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    流菜🍇🐥

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    いつもとは設定の違うTF主ルチ。knmくんの名前を名字っぽく書く表記が好きなのですが、ルチがそれを名字だと知らなかったらかわいいなと思ったので書きました。

    ##TF軸
    ##TF主ルチ

    名前 机の上に用紙を広げると、僕は両手で頭を抱えた。目の前にあるのは、大会に参加するための申請書だ。参加メンバーの名前を記入することになっていて、上の段には既に僕の名前が書き込まれている。タッグパートナーの情報を書き込む下の段は、空白のまま放置されていた。
     僕たちは、デュエルの大会に参加することになっていた。ルチアーノとタッグパートナーになってからは、初めての大会参加である。WRGPの本番に挑む前に力試しがしたいと、ルチアーノの方から提案してきたのだ。僕も二つ返事で受け入れて、その日のうちに申し込みを済ませたのである。
     そこまでは良かったのだが、問題はその後だった。大会に参加するには、申請書を記入しなくてはいけなかったのだ。そこには参加者の名前と、住所や生年月日などの情報、さらには使用するデッキを記入する必要がある。当たり前と言えば当たり前だが、僕にはその思考が抜け落ちていたのだ。
     半分が白紙のままの用紙を見つめて、僕は唸り声を上げる。困っている理由は、もちろんルチアーノのことだった。秘密組織の戦闘用アンドロイドとして産み出された彼には、僕たちのようなフルネームの名前が無い。生年月日なんて分からないし、住所として記入できるような場所もなかった。
    「なにか、あったりしない? 仮の名前とか、生年月日とか、そういうの」
     重ねて尋ねてみても、彼は良い返事をくれなかった。ちらりとこちらに視線を向けると、面倒臭そうに言う。
    「そんなもの、あるわけねーだろ。適当に書いておけよ」
     そう言われると、僕は余計に困ってしまう。ルチアーノは気難しい性格をしているから、うっかり気に入らないことを書いたら、機嫌を損ねてしまうかもしれないのだ。だからといって、外見とかけ離れた内容を書いてしまえば、後で面倒なことになるだろう。難しい問題だった。
     悩んだ末に、僕は手を動かした。ひとつひとつの記入欄を見ながら、書き込む内容を考える。龍亞と龍可の同学年として学校に潜入していたから、年齢は彼らと同じ歳で良いだろう。住所は、僕の家と同じにすればいい。血液型は分からないが、人間でも分からない人はいるだろうし、空白のまま残しておく。そうやってひとつひとつの枠を埋めていくと、最後には姓名欄が残った。
     名の欄に名前を記入しながら、僕は考える。彼の名字は、なんと記入すればいいのだろうか。そう考えた時に、ひとつの記憶が蘇った。確か、彼のコードネームには元になった人間がいた気がするのだ。
    「ルチアーノ」
    「なんだよ」
     声をかけると、ルチアーノは面倒臭そうに顔を上げた。今度はなんだとでも言いたげな表情が、顔の全体を埋めつくしている。苦笑いを浮かべながらも、許可を取るための言葉を口にした。
    「名字の欄に、コードネームの元になった人の名前を書いていい?」
     僕の問いを受けて、彼はあからさまに嫌そうな顔をした。僕を睨みつけると、不満そうな声を上げる。
    「嫌に決まってるだろ。知らないやつの名前で呼ばれて、自分のことなんて思えないからな」
    「そっか……」
     彼の言葉に、確かにそうかもしれないと思ってしまった。ルチアーノという名は神から与えられたものでも、由来になった人間の名字は、彼の名前とは言えないのだろう。僕だって、急に別の名字を名乗れと言われたら、困惑するに決まっている。この計画は没とすることにした。
     白紙になった用紙を眺めながら、僕は再び思考を巡らせる。こうなったら、残された手段はひとつしかない気がした。ペンを手に取ると、もう一度ルチアーノに声をかける。
    「ルチアーノ」
    「今度はなんだよ」
    「名字だけど、僕と同じのを書いていい?」
     今度は、少し迷うように視線を動かした。何かを考えると、再び僕に視線を向ける。
    「分かったよ。百歩譲って認めてやる」
     今度は、なんとか許可を出してくれた。いかにも渋々という様子だったが、認めてくれたことには変わりがない。空白になっていたスペースに、僕と同じ名字を書き込んでいく。
     そんなこんなで、なんとか申請書の記入が終わった。用紙を持ち上げると、ルチアーノの前へと差し出す。
    「書き終わったよ。これでいいか確認して」
     彼は、面倒臭そうに用紙を手に取った。黙ったまま視線を動かして、そこに書かれている内容に目を通していく。真ん中辺りまで視線を下ろしたとき、急に大きな声を上げた。
    「ええっ!?」
    「どうしたの!?」
     びっくりして、僕も大きな声を出してしまう。ルチアーノの声には、いつもの仕草からはかけ離れた響きが込められていたのだ。何か重大な見落としがあったんじゃないかと不安に思ってしまった。
     でも、実際のところは違っていた。彼は用紙を手に取ると、僕に突きつけながらこう言ったのだ。
    「君は、コナミって名前じゃなかったのか? なんだよ、小波○○○って!」
    「へ?」
     ルチアーノの言葉に、僕はぽかんと口を開けてしまう。少し思考を巡らせて、ようやく彼の言葉の意味に辿り着いた。突きつけられた用紙には、こんな文字列が記入されていたのだ。
    『リーダー:小波○○○、パートナー:小波ルチアーノ』
    「あれ? もしかして、言ってなかったっけ?」
     僕は言う。これまでに彼が何も尋ねてこなかったから、知っていると思い込んでいたのだ。しかし、思い返してみれば、名前の話をしたことは一度もなかった。彼も特に調べたりはしないまま、今日まで過ごしてしまったのだろう。
    「聞いてないぞ。僕は、てっきりコナミが名前なのかと思ってたぜ。隠してたのか?」
    「違うよ。とっくに知ってると思ってたから、改めて言ったりしなかっただけ。隠すつもりはなかったよ」
    「まあ、そうだろうな。隠したところで、君にメリットは無いわけだし」
     理由を語ると、彼は素直に受け入れてくれた。これで機嫌を損ねたらとひやひやしていたから、何事もなかったことに安心する。
     ルチアーノは、用紙へと視線を移した。そこに書かれている文字を、両目でしっかりと捉えていく。にやりと口角を上げると、楽しそうに言葉を発した。
    「ふーん。君は、○○○って名前だったのか。○○○。小波○○○。いい名前じゃないか」
     何度もその言葉を口にして、楽しそうな声で笑う。慣れない下の名前での呼び方に、背筋がそわそわとしてくすぐったい。なんだか、変な感じだった。
    「なんか、不思議な感じがするな。ルチアーノに名前で呼ばれてるなんて」
     僕が呟くと、彼はきひひと笑い声を上げた。申請書を僕の手へ押し付けると、笑みを含んだ声で言う。
    「これからは、名前で呼んでやるよ。君は僕のお気に入りだからね」
     相変わらず尊大な態度だが、少しも気にならなかった。ルチアーノに名前で呼ばれることが、それ以上に嬉しかったのだ。背筋を駆け抜ける高揚感を感じながら、ルチアーノに向かい合う。
    「なんか、変な感じがするけど……嬉しいな。みんな、名字で僕を呼んでたから」
     遊星たちも、町で会う知り合いたちも、僕の名前を呼ぶことはなかった。ずっと名字呼びに慣れていた身体に、その呼び方は深くまで染み渡る。
    「僕のパートナーとして、しっかり働いてくれよ。○○○」
     からかうような、それでいて可愛がるような声色で、ルチアーノは言葉を続けた。その唇から零れる僕の名前は、何よりも甘いものに感じた。
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