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    流菜🍇🐥

    @runayuzunigou

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    流菜🍇🐥

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    TF主ルチがアミューズメントプールに行くだけの話です。若干ルチが子供っぽかったりします。無駄に長いです。

    ##TF主ルチ
    ##季節もの

    プール「来週の火曜日は、プールに行こうか」
     そう言うと、ルチアーノはあからさまに嫌な顔をした。眉を真横に歪めると、突き放すように返事をする。
    「プール? そんなものの何がいいんだよ。汚いし人は多いし子供ばかりだし、好んで行くもんじゃないだろ」
     彼の意見はもっともだ。この時期のプールは、想像を絶するほどに混む。夕方のニュースで放送される映像も、人で溢れて大変なことになっているものばかりなのだ。そんな人混みに自ら突っ込んで行くなんて、彼には想像もできないのだろう。本当は、水着を買う前に約束したはずなのだけど、忘れられているなら仕方ない。
    「そんなこと言わないで、行こうよ。楽しくなかったら、すぐに帰っていいから」
     僕が言うと、彼はちらりと僕を見た。にやりと笑みを浮かべると、試すように繰り返す。
    「本当に、嫌だったら帰っていいんだな? そんなことを言って、後悔しても知らないぜ」
    「いいよ。さすがに入場料はかかるから、昼まではいるつもりだけどね。その後なら、いつ帰ってもいいから」
     保証すると、彼は表情を緩めた。これは、良い兆候だ。条件をつけると、ルチアーノは聞いてくれることが多い。これまでの付き合いの中で、彼の攻略方法はそれなりに分かってきた。
    「分かったよ。付いていってやる。まあ、すぐに帰るけどな」
     にやにやと笑いながらルチアーノは言う。約束は取り付けた。後は、当日の僕に任せよう。

     枕元に、目覚ましの音が響き渡った。寝ぼけた頭でボタンを押して、耳をつんざく鈴音を鎮める。再び布団に潜り込んだところで、今日の予定を思い出した。
     僕は、飛び上がるように起き上がった。目覚まし時計を見て、現在の時刻を確認する。寝坊はしていない。布団から這い出すと、浮き浮きした気分で洗面台へと向かう。
     今日は、ルチアーノとプールに行く日だった。起こしてもらえるとは思えなかったから、気合いを入れて目覚ましをかけたのだ。水着の用意は既にしてあるから、着替えを済ませれば出掛けられるのだけど、念のために早めに起きることにした。
     顔を洗ってリビングに入ると、ルチアーノが呆れた顔を向けてきた。冷めた瞳で僕を見ると、突き放すように嫌みを言う。
    「なんだ、起きたのかよ。大会の日もこれくらい早く起きてくれると嬉しいんだけどな」
     辛辣な言葉だが、僕には何も言い返せなかった。その事については、彼の言う通りなのだ。起こしてもらう習慣がついて以来、僕は自分では起きられなくなってしまったのだ。
    「だって、重要な予定の日はルチアーノが起こしてくれるでしょ。信頼してるから、ゆっくり眠っていられるんだよ」
    「起こさないと、僕たちが不戦敗になるからだよ。君は、もっと自立した方がいいと思うぜ」
     鋭く釘を刺されて、僕は返す言葉が見つからなくなった。これ以上は、何を言っても怒らせてしまうだろう。黙って謝っておくことにする。
    「ごめん」
     ひと言謝ると、僕は自分の支度を始めた。朝食を摂ってエネルギーをチャージすると、服を着替えて鞄の中身を確かめる。あんなことを言っているが、ルチアーノは本気で怒っている訳ではないのだ。適当に流して、外に連れ出せばいい。
    「支度ができたから、そろそろ行こうか」
     声をかけると、ルチアーノは黙って付いてきた。普通の鞄とプール用の鞄の二種類を下げた僕を見て、再び呆れ顔を浮かべる。
    「君、相当浮かれてるな。そんなに楽しみだったのかよ」
    「そうだよ。プールなんて、何年も行ってないからね」
     僕は、この日を楽しみにしていたのだ。ルチアーノの反応を見たいというのもそうだけど、単純に僕自身が楽しみたいのだ。アミューズメントプールなんて、小学生の時以来行っていない。大人になるにつれてプールに入る機会はなくなっていくから、年単位で久しぶりの体験になるのだ。
    「そんなに楽しいのかよ。プールってやつは」
     うきうきと歩く僕を見て、ルチアーノも興味を持ったみたいだった。淡々とした足取りで歩きながらも、少しそわそわしている。
     そのアミューズメントプールは、シティの外れにあった。駅からは少し離れているから、現地までの移動手段はバスだけだ。施設周辺は人が多くて目立つから、最寄りの駅にワープしてからバスで移動することにした。
     バスの中は、親子連れや学生で溢れていた。騒ぎ立てる子供たちの声に、ルチアーノが顔をしかめる。プールまでの直行便だから、乗っている人たちは誰もが大きな鞄を抱えていた。
     十五分ほど揺られていると、ようやく目的地へと辿り着いた。入り口の建物の向こうに、ウォータースライダーや水の溢れるオブジェが見える。子供の一人が、それを指差して大声で歓声を上げた。
    「子供ってのは、五月蝿くて嫌だな。まだ、耳がキンキンしてるぜ」
     バスを降りると、ルチアーノは小声で囁いた。彼もデュエルをする時は大声で笑っているから、人のことなど言えないような気もするが、それとこれは違うのだろう。苦笑いで答えながら、チケットを買って施設内に入る。
     更衣室に向かうと、回りの人がぎょっとしたように視線を向けた。ルチアーノの姿を見て、女の子だと思ったのだろう。彼が視線を返すと、人々は黙って目を逸らした。
     空いているロッカーを選ぶと、荷物を入れて着替えを取り出した。ルチアーノに水着を手渡すと、奥にある一角を指し示した。
    「ルチアーノは、こっちのカーテンで着替えなよ」
     そこは、カーテンで仕切られた着替えコーナーだった。服屋の試着室のように、着替え用の設備が備え付けられた個室が、分厚い布のカーテンで覆われている。四ヶ所ある着替えスペースのうち、一番端のひとつが空いていた。
    「なんでだよ。別に、隠すようなもんじゃないだろ。ここでいいよ」
    「ダメだよ。ルチアーノは目立つから」
     少女のような容姿をしたルチアーノは、男子更衣室にいるとすごく目立つのだ。さっきから何人かの男の視線を感じるし、僕は落ち着かなかった。
    「別に、見せつければいいだろ。ものを見せれば、男だって分かってもらえるよ」
    「絶対にダメだからね!」
     にやにや笑うルチアーノを止めると、更衣室の中に押し込んだ。見せつけるだなんて、あまりにも無防備すぎる。世の中には、男の子をいかがわしい目で見る男だっているというのに。
     ごそごそと着替える音を聞きながら、僕も水着に着替えた。丈の長い海水パンツと、肌を覆う白のパーカーだ。細かいところは違うけど、遠目ではルチアーノとお揃いに見えるはずだった。
     布製の鞄から、タオルと日焼け止め、防水のお財布を取り出し、防水加工をされたポーチに移動する。少し悩んでから、ウエットティッシュや手当て用の絆創膏も一緒に移動した。プールだってアウトドアだ。何が起こるか分からない。
     ポーチを腰につけると、カーテンの開く音が聞こえてきた。振り返ると、水着に身を包んだルチアーノの姿が見える。開いたパーカーから胸元の突起が見え隠れしているし、海水パンツの裾からは長い足が見えている。いつもはこっそりと見ているものが白日の元に照らされて、心臓がドキドキしてしまった。
    「なんだよ」
     僕の視線を察したのか、ルチアーノが不機嫌そうに言う。機嫌を損ねないように、動揺を隠して手を握った。
    「なんでもないよ。行こうか」
     消毒のシャワーを浴びると、灼熱のプールサイドへと足を踏み出す。今日は天気がいいから、焼きつけるような太陽の日差しが、僕たちの肌に突き刺さる。水が蒸発してしまうのか、プールサイドはほとんどの部分が乾いていた。
    「これが、アミューズメントプールってやつか。ふーん。けっこういろいろあるんだな」
     目の前に広がる光景をみて、ルチアーノが感心したように呟く。僕たちの前に広がるのは、大きな流れるプールだ。奥にはウォータースライダーが立っているし、遠くには人工の波が漂うプールや、アスレチックのプールまである。プールサイドには、飲食店や備品のレンタルショップが並んでいた。
    「そうだよ。ただのプールじゃなくって、遊園地になってるんだ」
     ロッカーの前に移動すると、ポーチを入れて鍵をかける。久しぶりだから、どこから行けばいいのか分からなかった。マップの前に立つと、ルチアーノに声をかける。
    「どこか、気になるところはある?」
     彼は、目を細めてマップを見た。園内を一瞥すると、目を細めたままで言う。
    「僕は、プールなんて何も知らないんだ。君の行きたいところに行きなよ」
    「じゃあ、ウォータースライダーに行こうか」
     そう言うと、僕はルチアーノの手を取った。プールの中央は、カラフルな水着の溢れる人混みだ。今日はチョーカーを置いてきているし、うっかりはぐれてしまったら、再会するのは難しいだろう。
     人混みを掻き分けると、待機列に並んだ。階段をぐるぐると登りながら、順番が回ってくるのを待つ。階下に見えるのは、人で溢れたプールの光景だ。カラフルに彩られた施設の中を、カラフルな水着に身を包んだ人間たちが移動していく。その様子を、ルチアーノは楽しそうに見ていた。
    「好き好んでこんな人混みに来るなんて、人間ってやつは変わってるよな」
    「こういう場所は、人混みを掻き分けることを楽しむものでもあるからね。たくさんの人がいると、レジャー感が増すでしょ?」
    「人がたくさんいても、邪魔なだけだろ。プライベートビーチなら、広い海を独り占めできるんだぜ」
     彼は当たり前のように言うが、僕にとっては途方もない話だった。プライベートビーチなんて、それこそトップスのお金持ちくらいしか持ってないだろう。
     他愛の無い話をしていたら、順番が回ってきた。スタッフに呼ばれて、スライダーの入り口に腰をかける。スライダーは二台あったが、丁度良く、同じタイミングで滑ることができた。
     スタッフの合図を聞くと、僕たちは身体を滑らせた。スライダーを流れる水と共に、全速力でスライダーの中を駆け抜ける。ぐわんぐわんとうねったり、猛スピードで直線を通り抜けたり、天井が透けている部分を通り抜けたりする。最後は、宙に浮き上がりながら、プールの中に飛び込んだ。
     僕は、水の中を歩いてプールサイドへと向かった。ルチアーノも、同じように身体を動かして岸に上がる。僕の姿を見つけると、にやにやと笑った。
    「遅かったな」
    「ルチアーノが早いんだよ」
     答えながら、僕はルチアーノの隣に上がった。照りつける太陽が、僕たちの身体を焦がす。水に濡れていたはずの肌は、あっという間に乾いてしまった。
    「どうだった? ウォータースライダーは?」
     声をかけると、ルチアーノは退屈そうに僕を見上げる。ウォータースライダーは、彼のお眼鏡には叶わなかったらしい。一瞬だけ視線を向けると、すぐに前に戻した。
    「まあまあだったよ。やっぱり、子供騙しの遊具だな」
     やはり、ルチアーノの気に入るアトラクションを示すのは難しいらしい。園内を見渡しながら、次の手を考える。正午のタイムリミットまでは、あと二時間ほどだ。それまでに、彼の心を掴む何かを見つけたかった。
    「次は、アスレチックなんてどう? プールの中に家が建ってるんだ」
    「アスレチック? そんなの、子供が行く場所だろ?」
     僕の提案に、ルチアーノは明らかに嫌そうな顔をした。子供の遊び場なんて、彼の一番嫌がるところだ。端から見たら、明らかな選択ミスだろう。
    「そんなこと無いよ。ここのアスレチックプールは、どの年齢の人でも遊べるんだ。僕だって遊んでいいんだよ」
     ルチアーノの手を引いて、中央に見えるアスレチックへと向かう。あまり乗り気ではなさそうだったが、昼まではプールで遊ぶという約束があるからか、大人しくついてきてくれた。水の中に足を踏み入れると、目の前にそびえる頑丈な家を眺めた。
    「アスレチック自体は、よくあるやつと変わらないみたいだな」
     呟きながら、隣を駆け抜ける子供たちを横目で見つめる。彼らの後を追うように、家の階段を上った。
     それは、なんの変哲もないアスレチックだった。上へと登る階段や、ツリーハウスへと続く宙にかけられた吊り橋のような通路。外には、ジャングルジムのような建造物や滑り台まである。親子連れや兄弟姉妹で賑わうそのオブジェを、僕たちは二人で登っていった。
     ひとつだけ違うのは、そこかしこから水が流れていることだ。噴水のように吹き出す水もあれば、通路を流れていく水もある。屋根の上には大きなバケツが取り付けられていて、ひっくり返っては水を流していた。
    「こんなの、ただのアスレチックだろ? 子供なら喜ぶんだろうけど、僕には退屈なだけだぜ」
     家の縁に腰をかけながら、ルチアーノは冷めた声で言う。やはり、彼にアスレチックは合わなかったらしい。身体を動かすなら、やっぱりデュエルモンスターズなのだろう。三十分も経たないうちに、僕たちはアスレチックを後にした。
    「じゃあ、次は波のプールに行こうか。塩の入った水と人工の波で、海を再現したプールなんだ」
     プールサイドを歩いて、入り口の方へと向かう。レンタルコーナーに戻って、浮き輪かボードを借りようと思ったのだ。波の起こるプールと流れるプールは、浮き輪がないとただのプールだった。
    「海を再現したプール? そんなものがあるのかよ。回りくどいことしなくても、直接海に行けばいいのに」
     ぶつぶつと呟きながら、ルチアーノは後をついてくる。借りた浮き輪を差し出すと、怪訝そうな表情で僕を見た。
    「なんだよ。そんなもの無くても、僕は泳げるぜ」
    「これは、泳ぐために使うんじゃ無いんだよ。波に乗るために使うんだ」
     答えると、僕は波のプールを目指した。流れるプールとアスレチックプールを通りすぎた先に、そのエリアは待っている。そこでは、扇形に作られたプールの中に、思い思いの乗り物に乗った人々が漂っていた。奥から波が押し出されて、人々を上下に揺らしていく。
    「ここで浮き輪に乗ると、波に乗ることができるんだ。こんな感じだよ」
     ルチアーノから浮き輪を借りると、腰に通して水の中に入った。波のプールは、奥に行くほど水深が深くなっている。真ん中くらいまで出ると、浮き輪に手を回し、水の中で足を浮かせた。
     浮き上がる波に身を委ねて、ゆらゆらと水の上を漂う。周囲を囲む人々も、同じように波に揺られていた。僕たちの姿を見て、ルチアーノが感心したように言う。
    「ふーん。要するに、流されない海ってことか。子供が海に流されたら、人間じゃ手に負えないからな」
     しれっと恐ろしいことを言うと、波間に身体を浮かせた。ルチアーノは機械の身体を持っているが、水には浮くようである。まるで浮遊するかのように、水の中を漂っていた。
     波は、一定のペースでこちらに流れてくる。奥の方から、子供たちの楽しそうな声が聞こえた。一際大きな波が、こちらに向かって押し出されたのだ。
    「見て、大きな波だよ」
     そう言うと、僕は波に身体を乗せようとした。波の揺らぎに合わせて身体を動かし、波の上に登ろうと挑戦する。しかし、上手くタイミングが合わなくて、水の中にひっくり返ってしまった。
     塩水が、半開きの口の中に入り込んでくる。鼻の方にも入ってきて、僕は大きく咳き込んだ。床に足を付け、なんとか呼吸を整える僕を見て、ルチアーノがおかしそうに笑った。
    「下手くそだなぁ。貸してみろよ」
     僕から浮き輪を強奪して、その上に身体を乗せる。僕にとっては少し大きめなだけの浮き輪も、小柄なルチアーノにとっては上に乗れるほどの大きさだ。浮き輪の上に腰を下ろすと、彼はゆらゆらと波間を漂い始めた。
     しばらくすると、遠くから大きな波が寄せてくる。ルチアーノは波を視界に捉え、身体を捻って波の上に乗り上げた。大きな波に襲われ、僕は身体を縮めて水の中をもがいていく。やっと乗り越えて視線を上げると、ルチアーノは転覆することもなく、そこにいた。
    「ほら、こうやるんだよ。…………その様子じゃ、見てる余裕はなかっただろうけどね」
     にやにやと笑いながら、ルチアーノは僕を見上げた。緑の瞳が真っ直ぐに僕を捉える。そこに楽しそうなきらめきを感じて、少しだけ安堵した。
    「波に乗るのも、簡単じゃないんだよ。陸と海では勝手が違うから」
    「君は、陸地も不得意じゃないか」
    「うぅ……」
     痛いところを突かれて、僕は思わず口を閉じる。僕は、デュエル以外のスポーツはあまり得意ではないのだ。水泳だって、クロールと平泳ぎくらいしか泳げない。背泳ぎをしようとすると、ロープに激突してしまうのだ。
     その後も、僕たちはしばらく波間を漂っていた。何度か浮き輪を借りて波に乗ろうとするが、失敗して転げ落ちてしまう。その度に、ルチアーノはケラケラと笑った。
     そんなことをしているうちに、お昼が近づいてきた。一度プールサイドに上がって、お昼ご飯を食べることにする。
     ロッカーから財布を取り出すと、フードコートへと向かった。並んでいるのは、ピザやハンバーガー、パスタや焼きそばなど、屋台にぴったりな食べ物ばかりだ。ルチアーノの席の確保を頼むと、ピザと焼きそばを買った。
     席に座ると、食べ物を半分ずつ分けあった。身体を動かして疲れた身体に、ジャンクフードの油分が染み渡る。次々に食べ物を口に運ぶ僕を見て、ルチアーノは呆れ顔になった。
    「君って、本当によく食べるよな」
    「そりゃあ、たくさん食べるよ。食べ盛りなんだから」
     答えると、残っていた食べ物を口に運ぶ。食事を平らげると、本題に入ることにした。
    「それで、この後はどうする? ルチアーノが退屈なら、帰ることも考えるけど……」
     元々、このお出掛けは午前だけの約束だった。昼まで遊んで、退屈だったら帰っていいという約束で、僕は彼を連れ出したのである。
     ドキドキしながら返事を待っていると、彼はにやにやと笑った。いたずらっぽい笑みを浮かべると、上から目線の声色で口を開く。
    「帰らないよ。だって、君は持てる全てを尽くして僕を楽しませようとしてたんだろう? そんな健気な部下を見捨てるなんて、上司としての格が下がるだろう?」
     つまり、ルチアーノは僕と遊んでくれることを選んでくれたのだ。楽しかったのかは分からないが、もう少し付き合ってくれる気になったのだろう。安堵が胸を満たして、一気に身体の力が抜けた。
    「良かった……。帰るって言われちゃうかと思ったよ」
     僕が言うと、ルチアーノは呆れたようにため息をついた。僕の必死な姿が、彼には滑稽に映ったのだろう。
    「なんだよ。そこまでして僕を誘いたかったのか? 変なやつだな」
    「だって…………」
     話したいのに、言葉が出てきてくれなかった。だって、アミューズメントプールは子供たちの夢なのだ。夏にしか開かれない期間限定の遊園地なんて、子供にとってはロマンでしかない。熱い中を遊び回る子供たちにとって、冷たい水とアトラクションの組み合わせは、何よりも魅力的だったのだ。
    「で、この後はどうするんだよ。まだ、プールの案内は終わりじゃないんだろ?」
     僕がもごもごしていると、淡々とした声が飛んできた。そういえば、まだプールの目玉が残っているのだ。最後のひとつを実行するまで、帰るに帰れなかった。
    「最後は、流れるプールに行こうと思うんだ。すぐそこにあるから、見れば分かると思う」
     僕は、後ろにあるプールを指し示した。細長い作りのプールが、ぐるりとリングに作られている。真ん中には、幼児向けの浅瀬プールがあった。
     ルチアーノは指差した先に視線を向けた。輪っかのように循環するプールと、そこを流れていく人々を見て、怪訝そうに目を細める。しばらく呆然とその様子を眺めると、小さな声でポツリと言った。
    「流しそうめんかよ」
     僕は笑みを溢した。言われてみれば、確かにそうだ。子供向けの流しそうめんの機械は、こんな形をしていた気がする。
    「とりあえず、行こうよ。みんなでそうめんになろう」
     意味不明なことを言いながら、ルチアーノの手を引く。彼は、浮き輪を持ったまま僕の後についてきた。
     階段を降りると、プールの中に入る。見た目よりも強い水圧の流れが、僕たちの身体を押し流した。丸い浮き輪の上に腰を下ろしたまま、ルチアーノは水の流れに身を任せていた。
     彼の隣を、何も持たない僕が流れていく。身一つで水流に流されていると、川に流される子供はこういう気持ちなのかと考えてしまう。ここはプールだから安全だけど、川には助けてくれる人など誰もいない。流されたら一貫の終わりなのだ。
     周りの子供たちは、楽しそうに水の中で遊んでいる。いるかのバルーンに乗って流れる幼い女の子、水の流れに逆らおうと、必死に足をバタつかせる男の子、人混みをすり抜けながら追い駆けっこをしてる子供たちもいる。たくさんの子供たちを、水に流されながら眺めていた。
    「これ、いつまで流れてればいいんだよ。何もせずに流されるなんて、退屈だろ」
     隣で、ルチアーノが声を上げた。このプールは、一番アトラクション性が低いのだ。刺激を求めるルチアーノには、単調に感じるのだろう。
    「じゃあ、大きなプールで追い駆けっこでもする? あのプールなら、たくさん身体を動かせるよ」
    「追い駆けっこか。それなら、退屈しなくて済むかもな。捕まえられなくても文句は言うなよ」
     浮き輪をショップに返却すると、僕たちは大きなプールへと向かった。ルチアーノの背丈よりも少しだけ低いプールで、水の底まで潜り込む。ルチアーノが背を向けると、少し遅れて僕も後を追いかけた。
     追い駆けっこは、僕の惨敗だった。小柄で身軽なルチアーノは、人々の隙間を抜けて泳いでいたのだ。普通の体格を持つ僕には、後を追うことができなかった。
     水面から顔を上げ、肩で息をしていると、ルチアーノが泳いできた。少しも疲れた様子の無い態度で、僕の方に笑いかける。
    「その程度でへばってるのか?だらしないな」
    「その程度って………なかなかに重労働だったよ」
     僕は答える。炎天下を泳ぎ続けて、喉がカラカラだったのだ。プールサイドに上がると、売店でジュースを買う。自分だけ飲むのも気が引けるから、ルチアーノの分も買った。
     空いている席に座って、ストローを力一杯吸う。氷で冷えたその液体は、日差しと運動で火照った身体を冷やしてくれた。
    「プールは、楽しかった?」
     尋ねると、彼はにやりと笑いながら僕を見た。くすくすと笑みを溢しながら、いたずらっぽい声で言う。
    「楽しかったよ。君の無様な姿をたくさん見られたからな」
     言葉選びは意地悪だが、楽しかったのは本当のようだ。唇に浮かぶ笑みは、作り物なんかではなかった。
    「じゃあ、そろそろ帰ろうか」
     ごみを捨てると、ロッカーの荷物を取り出して建物へと戻った。。更衣室の隣には、身体を流すためのシャワーが設置されていた。ひとつの個室に二人で入ると、お互いの身体を洗い流す。
     更衣室に入ると、カーテンの中にルチアーノを押し込んだ。彼は不満そうだったけど、水に濡れた中性的な子供を外で着替えさせるのは危険だと思ったのだ。ルチアーノのことだから、反撃してトラブルになるリスクもある。
     着替えを終えると、帰りのバス停へと向かった。まだ時間は早いが、ちらほらと帰り支度をした子供たちを見かける。商業施設の敷地内だから、それほど待たなくてもバスはやって来た。子供たちに続いて乗り込むと、空いている席に座る。
     バスが発車する頃、肩に重みを感じた。視線を向けると、ルチアーノがこちらに凭れかかっている。子供特有の熱が肩にこもって、ほかほかと温かかった。
     ルチアーノは、うとうとと船を漕いでいた。慣れない水中での運動は、彼のシステムには負担になってしまったらしい。完全に目を閉じると、すぅすぅと微かな寝息を立て始めた。
     その姿を見て、僕はあることを思い出す。小学生だった頃の僕は、テーマパークに遊びに行く度に、疲れて眠ってしまっていたのだ。気がついたら家にいたという経験は、数えきれないほどしてきたのだ。
     僕は、そっとルチアーノの頭を撫でた。濡れた髪に触れると、すぐに指を離す。しっかり触っても、彼は目を覚まさなかった。
    「おやすみ、ルチアーノ」
     返事は、返ってこなかった。完全にスリープモードに移行したらしい。すぐに着いてしまうが、今だけは寝かせてあげたいと思った。
     こうして眠っていると、本当にただの子供みたいだ。愛おしさを感じながら、僕は彼の横顔を見つめたのだった。
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    DOODLE天使の漣
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