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    流菜🍇🐥

    @runayuzunigou

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    TF主ルチが紅葉狩りに行く話です。

    ##TF主ルチ
    ##季節もの

    紅葉 テレビを付けると、夕方のニュースが流れていた。ちょうど特集に入ったところで、地域の話題を放送している。今日のテーマは、秋の風物詩みたいだった。
     食事を口に運びながら、僕はぼんやりと画面を眺める。今日はルチアーノがいないから、ひとりぼっちの夕食だ。無音の部屋を賑やかせるために、見るわけでもないテレビを付けていた。
     画面が切り替わり、色鮮やかな樹木が映し出される。シティにある街路樹が、ようやく色づき始めたらしい。落ち葉の降り注ぐ街の光景と、紅葉狩りをする人々の様子を映し出してから、アナウンスは観光スポットの紹介を始めた。
     画面の中に映ったのは、一面の紅葉だった。赤一色に見えるが、ところどころに銀杏の黄色も混ざっている。鮮やかな葉が降り注ぐ道の左右には、お祭りのような屋台が並べられていた。
     道の先は、森の中へと続く散歩道へと繋がっていた。色とりどりの枝が腕を伸ばす森の小径を、若い女性アナウンサーが楽しそうに歩いている。手には屋台のチュロスが握られていて、医科にも観光風景という感じだ。
     後から吹き込まれたアナウンサーの声が、観光スポットの立地を説明する。シティからは少し離れているが、Dホイールで向かえそうな距離だった。画面の中を眺めながら、僕は考える。思えば、僕たちは紅葉狩りというものをしたことがなかったのだ。
     今度、ルチアーノを誘ってみよう。真っ赤に染まる通りを見ながら、僕はそう思った。

    「紅葉狩り?」
     僕の話を聞くと、ルチアーノは甲高い声でそう尋ねた。目を大きく広げてから、すぐに細める。あまり乗り気ではないようだった。
    「そうだよ。シティ郊外に、人気のある観光スポットがあるんだ。良かったら一緒に行かない?」
    「嫌だよ。シーズンの観光スポットなんて、絶対に混むに決まってるだろ。君一人で行ってきなよ」
    「そんなこと言わないで、一緒に行こうよ、平日の昼なら、人もそこまででもないだろうし」
     嫌がるルチアーノに向かって、畳み掛けるように説得をする。伺うような素振りをしているが、ノーと言わせる気はなかったのだ。彼もそれは承知しているみたいで、溜め息を付きながらも了承する。
    「分かったよ。君は、僕がついていかないと納得しないんだろ」
    「そうだよ。僕は、ルチアーノに人間の暮らしを知ってもらいたいんだから」
     小言を言われるが、それくらいでは怯まなかった。このようなやり取りも、もう慣れっこになっていたのだ。
    「君って、変なやつだよな。僕なんかと出掛けて、何が楽しいんだよ」
     ぶつぶつと言葉を漏らしながら、彼は僕から顔を背ける。それが照れから来る行動であることは、長年の経験で分かっていた。

     観光スポットは、平日の昼間でも混んでいた。渋滞の発生した道を、二人乗りのDホイールでのろのろと走っていく。前の車が止まる度に、ルチアーノは小さく鼻を鳴らした。
    「だから言っただろ。季節の観光スポットは混むんだって」
     勝ち誇ったような声が、僕の耳に突き刺さる。彼の言う通りなのだ。僕の見通しの甘さが原因で、渋滞に巻き込まれてしまった。
    「うぅ……」
     唇から零れるのは、情けない声だけだ。僕には何も言い返せない。全部、彼の言う通りなのだ。
    「そもそも、君は情報屋の男と繋がりがあるんだろ。そいつに裏道を聞いたりしなかったのかよ」
    「うぅ…………」
     さらに畳み掛けられ、僕は呻き声を漏らす。本当にその通りだ。どうして気づかなかったのだろう。
     結局、目的地に辿り着くまでには予定の倍の時間がかかった。その間も、ルチアーノはからかうことをやめない。駐車場にDホイールを停める頃には、僕はすっかりへとへとになっていた。
    「やっと着いたな。全く、永遠に走り続けるのかと思ったよ」
     Dホイールから滑り降りながら、ルチアーノは小言を吐く。その隣に並ぶと、彼を先導するように歩き始めた。
    「こっちだよ」
     大通りを抜け、公園へと続く小径に足を踏み入れる。遠くに見える木々は、全てが赤と黄色に染まっていた。公園が近づくにつれて、通りには人の姿が増えていく。屋台の並ぶ通りに出る頃には、大勢の人で溢れていた。
     僕は、そっとルチアーノに手を伸ばした。この人混みの中では、油断したらはぐれてしまうだろう。手のひらを握りしめると、すぐ近くに引き寄せる。彼にも意図が伝わったのか、文句は言われなかった。
     ルチアーノに気をかけながらも、左右に並ぶ屋台を見つめる。フライドポテトやたません、唐揚げのようなジャンクフードから、クレープやチュロスのようなおやつまで、選り取り緑に取り揃えられている。ざっと周囲を見渡すと、僕はルチアーノに声をかけた。
    「何か食べる?」
    「別に、要らないよ。屋台の食事なんて、たいしておいしくもないしな」
     冷めたような声が返ってきて、僕は苦笑いをした。彼の言葉には、遠慮というものがない。そのチープさが屋台の醍醐味なのに、少し勿体ないような気がした。
    「じゃあ、自分の分だけ買おうかな。ちょっと待ってて」
     彼を待たせると、僕は屋台の列に並んだ。最初に唐揚げを買うと、続けてたこ焼きとベビーカステラを買う。ルチアーノの元に戻ると、彼は退屈そうに人混みを眺めていた。
    「お待たせ。じゃあ、行こうか」
     しっかりと手を繋いで、僕たちは散歩道へと歩いていく。こっちも人が多いから、周りの速度に合わせてノロノロとしか進めない。赤く色づいた木々を眺めながら、山の上を目指して歩を進めた。
    「見て。この辺の山全部が赤くなってるよ。綺麗だね」
     声をかけるが、ルチアーノはあまり乗り気ではなかった。気のない返事を返しながら、淡々と前へ進んでいく。これ以上の返事は期待できないと思って、僕も黙って歩を進めた。
     散歩道の頂上は、休憩スペースになっていた。空いているベンチに腰をかけると、周囲の木々を眺めながら屋台の食べ物を広げる。少し時間が経ってしまったが、たこ焼きはまだ温かかった。
     パックを開けると、食べ物を口に運んでいく。いつもと変わらない屋台めしだが、紅葉の中で食べると、少し印象が違うように感じる。視線を感じて隣を見ると、ルチアーノが僕を見つめていた。
    「ルチアーノも食べる?」
    「要らないよ」
     またしても誘いを断られ、僕は手元に視線を戻す。たこ焼きを口に運ぶ僕の姿を、彼は至近距離から見つめていた。そんなに見つめられると、なんだか気恥ずかしい。視線に耐えきれなくて、間を埋めるように質問を投げる。
    「どうしたの?」
    「君って、ほんとよく食べるよな」
    「そうかな? これくらい普通だと思うけど」
     そこで、また会話は途切れた。僕は黙って食べ物を口に運び、ルチアーノはそれを眺めている。ゆったりとした時間が流れていた。
     食事を終えると、僕はごみを袋にまとめた。残っているベビーカステラは、帰り道のおやつにする。ベンチから立ち上がると、隣のルチアーノを声をかけた。
    「じゃあ、行こうか」
     手を差し出すと、自分から握り返してくれる。しっかりと手を繋いだまま、僕たちは帰りの階段へと足を踏み出した。砂を踏む固い音を響かせながら、一段ずつ階段を下っていく。しばらく経った頃に、不意にルチアーノが口を開いた。
    「僕は、紅葉を見たことがないんだ」
    「えっ?」
     間抜けな声を上げて、まじまじとルチアーノを見てしまう。彼は、何もかもを知っている高性能アンドロイドだ。知らないことなど無いと思っていた。
    「もちろん、データとしては知ってるよ。そうじゃなくて、紅葉狩りのような経験がないってことだ」
     僕の心を読んだように、ルチアーノは言葉を続ける。しばらく間を置いてから、彼は続きの言葉を口にした。
    「僕たちのいた世界は、環境が壊れたからな。紅葉するような木々なんて、ほとんど残ってなかったんだ。だから、初めてなんだよ。自分の目で観光地の景色を見るのは」
     感情を抑えた声で、彼は淡々と言う。僕には、返す言葉が見つけられなかった。彼の語る過去の話は、いつだって重苦しい。僕には受け止めきれないことばかりだった。
    「どうだった? 本物の紅葉は」
    「まあまあだな」
     楽しそうに笑いながら、彼は言葉を返す。その声に上機嫌な響きが混ざっていて、僕はホッと息を付いた。とりあえず、彼にとってこの経験は悪くなかったようだ。それが分かって、僕は少し嬉しかった。
    「よかったら、ベビーカステラを食べてよ。屋台の食べ物を食べるのも、観光の醍醐味だからさ」
     袋を差し出すと、彼は黙ってそれを受け取った。袋を開き、中に入っているお菓子をつまみ上げる。不思議そうに一瞥すると、一口で放り込んだ。
     帰り道も、行きと同じくらい込むのだろうか。そんなことを考えると、僕の心は憂鬱になる。でも、それは嫌なことばかりではないのだ。帰り道には、ルチアーノと話をすればいいのだから。
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