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    流菜🍇🐥

    @runayuzunigou

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    流菜🍇🐥

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    孤児院を訪ねるホセに同行させられるルチアーノの話。一応本編軸ですがホセが孤児に優しかったりルチアーノが振り回されてたりします。ほぼ幻覚です。

    ##本編軸

    慰問 玉座の上に、二つの人影が座っている。片方は大柄な老人で、もう一人は年端もいかない少年だ。もうひとつの玉座は空席になったまま、主の帰りを待ち続けている。残された二人は、黙ったまま中央のモニターを眺めていた。
    「ルチアーノ」
     不意に、ホセが言葉を発した。言葉は少年に向けられているが、視線はモニターから動かない。横柄な態度に、ルチアーノが不機嫌そうに鼻を鳴らす。ちらりと視線を向けてから、面倒臭そうに返事をした。
    「なんだよ」
    「少し付き合え」
    「はぁ?」
     投げ掛けられた言葉に、ルチアーノは大袈裟な声を上げた。眉を上げると、冷めきった視線を向ける。ホセは、平然とした顔で前のモニターを眺めていた。その態度に、さらにルチアーノの顔が歪む。
    「何でだよ。用事なら人間を使えばいいだろ」
     生意気な反論だが、ホセは少しも動じなかった。平然とした顔でルチアーノを見つめ、淡々とした口調で答える。
    「人間ではいかんのだ」
    「何でだよ」
    「付いてこい。そうすれば分かる」
     頑なな言葉に、ルチアーノは大きくため息を付いた。この老人は、どうしても仲間を連れていきたいらしい。プラシドが不在の今、彼が従うしかなかった。
    「分かったよ。全く、何を考えてるんだか」
     少年の悪態に、ホセは僅かに眉を上げる。ちらりと視線を向けたが、言葉を返すことはなかった。

     ホセに連れられて辿り着いたのは、大型ショッピングモールの玩具売場だった。色とりどりのパッケージが並ぶ賑やかな店内を、買い物カゴを手に歩いている。後ろを歩く少年は、不満そうな表情を浮かべていた
    「全く、何を考えてるんだよ。僕をこんなところに連れてくるなんてさ。いったい何の用事なんだ」
     悪態を吐くルチアーノを、ホセは無表情のまま振り返った。大柄な身体で見下ろすと、淡々とした声で諭す。
    「黙って付いてこい」
     カモフラージュをしているとはいえ、大柄な老人の姿はよく目立つ。買い物客にチラチラと見られる度に、ルチアーノは恥ずかしそうに唇を噛んだ。
     ホセは、黙って棚へと向かっていく。パーティゲームのパッケージやアニメのグッズなどを手に取ると、片っ端からカゴに入れていく。何を基準に選んでいるのか、男児向けから女児向けまで幅広く選び出されていた。
     次に向かったのは、スポーツ用品の棚だった。縄跳びやボールを手に取ると、やはりカゴの中に入れていく。その姿を、ルチアーノは冷めた目で見つめていた。
    「ルチアーノ」
     不意に声をかけられ、ぴくりと身体を揺らす。まさか、ここで名前を呼ばれるとは思っていなかったのだ。動揺を抑え込むと、平然を装って返事をする。
    「なんだよ」
    「スケートボードを選べ」
    「はぁ?」
     突然の要求に、彼は頓狂な声を上げてしまう。声をかけたと思ったら、意味不明な要求をするのだ。真意が分からなかった。
    「お前は、Dボードを使っているだろう。どのボードが子供に合うか、よく分かるはずだ」
    「なんだよ、それ」
     答えながらも、ルチアーノは棚に視線を向けた。選べと言われても、彼に子供の気持ちなど分からない。いくつかを見比べると、そのうちのひとつを手に取った。
    「ほら、選んだぞ」
    「それか」
     一言だけ答えると、ホセはボードを受け取った。両手にカゴを持ったまま、小脇にボードを抱えている。再び歩き出すと、今度はぬいぐるみの棚へと向かった。
     ここでも、ホセはぬいぐるみをカゴに入れていた。可愛らしい動物のものから、恐竜や猛獣など、見境なく手に取っていく。この男が何を考えているのか、ルチアーノにはさっぱり分からなかった。
     カゴが溢れかけたところで、ホセが動きを止める。視線は、大きな熊のぬいぐるみに向けられていた。しばらく凝視してから、背後に佇む少年に声をかける。
    「ルチアーノ」
    「……今度はなんだよ」
    「あの熊を持って来い」
    「はぁ?」
     再び、頓狂な声を上げてしまう。何を要求されているのか分からなかったのだ。眉を歪めて佇むルチアーノを見て、ホセは再び口を開く。
    「あの熊を買う。レジまで持って来い」
    「だから、何で僕が……」
     そこまで言ってから、彼は言葉を引っ込めた。ホセの両手は、カゴで塞がっていたのだ。熊のぬいぐるみを持つ余裕が無いことは明らかだった。
    「…………分かったよ」
     しぶしぶと言った態度でルチアーノは熊を手に取った。大きめのぬいぐるみは、彼の腕にすっぽりと収まる。ぬいぐるみを持って玩具屋を歩くなんて、まるで子供そのものだ。羞恥に頬が染まる。
    「行くぞ」
     ホセに先導され、顔を伏せながらレジへと向かう。カウンターに辿り着くと、突きつけるようにぬいぐるみを置いた。
     店員の女性は、次々と商品をスキャンしていく。大きめの袋は、すぐに玩具で埋まってしまった。最後に熊のぬいぐるみを通すと、店員が一度手を止める。新しい袋を取り出そうと手を伸ばしたところで、ホセが声をかけた。
    「それは、そのままでいい。…………ルチアーノ」
    「まさか、持って帰れって言うんじゃないだろうな」
    「そのまさかだ」
     抵抗の意思があるのか、ルチアーノはしばらくその場から動かなかった。ホセの鋭い視線に射抜かれ、しぶしぶとぬいぐるみを受け取る。頬を膨らましながらも、両腕で抱え込んだ。
    「こんなもの、何のために買ったんだよ。こんなことをさせるつもりなら、僕じゃなくても良かっただろ」
     店を出ると、ルチアーノは抗議の言葉を告げる。悪態を聞き流しながら、ホセは人混みから離れていった。
    「おい、聞いてるのかよ」
    「静かにしろ。理由などすぐに分かる」
     静かな威圧に、ルチアーノは口をつぐんだ。彼は、大人の威圧に弱いのだ。ホセに睨まれると、言葉は喉の奥に消えてしまった。
     人気のない階段に向かうと、彼らはワープ機能を起動した。玩具の入った袋を抱えたまま、光の中に包まれる。次の瞬間には、その場から姿を消していた。

     それから数日後ほど経った頃、ルチアーノは旧サテライトエリアを歩いていた。子供のような洋服に身を包み、両手には熊のぬいぐるみを抱えている。隣には、人間に擬態し、スーツに身を包んだホセが、しっかりとした足取りで歩いている。背後から続くのは、玩具の台車を運ぶ人間たちだ。
     ホセの向かった先は、小さな孤児院だった。何度かノックをすると、中から四十代くらいの女性が姿を現す。彼らの姿を見ると、嬉しそうに笑みを浮かべた。
    「ようこそ、お待ちしておりました」
     彼女に案内され、室内へと足を踏み入れる。年季の入っているらしいその建物は、掃除をされているのに薄汚れて見えた。気分の悪さを感じながらも、表情には出さずに応接間へと進んでいく。この訪問の目的は、事前にホセから聞かされていたのだ。
    「治安維持局幹部の方が慰問に来てくださるなんて、本当に光栄です。支援品までいただいてしまって、なんてお礼をしたらいいのやら……」
     感極まったという様子で、女性は言葉を切った。彼女に視線を向けると、ホセは優しい笑みを浮かべる。普段からは想像もできないその笑顔に、ルチアーノは妙な気持ち悪さを感じた。
    「そんなに改まらないでください。これは、私が望んでやっていることですから」
     答える言葉や声色も、信じられないほどに爽やかで丁寧だ。あからさまな猫かぶりに顔をしかめたくなりながらも、ルチアーノなんとか堪える。ホセから、せめて微笑みくらい浮かべていろと言われていたのだ。
     ホセが孤児院に向かうと言い出した時、ルチアーノは頓狂な声を上げてしまった。よくよく話を聞くと、それは慰問が目的なのだという。勝手にしろと答えたが、彼はルチアーノの同行を求めた。くすんだ瞳で威圧され、拒絶の意志を失ったルチアーノは、しぶしぶ同行を認めたのである。
     ホセの筋書きでは、彼は治安維持局の職員という設定らしい。シティと旧サテライトエリアの断絶を埋めるために、各地の孤児院に慰問しているということになっている。ルチアーノは彼の孫で、子供たちと遊ぶために同行したという設定だった。
    「ルチアーノ」
     不意に声をかけられ、彼は顔を上げる。反抗しそうになって、慌てて言葉を抑えた。彼の心を読んだのか、ホセは演技を保ったまま言う。
    「ここにいるのは退屈だろう。子供たちと遊んできなさい」
     それが退席の要求であることは、ルチアーノにもすぐに分かった。しぶしぶ席を外し、子供たちの集まる大広間へと向かう。そこでは、ホセの従者が玩具を配っていたようで、群がる子供たちで溢れていた。
     子供たちの一人が、彼に気づいて振り返る。それに応えるように、別の子供たちも振り返った。
    「ねえ、君って治安維持局の人と一緒に来てた子だよね?」
     声をかけられ、ルチアーノは僅かに怯んだ。子供たちは無邪気に彼を囲む。彼の気も知らずに、口々に言葉を発した。
    「ねぇ、どこから来たの?」「一緒に遊ぼうよ」「プレゼントは二人で選んだの?」
     何も言い返せずに立ち竦むと、彼らよりも年上らしい少女がやって来た。子供たちをルチアーノから引き離すと、諭すように子供たちを見る。
    「ほら、お客さんが困ってるでしょ。ちょっと離れなさいよ」
     彼女の言葉を聞くと、子供たちはおずおずと距離を置いた。彼らの熱気から解放され、ルチアーノもそっと息をつく。彼に視線を向けると、少女は申し訳なさそうに言った。
    「ごめんね。びっくりしたでしょ」
    「別に、そんなことないよ」
     彼の返事は、やはり強がりだった。神の代行者として玉座に座っているだけの彼は、子供と触れ合ったことなどなかったのだ。今だって、どう接していいか分からないのだ。
    「よかったら、みんなと遊んであげてよ」
     そう言われ、仕方なく子供たちの輪に入っていく。デュエルをしているグループを見つけると、その中に加わった。
     十分すぎるほどの手加減をしながら、床にカードを広げている。デュエルディスクを使わないデュエルは、いつぶりかすら思い出せないほど懐かしいものだった。彼らにとって、デュエルは戦闘手段のひとつである。娯楽としてのぬるいデュエルなど、ほとんどしたことがなかったのだ。
     そうこうしているうちに、ホセが部屋に入ってきた。院長の女性と共に、子供たちの前に並ぶ。女性に誘導されると、子供たちは揃ってお礼を言った。
    「おじいさん、プレゼントありがとう!」
    「たくさん遊んで、大きく育つんだよ」
     ホセの優しい声かけに、ルチアーノは再び顔をしかめそうになる。いったい、この男は何を考えているのだろうか。仲間のことなのに、何一つ理解できなかった。
    「帰るぞ」
     女性にお礼を言うと、ホセはルチアーノに声をかけた。玩具を運んできた従者を従えると、用意された車に乗り込む。発進してしばらく経った頃に、不意にルチアーノが尋ねた。
    「なんで孤児院なんか訪ねるんだよ。みなしごに恩を売ったところで、僕たちに良いことなんかないだろ」
     ホセは、静かにルチアーノを眺めた。その瞳の冷たさに、ルチアーノは僅かに威圧される。彼が怯んだことを悟ると、ホセは再び口を開いた。
    「意味なら、ある」
    「はぁ?」
     ルチアーノは意味が分からないという表情を浮かべる。その姿を眺めてから、ホセは一言だけ呟いた。
    「いずれ、お前にも分かるだろう」
     それ以降、彼らは何も語らなかった。静寂を保ったまま、車は淡々と彼らを運んでいく。最初から最後まで、ルチアーノには分からないことばかりだった。
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