやりと笑みを浮かべた。からかうような声色を作ると、楽しそうに尋ねる。
    「もしかして、ジェットコースターが怖いのかい? 神の代行者なのに?」
     悪意のある煽りに、プラシドは不快そうに眉を吊り上げた。にやにや笑う少年を一瞥すると、冷たい声で言い放つ。
    「俺がそんなものを恐れると思うのか?」
    「なら、問題ないな。行こうぜ」
     返答を得ると、ルチアーノは勝ち誇ったように笑った。その子供らしい生意気な態度に、プラシドがため息を付く。
    「……後悔しても知らんぞ」
     ジェットコースターは、長蛇の列だった。入り口に掲げられたボードには三十分待ちの文字が貼り付けられている。園内一の人気アトラクションである上に、今日は日曜日なのだ。親子連れや学生、若いカップルで、待機列はすし詰めだった。
    「だから言っただろう」
     今度は、プラシドが勝ち誇った声を出す。
    「別に並べばいいだろ。子供じゃないんだから」
     言葉を返しながら、ルチアーノは列へと並ぶ。ゆったりとした動きで、プラシドも後に続いた。少しずつ前に進みながら、ルチアーノは園内マップを広げる。
    「次はどこに行こうか。メリーゴーランドってやつも人気らしいぜ。お化け屋敷もいいな」
     嫌がっていた割には楽しんでいる様子だった。普段よりも子供らしい姿に、プラシドは僅かに笑みを溢す。笑い声が聞こえたのか、ルチアーノが顔を上げた。
    「なんだよ」
     返事はなかった。張り合いの無さを感じながらも、ルチアーノはマップに視線を落とす。頭上ではコースターが人々の悲鳴を乗せて駆け抜けていく。轟音が轟き、地面が揺れる感触がした。
     列は、思っていたよりも早く進んでいった。あっという間に階段を上り、乗り場へと辿り着く。係員に案内されるままに、ジェットコースターに乗り込んでいく。彼らは、先頭から二番目に乗り込んだ。
     ルチアーノはゆらゆらと足を揺らした。人々があんな悲鳴を上げるのだ。このマシンが与える刺激は、人々を恐怖のどん底に突き落とすのだろう。楽しみで仕方なかったのだ。
     ベルが鳴ると、機体はゆっくりと動き出した。焦らすようなスピードで、少しずつ上へと上がっていく。レールの頂上まで上ると、園内の様子が見渡せた。遠くには、シティを象徴するオブジェが見える。
     一瞬だけ停止すると、コースターは猛スピードで落下した。搭乗する人々が、恐怖と歓喜の入り交じった悲鳴を上げる。誰もが、この恐怖を楽しんでいるのだ。通り抜ける風に身を委ねながら、束の間の旅を楽しんだ。
     コースを走り抜けると、コースターはゆっくりとスタート地点へと戻っていく。帰りの階段を歩きながら、ルチアーノはにやりと笑った。
    「案外、悪くなかったな」
    「そうか」
     対するプラシドは、淡々とした返事を返している。彼は、走行中もずっと無反応だったのだ。彼にとって、絶叫マシンは好みではなかったようである。
    「次は、こっちに行こうぜ」
     そう言うと、ルチアーノはプラシドを先導するように歩き始めた。乗り気じゃないと言っていたわりには、遊園地という環境を楽しんでいるようである。子供のようだと思いながらも、プラシドは黙ってその後に続いた。
    「着いたぜ」
     そこにあったのは、円形の土台に作り物の馬が並べられたアトラクションだった。土台がくるくると回ると、上に乗っている馬たちもくるくると回っていく。馬の上に乗っていた子供たちが、楽しそうに笑い声を上げた。
    「回転木馬か」
     隣から、プラシドの冷めた声がする。青年の人格を持つ彼にとって遊園地という場所は子供の遊び場なのだろう。
    「こっちは、そんなに並んでないみたいだぜ。行くぞ」
     そんな仲間の様子を見もせずに、ルチアーノは列へと向かっていく。並んでいるのは、ほとんどが子供と母親だった。場違いすぎる環境に、プラシドが顔をしかめる。
    「ここに並ぶのか」
    「ホセの命令だよ。聞かないと怒られるぜ」
     にやにやと笑いながらルチアーノは言う。大きくため息を付きながらも、仕方なく彼の後に続いた。子供たちが我先にと円形の台に上がり、馬の上に腰を下ろす。よく見ると、中にはカボチャの馬車を模したものまであった。
     ルチアーノは大きな馬に飛び乗った。その姿を見届けてから、プラシドは馬車に乗り込む。出来るだけ、人から見られないところに乗りたかったのだ。
     軽快な音楽と共に回転を始めるアトラクションを眺めながら、プラシドは鼻を鳴らした。彼は神の代行者なのだ。回転木馬で子供たちに囲まれているなど、屈辱以外の何物でもなかった。
     音楽が止むと、回転木馬は静かに動きを停止した。スタッフのアナウンスが響き、子供たちが出口へと向かっていく。列に加わりながら、ルチアーノが小さな声で言った。
    「人気だって聞いてたけど、案外大したことなかったな」
    「次はどこだ。さっさと行くぞ」
     ルチアーノの言葉を遮るように、プラシドが横槍を入れた。積極的な態度に、ルチアーノはにやりと口角を上げる。
    「なんだよ。ようやく乗り気になったのか?」
    「俺がこんなもので喜ぶと思うか? 時間の無駄だから、とっとと片付けて帰るぞ」
    「そういうことかよ」
     答えながらも、ルチアーノは園内を縦断するように歩を進めた。
    「ほら、着いたぜ。次だ」
     ルチアーノの案内した建物を見て、プラシドは怪訝そうな顔をした。目の前には、おどろおどろしい装飾を施された小屋が建っている。看板には『妖怪屋敷へようこそ』の文字があった。
    「なんだ、これは」
    「お化け屋敷だよ。人間たちの娯楽のひとつで、恐怖というものを体験して楽しむものなのさ」
     ルチアーノは嬉しそうに列へ加わる。人間の恐怖心を好む彼にとって、ホラーというジャンルは何よりも楽しい娯楽なのだろう。冷めた目で見下ろしながらも、プラシドは仲間の隣に並んだ。
    「悪趣味な。恐怖を忌避しながら、自ら足を踏み込むとは、人間と言うものは分からんな」
     ホラーというジャンルだからか、並んでいるのは年齢層の高い子供が多かった。スタッフが一組ずつ案内をしていく。入り口を開ける度に、中から人間の悲鳴が響いた。
     人が捌けると、いよいよ彼らの番がやって来た。ルチアーノはうきうきした様子で暖簾を潜っていく。天井の低い入り口を、プラシドは背を屈めて通り抜けた。
     建物の中は、和室を模した通路になっていた。薄暗い部屋のなかに、張りぼてで作られた障子や畳が並び、日本人形や昔の調度が並んでいる。遠くからは先を行く子供たちの悲鳴が響き、歩を進めると、物陰から現れたスタッフが入場者を脅かした。
     しかし、プラシドとルチアーノにとっては、こんなもの痛くも痒くもなかった。じっくりと中を観察し、ひそひそ声で話をする。変装したスタッフが現れても、ルチアーノはにやにやと笑い、プラシドは威嚇を返していた。
     出口の暖簾を潜ると、眩しい光が差し込んでいた。機能を切り換えて視界を調整すると、ルチアーノはケラケラと笑った。
    「面白かったな。人間たちは、こんなのに驚くんだぞ。ただの子供騙しじゃないか」
    「つまらん。次に行くぞ。案内しろ」
     ルチアーノを冷めた目で見下ろしながら、プラシドが言葉を吐く。冷徹な態度だが、ルチアーノは一切気にすることなくマップを取り出した。
    「次は、フードコートだよ。子供の好む食を知ることも、任務の一環なんだとさ」
    「なんだそれは、俺たちには食事など必要ないだろう」
    「必要が無くても、知ってないと擬態できないだろ? 食事を取らなくて疑われたらどうするんだ?」
     ルチアーノが畳み掛けると、プラシドは悔しそうに口を閉じた。黙って彼の後に続き、中央に位置するフードコートへと入っていく。
     遊園地らしく、フードコートが提供する食事はジャンクフードばかりだった。焼きそばにバーガー、フランクフルトにチュロスなど、油を使ったメニューが大半だ。入り口付近にはレストランもあるが、ルチアーノにそこまで戻る気はなさそうだった。
    「さてと、何を食べようかね」
     列に並ぶ子供たちを眺めながら、ルチアーノは楽しそうに笑う。ぐるりと店舗を一別すると、その中のひとつに加わった。
     プラシドは、座席からその姿を眺めている。子供のような格好をして子供の群れに紛れるルチアーノは、まるで本物の子供のようだ。新鮮なような、それでいて滑稽な気持ちになって、プラシドは口元を歪めた。
     しばらく待っていると、ルチアーノが戻ってきた。手にはたこ焼きのパックを抱えている。プラシドを一瞥すると、小さな声で言った。
    「次は君の番だぜ」
    「俺はいい」
    「なんだよ。逃げる気か? ホセに怒られるぞ」
     散々急かされ、プラシドはようやく腰を上げた。バーガーを買って先に戻ると、冷めた表情で口に運ぶ。
    「不味いな」
     忖度の無い感想に、ルチアーノはケラケラと笑った。周りから視線を向けられて、慌てて引っ込める。あまり目立つことはしたくなかった。すぐに食事を済ませて、そそくさと席を立つ。
    「次はこっちだぜ」
     うきうきとした態度で、ルチアーノは園内を横切っていく。出発前はあんなに嫌がっていたのに、今ではすっかり乗り気のようだ。マップを握りしめて向かった先は、ティーカップが並んだアトラクションだった。
    「なんだこれは」
    「コーヒーカップだよ。中に入って、カップをぐるぐる回すのさ」
     そのアトラクションは、ほとんど並んでいなかった。二人はすぐに案内され、カップの座席に腰を下ろした。長身のプラシドがカップからはみ出したスプーンのようになっているのを見て、ルチアーノはくすくすと笑った。
     カップの中央にはハンドルが取り付けられていて、回すと本体も回るらしい。音楽が鳴り、台座が動き始めると、ルチアーノは思いっきりカップを回し始めた。音を立てて風を切りながら、コーヒーカップはぐるぐると回る。残像を残して移り変わっていく景色を、プラシドは涼しい顔で眺めていた。
     音楽が止むと、台座はゆっくりと動きを止めた。ルチアーノもハンドルを握る手を離す。何度か空振りで回転したあと、カップは動きを止めた。
    「満足したか」
     カップを降りると、プラシドは淡々と問いかけた。
    「まあまあね」
     答えながら、ルチアーノは次の目的地へと歩き始めた。ちらりとプラシドを振り返ると、にやりと口角を上げる。
    「次が最後だよ」
     彼らが向かった先は、観覧車だった。町を見下ろすほどの巨大な円が、遊園地の中心でぐるぐると回っている。町を観察する上で何度も姿を見かけているが、一度も間近で見たことはなかった。
    「観覧車か」
     プラシドが、納得したような声で言う。彼にとっても、それが遊園地の定番であることは分かるようだ。
     観覧車は、二十分待ちだった。ジェットコースターほどではないが、そこそこの待ち時間はあるようだ。黙って列に並ぶと、円形の建造物を見上げる。
    「これが観覧車か。人間が乗りたがる理由も分かる気がするな。人間は、高所から町を見下ろすことがないからね」
     列はじりじりと先に進んでいく。前に並んでいる子供たちが、嬉しそうに柵に手をかけた。彼らにとって、天空から見下ろす町の景色は非日常なのだろう。ルチアーノには分からない感覚だった。
     しばらく待っていると、彼らの番が回ってきた。丸みを帯びた小さな箱の中に、二人で入っていく。長身のプラシドの頭は、天井すれすれまで迫っていた。
     観覧車は、ゆったりした動きで上へと上がっていく。窓の外からは、園内の様子が見下ろせた。その奥には、ネオドミノシティの町並みが広がっている。彼らが何度も見下ろした、この町の景色だった。
    「向こうにダイダロス・ブリッジが見えるぜ。こっちは治安維持局だ。あれはアカデミアだな」
     眼下の景色を見下ろしながら、ルチアーノは誰にもとなく語る。プラシドに話しているわけでは無さそうだが、言葉を発していないと落ち着かないのだろう。
     観覧車を降りる頃には、日が沈み始めていた。地平線に沈んでいく夕日を眺めながら、ルチアーノは言った。
    「任務は終わったな。そろそろ帰るか」
    「もういいのか? まだ行きたいところがあるんだろう?」
    「あるわけ無いだろ。ホセからの命令も終わったんだ。もう用はないよ」
     ルチアーノの言葉を聞くと、プラシドは意外そうな顔をした。
    「お前が行きたいところじゃなかったのか。ずいぶん子供っぽい趣味だとは思っていたが」
    「僕が遊園地に行きたがるわけ無いだろ。子供じゃないんだから」
     ルチアーノが返すと、プラシドはふんと鼻を鳴らした。口元に笑みを浮かべながら、からかうような口調で言う。
    「どうだかな」
     退場ゲートを抜けると、建物の影へと移動した。ワープ機能を起動し、一気に玉座の間へと移動する。
    「帰ったぞ」
     プラシドが告げると、ホセはちらりと彼らを見た。玉座に腰を下ろす二人を眺めながら、淡々とした口調で尋ねる。
    「少しは楽しめたか」
    「楽しいわけ無いだろ。本当に、こんなんで子供の気持ちが分かるのかよ」
     呆れたようにルチアーノが言う。そんな仲間の態度を見て、プラシドがにやりと口角を上げた。
    「そうか。お前はそれなりに楽しんでいるように見えたが」
    「そんなわけ無いだろ!」
     言い争いを始める二人を、ホセは後ろから眺めていた。少しは距離が近づいたようだ。それだけでも、任務をさせた意味がある。
     今度の任務は、プラシドとルチアーノのペアで行うものになる。転校生とその従者として、シグナーに接近するのだ。仲間割れなどという理由で失敗したら、全てが無駄になってしまうのだ。
     そうならないために、ホセは二人を遊園地へと送り込んだ。ルチアーノに目的となるアトラクションを伝え、自由な順番で巡らせたのだ。そうすることで、二人で行動できるかを試していたのである。
     結果は、及第点だった。この程度の協調性があるなら、送り出しても問題ないだろう。もうひとつの検査についても、異常は見られなかった。
     ホセは、二人を観察していたモニターを閉じた。軽く目を閉じ、メモリーの中に眠っている記憶を反芻する。それは、彼の元となった人間が持っていた、幼い頃の思い出だった。
     プラシドとルチアーノは、この記憶を持っていない。遊園地の景色を見ても、何も思い出すことはなかったのだ。
     ホセは、二人の仲間を見つめた。兄弟のような見た目をした二人は、今も玉座の上で睨み合っている。彼らが記憶を取り戻すのは、もっと先のことになるのだろう。そのときまで、この秘密は胸に秘めておこうと、彼は『彼』へと誓ったのだった。
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