出来損ないのアルファ「マーシャル!お前はアルファのくせにこんなこともできないのか?!」
今日も父の怒号が響く。
ボクの家は由緒正しきアルファの医療犬、消防犬の家系だった。家族も親族も皆アルファで優秀で、出来ることが当たり前とされていた。子犬の頃から医療の知識を叩き込まれ、訓練三昧の毎日だった。
今日は重たい消防服を着て、更に重たい荷物を背中に背負って障害を乗り越える訓練をしていた。子犬には到底難易度の高すぎる訓練内容だったのだが、発育が良く運動神経が抜群なボクの兄弟たちは難なくこなしている。それなのにボクは…
消防服と荷物の重みに足がもつれ何度も転けながら、兄弟たちからかなり遅れて、息も絶え絶えに何とかゴールにたどり着いた。
「お前は本当に何をやらせてもダメだな。」
父がボクに蔑むような視線を向け、奥歯をギリと噛みしめながら言い放つ。
ボクは整わない息を早く落ち着かせようと必死になりながら、俯いて父の説教を受ける。先にゴールしていた兄弟たちはくすくすと笑い合いながらこちらを見ている。
「本日の訓練は以上だ。マーシャルは残って片付けをしてから終えるように。」
お説教の最後をそう締め括り、父はサッと踵を返すと自宅の方に歩いていった。他の兄弟たちもキャッキャとはしゃぎながら走って後に続いた。
ボクは溜め息をつきながら、散らかった道具類を拾い集める。
父は何度も表彰をされるような、国内でも有名な消防犬だ。そしてその飼い主もまた、血統や賞などを重視するような人だった。家の中には至るところにトロフィーやメダルなどがずらりと並んでおり、歴代の特に優秀な犬たちの肖像画も飾られていた。アルファの両親の子どもであるボクたちは生まれて直ぐにバース検査をされ、当然のようにボクを含め兄弟全員がアルファだった。それなのにボクだけは他の兄弟たちと同じ練習が上手く出来なかったり、発育も悪く筋肉があまりつかない…。
一通り道具類を集めると、ボクは消防服を着直し荷物を背負い再びスタートラインに立った。先程時間がかかってしまった所を何度も何度も繰り返し練習する。消防服の中は暑くて汗が滝のように流れている。漸くもたつかずに一通りクリアできるようになった頃には日は傾き、空は暁と藍が混ざった色になっていた。
「せめてみんなより努力しなきゃ。」
マーシャルは拳をぎゅっと握り締め、自分に言い聞かせるように呟いた。