朝紗幕からさしこむやわらかい光がまぶたをなでる。
まどろみの中をただよっていた謝憐の意識は、ゆっくりと浮上した。
敷布の肌ざわりに誘われて足を動かすと、いつもより少し身体がだるいことに気づく。
(ああ、昨日は……)
その倦怠感がとろけるまで愛し愛された名残りだと、今の謝憐は知っている。
昨晩は、謝憐に負担をかけまいとする花城にしがみつき、あられもない姿のまま何度もねだった。
思い返すと身の内に残る熱にまた火が灯りそうになる。
謝憐はぼんやりと目を開き、何度かまばたきをしてから、足りないものを探すようにぐるりと頭を巡らせた。
「おはよう、哥哥」
探しものは、謝憐のすぐとなりで肘枕をしながら、おだやかな目でこちらを見つめていた。
艶のある黒い髪に、雪のような肌。
星のようにきらめく瞳と、右眼を隠す眼帯。
いつもの、だけどいつ見ても特別な、愛しい姿がそこにある。
二人の間にあいた数尺ほどの隙間すら厭わしく、謝憐は寝返りをうって身体を寄せた。
「おはよう……三郎……」
身をよじるようにして花城の腕の中にもぐりこむと、背中に回された手がぎゅっと謝憐を引き寄せてくれる。
二人の間の隙間がなくなったことに少しだけほっとして、謝憐は花城のはだけた胸に額をこすりつけた。
「昨晩の哥哥はとてもかわいらしかった」
「ん……」
「身体は平気? つらくない?」
「うん……」
何か言葉を返そうと思っているのに、花城の匂いにつつまれながらやさしく髪をなでられると、もうそれだけで眠りに落ちそうになる。
謝憐がうとうとしていることを察したのか、くぐもった笑い声が頭の上のほうから聞こえた。
「哥哥、もう少し寝てていいよ」
「うん。……三郎、あのね」
「はい」
「昨日は……たくさんしてくれて……嬉しかった」
花城が驚いた気配がした。
謝憐の髪をなでていた手が止まる。
「今日も……したい……な」
――今日も一日、一緒にすごしたい。いいかな。
そう言ったつもりだったが、ちゃんと言葉にできていただろうか。
でもきっと伝わっているだろう。
だってほら、返事をくれるみたいに、腕に力がこめられた。
たぶん大丈夫だ。
髪にふれる花城の唇の感触に、うっとりと目を閉じる。
世界で一番安らげる場所に身をゆだねて、謝憐は再びまどろみの中に落ちていった。