テセウスの船 大通りから離れると、人通りはぐっと少なくなった。耳を刺すような喧騒は遠ざかり、優しい静けさが僕たちを包み込んでくれる。聳え立つ建物で太陽の日差しが隠れるから、昼でも地面は薄暗い。まだ明るい時間帯なのに、おどろおどろしい空気がした。
路地裏に足を踏み入れる時、僕は緊張に身体を強ばらせてしまう。人の目が届かない場所というのは、敵に命を狙われやすいのだ。ルチアーノに先導されながら、キョロキョロと周囲を見渡す。とはいえ、僕が意識を向けたところで、敵の姿など見つけられるわけがなかった。
道を半分ほど進んだところで、不意にルチアーノが振り向いた。真っ直ぐに僕を見上げると、耳元に顔を近づけてくる。
「そこから動くなよ」
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