わけっこクリスマス「完成ー!」
カービィがはしゃぎ声を上げる。まあるい小さなケーキが、その手に鎮座していた。小柄なサンタさんのアートキャンディが、ケーキを聖夜らしい雰囲気に仕立てる。ちょっと傾いているのはご愛嬌だ。どこまでもご機嫌なかれが、じゃじゃーん、とローアにケーキを自慢している。ぴこん、と高めの通知音を返す様子は愛らしい。二人はまるで姉弟みたいで、見ていてほっこりする。
「よかったネェ……」
半面、ボクは疲労感でいっぱいだった。ぱしゃぱしゃとローアがシャッターを切る音すら遠い。二人でケーキを作る……それもスポンジにデコレーションするだけなのに、まさかこんなに大変だなんて。いつの間にか消えていく材料に、こっそり溶け始めるクリーム。おかげで、特等席のイチゴがクリームに沈んでしまいそうだ。何とか形になったからよかったものの、近場のケーキ屋さんの終業時刻を調べていたくらいには限界を感じていた。
「マホロア、早く食べようっ?」
るんるんと上機嫌なカービィが、ぴかぴかの食器を並べた。撮影会はとっくに終わっていたらしい。ケーキにナイフをかざす。
「ハイハイ、半分こネ」
「ぼくもする!」
ぎゅっと温かい手がかぶさる。これじゃあ、まるで。動揺に手元が狂う。かれは知らないだろうと思うけれど、いつか見た風習が頭をよぎる。幸せそうに微笑む、かれ────いやいや、何を考えているんだか。ちょっと不格好なそれを、皿に乗せた。頬をぐいと拭う。熱い。
「サンタさんはドウスル?」
飾りの乗った方の皿を指す。アートキャンディというだけあって、食べられるものらしいけれど。
「んー…………」
カービィは、小さく唸ったまま動きを止めてしまった。ぱちりぱちり、のんびりと瞬きをする。悩ましげな顔は微動だにしない。思わず相好を崩した。そんなに悩まなくったっていいのに。
「……キミが食べればイイヨ。早く食べヨウ? クリームが溶けちゃうッテ」
その手にサンタさんの乗ったケーキを押し付ける。皿が触れて驚いたのか、かれは弾かれたように顔を上げた。
「あ、いいこと思いついた!」
ぱくりとサンタさんがその口に放り込まれる。結局自分で食べるらしい。これでやっと落ち着いてケーキを────食べられるはずだった。頬にあてられた手に、自分の手を添える。甘えたな気分なのか。振り返りざまに、ふにと唇が奪われた。驚きに目を見開く。深い青に黄色が浮かぶのは、まるで夜空みたいで悪い気はしない。砂糖菓子の甘さがじんわりとこちらに移る。確かに、いいこと……なのかもしれない。カービィ越しの甘さは、どこか夢見心地な味がした。重なった唇が緩む。その隙間に、何かが押し当てられた。何、これ。ころんとこちらに転がり込んだそれを、舌でつつく。びっくりするくらいに甘い。……キャンディだ。
柔らかな温度が離れたのをいいことに、じとりとした目を向ける。ここまでして食べたいとは言っていない。こんな、恥ずかしいことをしてまで。無言の抗議に、かれはにぱっと笑い返してきた。この表情、半分こできて嬉しい、としか思っていないだろう。こっちの気も知らずに。
「……アーア、クリームが溶けチャッタヨォ……」
くたっとしたホイップに、しょぼしょぼと耳を落とす。仕方なく甘ったるいキャンディを転がした。ケーキ、一応楽しみにしていたのに。
「マホロア、もう一回……ぼくにもちょうだい?」
にこ、とカービィが笑みを浮かべる。その青い瞳が瞼に覆い隠された。ん、とねだる顔に、ぼっと顔が燃える。優しく頬を撫でて、柔らかいそこに────クリームまみれのイチゴを押し付けた。