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    yuzu0229

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    yuzu0229

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    業ス×業ル、フィンブルの冬が崩壊して異世界転生、みたいな話です。


    過去ログにはなりますが、業業や業業+ベビ帝なんかもありますので、良ければご覧下さい。
    転生した業くんの話。
    https://qr.paps.jp/F68OG
    ふぉろわーさんに捧げた業業+ベビ帝
    https://qr.paps.jp/y322i
    業業
    https://qr.paps.jp/EDFP7

    それを絶望と呼ぶ フィンブルの冬が崩壊した。
     あと一歩でルルーシュにとどめを刺せる、俺の悲願が達成する瞬間のことだった。突然足元が揺れたかと思うと、轟音を立てて大地が裂け、その中にルルーシュが落ちていく。映画か何かを見ているような、そんな光景が俺の前でスローモーションで流れていき、ルルーシュの姿はあっという間に見えなくなっていた。
     咄嗟に伸ばした手は空を切り、何も掴めなかったそれを握り込む。殺そうとした相手を助けようとしただなんて、自分でも信じ難い行動だ。ルルーシュを殺すことだけを考えてここまでやってきたのにと、己の愚かしさに肩を揺らした。
    「ははっ……あはははっ! アハハハハハハ」
     世界が壊れていく。地面は最早ぐにゃぐにゃの粘土のようだった。俺は無理やり立ち上がると先程ルルーシュを飲み込んだ暗闇へと足を踏み出す。ルルーシュが死んだ今、俺が生きている理由はない。どちらにしろこの惨状ではフィンブルの冬にいたすべての命はその活動を終えざるを得ないだろう。だったら最期くらいは自分で幕を引いてやる。
    「……ユフィ、……ごめん」
     君は俺の光だった。俺がこの手で奪った希望だった。最期の瞬間くらいは君を思って逝くことを許して欲しい、そう思って目を閉じる。
     けれど、俺が深淵へと身を投げ出したとき、目蓋の裏に浮かんだのは――ルルーシュ、お前だった。



     死んだら地獄に堕ちるというのはただの迷信だし、生まれ変わりなんてあるはずもない。神も仏も信じていない。死んだらそこでおしまいだ。俺はそう信じていた。
     だから地面の裂け目に身を投じた後、朝がやってきたとばかりに目が覚めるだなんて微塵も思っていなかったのだ。
     見上げた空は青く、真っ黒な煙の柱ひとつ上がっていない。硝煙の匂いも血の匂いもないどころか、遠くからは子供の笑い声が聞こえてきた。元の世界ともフィンブルの冬とも違う景色と状況に呆然とする。警戒しながら身を起こして周囲を見回し現状確認をすると、そこで俺の隣にぐったりと倒れていたルルーシュを発見し、俺はついに悲鳴を上げていた。
    「うわあああああああ!」
     ドッドッと心臓が爆音を立てて走り出す。死んだはずのルルーシュが隣にいて、俺も生きてここにいるだなんて、運命とやらは俺に一体どんな悪夢を見せるつもりなんだと腸が煮えくり返りそうになる。
     ルルーシュを殺して終わりにしたはずだったのに、と俺たちを弄ぶ何かに激しい殺意を覚えたそのときだった。
    「……、ぅ……」
     俺の声に反応してルルーシュの目蓋がぴくぴくと動き、薄い皮膚の向こうから片方しかないアメジストが姿を現す。長い睫毛がゆったりと上下し、それから俺の存在を捉えて細められた。
    「……スザク」
    「……、ルルーシュ……」
     ついさっきまで俺に殺されそうになっていたとは思えない、慈愛に満ちた表情だった。かつて親友だと思っていた頃と同じ優しい笑顔だ。
    「地獄にしては悪くないな……お前が一緒なら」
     ルルーシュも自分が死んだと思っているらしく、伸びた髪を掻き上げながら身体を起こした。黒い前髪に隠されていた義眼と俺がつけた生々しい傷痕が露わになる。そんな醜い瘢痕があってもなおルルーシュの美貌は凄絶さを増すばかりで、ひとつも損なわれたりなどしていなかった。俺たちが殺したブリタニア人の中には、ルルーシュは生き血を啜り肌に塗り込めては美しさを保っているのだと噂していた者もいたくらいだ。
     尤も、俺にとってはただの醜悪な狂人にしかすぎないのだが――と、ルルーシュの顔から視線を逸らす。ルルーシュのことを綺麗だと思っていた昔の俺はもう欠片も残っていない。本当なら今すぐにでも殺してやりたいくらいだ。
    「スザク?」
    「……生憎ここは地獄じゃないらしい。どちらにせよお前がいる限り地獄と変わりはないがな」
    「ふむ……となるとまたフィンブルの冬とやらに喚ばれたときと同じような現象が起こったということか」
     皮肉をさらりと聞き流し、ルルーシュが尖った顎に指をあてる。先に目覚めた俺ですら状況に追い付いていないのに、ルルーシュは注意深くあちこちに目を配り分析を始めたようだった。こういうところはルルーシュの方に軍配が上がる。何せ俺は頭を使うことが得意ではないのだ。
    「あの世界が壊れたことによってどこかに弾き出されたとみるのが正解か……元の世界に似ているが、街並みは綺麗なままだしな」
     俺たちが元いた世界はルルーシュのギアスによって地獄へと変えられた。人間爆弾と化したブリタニア人がビルを倒壊させ、地面を抉り、森を焼き尽くしたからだ。だが俺たちが今見ている景色はまだナナリーを失う前のブリタニアそのもの。どう考えても元の世界に戻ったとは考えにくい。
    「あるいは過去に戻ったか……」
     ルルーシュはそこまで言って言葉を切ると、目を伏せて首を振った。
    「いや、そんな都合のいいことが起こるはずはない」
    「……ナナリーのことか?」
    「終わったことだ。ナナリーはもうこの世界のどこにもいない。あの子はブリタニアの屑共に殺されたのだからな」
     声を震わせルルーシュが唇を噛み締める。ナナリーが生きてさえいればルルーシュが狂うことはなかっただろう。俺に奴隷になれとギアスを掛けることも、ユフィを俺に殺させることもなかったかもしれない。もしここが過去の世界であるのなら、そうあって欲しいという願いが頭を過る。
     この世界にナナリーがいるかどうか、確認する価値はあるはずだ。そう思ってルルーシュを見れば、ルルーシュは唇を解いてふーっと溜め息をついた。
    「スザク、ここは一時休戦といかないか?」
     紫の瞳が俺を見て、視線が交わる。
    「……休戦だと?」
    「そうだ。お前がこのまま野垂れ死ぬつもりなら断ってくれて構わない。俺一人で生き延びてみせる」
    「ここまで来てまだ生きたいというのか、お前は……ッ!」
    「ああ、そうだ! 俺が死んだら誰があの子を……皆が忘れてしまえば、ナナリーが生きた軌跡すらなくなってしまう……だから死ぬわけにはいかない!」
     慟哭するルルーシュの右目から、つう、と涙が流れ落ちる。ルルーシュの生きる理由はいつだってナナリーだった。ナナリーを殺したブリタニアを壊してもなお、ナナリーのために生き延びようと必死になっている。だがどれだけ足掻こうとルルーシュの唯一であるナナリーはもういない。そう思ったとき、俺の中にあった憎しみがゆっくりと、だが確実に溶けていった。
    「生きて何をするつもりだ。また世界を壊すのか、ルルーシュ」
    「いや、世界などもうどうだっていい。俺はただあの子を、ナナリーを思って生きていきたいだけだ」
    「……分かった。それなら休戦に応じてもいい」
    「ほ、本当か」
     取り引きを持ち掛けておいて、俺が了承するとは思っていなかったらしい。ルルーシュは目を丸くして俺を見ると、まだ涙で潤んだそれを嬉しそうにたわめた。いつもなら苛立ちしか生まれないが、今は驚くほど心が凪いでいる。頷きを返し「本当だ」と言えば、ルルーシュの眉尻が下がった。
    「……嬉しいよ、スザク」
    「だが、お前をこのまま野放しにすることは出来ない」
    「分かっているさ。お前の監視下に入ろう。望むなら二十四時間好きに見張っていても構わない。それでどうだ?」
     何か企んでいるのか、それとも本心でそう言っているのかが分からず、じっとルルーシュの目を見つめる。狂っていたときのルルーシュの目は狂人特有の、背筋が寒くなるような狂気と残忍さを爛々と灯していた。しかし今のルルーシュからは感じ取れない。ただ、俺を映す一粒の宝石のようなアメジストがあるだけだった。
    「……交渉成立だ」
     俺の言葉にルルーシュは赤い唇を吊り上げてうっそりと笑った。



    「まずは情報収集と食料の確保、次に住居だな」
     当面の目標を口にするや否や、ルルーシュは颯爽と歩き始めた。確かに食料は大事だが、フィンブルの冬からここに飛ばされた俺は金を持っていない。それどころか顔には傷、腰には刀、服装だってこの世界にそぐわないものを身に着けている。ルルーシュだって似たようなものだ。
    「おい、この格好じゃ不審者として通報されるだけだぞ!」
    「コスプレとでも言えばいいさ。別に何も悪いことはしていないんだからな――この世界では」
     幸か不幸か、俺たちが放り出されたのはそこそこ大きな公園だった。街中に突然現れるよりはマシだったとは言え、不審者具合からいけばどっちもどっちと言ったところだろう。長閑な昼下がりという時間帯も相俟って、子連れの女性や散歩中の老人がこちらをチラチラと見遣っては小声で何かを話し合っている。何か手を打たなければ通報されるのは時間の問題だ。
    「いいからお前はここで待っていろ。ただ座っているだけなら通報されても言い逃れが出来るだろ。ああ、刀はちゃんと隠しておけよ?」
     だが俺の心配を余所に、ルルーシュは軽く手を振ると本当にさっさと行ってしまった。あいつのことだ、どうせ碌でもない計画を思いついたのだろうが、俺にはあいつが何を考えているのかさっぱり分からない。
    「……待つしかないか」
     刀をベンチの下に隠すと、横になって昼寝を決め込む。このベンチを独り占めしたところで他のベンチはがら空きだし、文句を言われることはないだろう。精々浮浪者が公園で居眠りしている程度にしか思われないはずだ。警察を呼ばれる可能性は無きにしも非ずだが、KMFにでも乗っていない限り逃げ切れる自信はある。そう思って俺はゆっくりと目を閉じた。

     しかし、一時間経っても俺が危惧していたようなことは起こらず、人の視線は度々感じたものの、ただただ穏やかな時間だけが過ぎていった。元の世界なら無防備に寝転がることはなかったし、常に戦場に身を置いているのと変わらない状況だったから、この世界は平和すぎて逆に落ち着かない。この世界に馴染める日など果たしてやってくるのだろうか。寧ろ馴染んではいけないのではないかとさえ感じてしまう。
     俺の居場所は血腥い戦場で、ユフィが目指していたような優しい世界じゃない。一刻も早く元の世界へ戻ってルルーシュと決着をつけるべきだと思うのに、降って湧いたような日常が俺をおかしくさせている。いつもの俺ならばルルーシュと休戦協定を結んでここで生活を送ろうなんて決して思わなかっただろう。目が覚めた瞬間にルルーシュを殺し、そして自害して終わっていたはずだ。
    「……クソッ」
     調子が狂いっぱなしだと自分を殴りたくなったそのとき、見慣れない服に身を包んだルルーシュが歩いてくるのが見えて飛び起きる。ルルーシュは紙袋を抱えていて、俺の視線に気付くや否や歩く速度を上げた。
    「待たせたな」
    「……それは?」
    「お前の服だ。適当に選んだやつだが、着替えてくるといい」
     紙袋の中には黒いシャツとスラックスが入っている。対するルルーシュも黒のハイネックに黒のスキニージーンズだ。
    「盗んだのか?」
    「まさか」
    「……じゃあこれはどうやって買ったんだ」
    「金を持っていそうな男から少々分けてもらっただけさ」
     分けてもらったと言ったときの邪悪な笑みを見る限りでは、まともな方法で得た金ではないのだろう。ギアスが使えない以上、ルルーシュが取れる手段はあまり多くはない。となると身体でも売ったかと侮蔑の眼差しを向ければ、俺の思考を読み取ったのかルルーシュが嫌そうに眉をひそめる。
    「お前が思っているようなことはしていないからな」
    「……」
     まだ俺がルルーシュの奴隷だった頃、命じられるままにルルーシュを抱いたことがある。返り血で真っ赤に染まったままの俺に組み敷かれ、ルルーシュは血の臭いに興奮するのだと言って狂ったように喘いでいた。そんな気が触れたようなセックスをしたのは一度や二度のことじゃない。セックスの相手が何人いたのかまでは知らないが、こいつは一方では人を嬲り殺し、もう一方では乱暴にペニスを突っ込まれて悦ぶ、そういう歪んだ人間なのだ。
    「……人混みで俺の尻を触ってきた男との示談が成立した結果、だ」
    「どうせ先に色目を使ったのはお前だろう、ルルーシュ」
    「人聞きの悪いことを言うなよ。俺は被害者だぞ?」
     わざと人混みに行って、わざと隙を見せたに決まっている。こいつが女だったら稀代の毒婦として歴史に名を残したに違いない。
    「いいから早く着替えてこい。いい加減腹も減ったしな、着替えが済んだら近くの店で何か食べよう」
     言われて初めて俺も空腹だったことに気が付く。このままでは腹の虫が騒ぎ出すのは時間の問題だと、俺は大人しく着替えのために公衆トイレに向かうことにした。



     そうして新しい世界でのスタートを切った俺たちは、その日のうちにルルーシュが善良な市民を知略で騙して金をふんだくり、それを元手にして増やした結果、あっという間に一財産築いてしまっていた。とっくになくなったと思っていた良心が少々痛んだが、これもひとつの結果だ。被害者にはルルーシュに関わった時点で破滅が決まっていたのだと諦めてもらうより他はない。
     特に心配だった住居問題に関しても、ホテルの一室を一ヶ月間借りることで既に解決している。その間に闇ルートで戸籍や身分証を偽造してもらえば、以後は何の憂いもなくここで生活していけるというわけだ。俺一人だったら飯も食えずに野垂れ死んで終わっていただろう。悔しいことに、ルルーシュは敵に回すと恐ろしいが、味方にすれば心強い男だった。
     だからこそこいつが何かしでかさないかを見張っておく必要がある。今はまともそうに見えているが、いつ何時錯乱して人を害そうとするか分からない。ギアスがなくてもルルーシュには悪魔の頭脳が備わっている。ルルーシュがその気になればこんな平和な世界などあっさりと引っ繰り返して滅茶苦茶に出来ることだろう。
     この悪魔が再び世界に牙を向けないよう、監視と抑制のために俺はルルーシュと生活をともにすることに決めた。ルルーシュも異論はなかったらしく、俺がしっかり養ってやるよと得意げに唇を吊り上げていた。
     俺は戦場で生き抜くことに関してはプロと言っても差し支えないが、その代わり金を稼いでごく普通の生活を送るやり方が分からない。軍では一部の人たちを除けば人間扱いなどされていなかったし、学生だったのもほんの僅かな期間だ。ルルーシュの奴隷と化してからは普通どころか悪鬼羅刹の類いでしかなかっただろう。
     この世界に俺の居場所はないのだと、嫌でも感じてしまう。だがこの世界から抜け出す術もなく、俺とルルーシュは微温湯に浸るように日々を送り続けるしかなかった。でもそんな日々は往々にして長くは続かない。
     均衡を崩したのは、やはりと言うべきかルルーシュだった。


    「スザク、俺を抱け」
     ワインボトルを半分ほど空けたルルーシュが、テーブルに頬をつけて突っ伏したまま呪詛と思わしき言葉を吐いた。奴隷時代にルルーシュから何度も聞いた言葉だ。そのたびに俺は「イエス、ユアハイネス」と答えてルルーシュを抱いた。
    「断る。もう俺は奴隷じゃない。他を当たれ」
     二人で生活するようになり彼此もう二週間。その間俺たちはプライベートな時間を一切持てていなかった。風呂やトイレはともかく、それ以外の時間はベッドに寝そべっているか机に向かって作業をしているかのどちらか。マンションではなくホテルの一室なのだからそれが当たり前で、ルルーシュが抱けと言い出した理由も十分に理解が出来た。
     要するに自慰をする場所がないのだ、俺たちには。風呂にしたって抜いた後に誰かがシャワーを浴びるとなれば気が引ける。元来潔癖なルルーシュなら尚更だ。だがどんなにストイックな人間でも溜まるものは溜まる。ギアスも使えず発散も出来ないルルーシュに残されていた道は、俺に頼ることだけだったのだ。
    「他だと?」
     ルルーシュが頭を上げて悔しそうに俺を睨みつけてくる。監視下に置いているといっても、ルルーシュの外出を禁止したり行動を制限しているわけではない。男漁りなら好きにすればいいという意味を込めて「そうだ」と言えば、ルルーシュはキッと眦を吊り上げた。
    「お前、俺を一体何だと思っているんだ」
    「俺を奴隷扱いした卑劣な男だと思っているが? お前こそ、俺を何だと思っていたんだ」
    「俺は……」
     てっきり腹立たしい言葉で返されると思っていたのに、ルルーシュは言葉を探してテーブルに視線を落としてしまった。元の世界にいた頃のルルーシュでは絶対にしなかった態度だ。長い黒髪が滑り、酔っぱらって赤くなった頬と潤んだ目許を覆い隠す。その横顔を見て、俺の胸がなぜだか妙にざわめいた。
    「……俺は、お前を唯一無二の友達だと思っていた。だからナナリーの騎士になるのを拒み、ユフィの手を取ったことが許せなかった。憎くて憎くてたまらなかった」
     それは、思いがけない告白だった。あの日、確かに俺はルルーシュとナナリーの手を拒み、自分にとって楽な道へと、ユフィへと逃げてしまった。奴隷になれとギアスを掛けたルルーシュを憎み、詰りながらも、その起点となった俺自身については見ないふりを続けていた。それを初めてルルーシュに指摘され、唇が震えた。
    「どうせ手に入らないのなら、ギアスで意志を捻じ曲げてしまえばと、そう思ってお前を奴隷にした。だが手に入れたら今度は欲が……違う欲が出たんだよ。ユフィのように俺を見て欲しい、――愛して欲しい、と」
     ずいぶんと酔いが回っているのか、らしくもない懺悔が続く。初めて聞く、ルルーシュの本音だった。
    「だから俺が抱けと命じたのはお前だけだ、スザク」
    「……ルルーシュは、俺のことが好きだった、のか」
    「今はもう、好きなのか、ただの執着なのか分からない」
     髪を白い指で掬い上げて耳に掛けたルルーシュが、俺と視線を合わせてゆっくりと瞬きをする。分からないと言いながらも紫の瞳の奥には見たこともないようなきらめきがあって、それはかつてユフィが俺に向けていた目にそっくりで、ああ、と俺は嘆息した。
    「俺があのとき、ちゃんとお前に向き合えていたら……結果は違っていたのかもしれないな」
     人殺しで醜い自分をルルーシュとナナリーにだけは見られたくなくて、自分の気持ちに蓋をした。それがあの惨劇の引き金だったのなら、ルルーシュを責め続けるわけにはいかない。俺たちに必要だったのは話し合いだ。相手を隷属させることでも怒りに任せて刀を振るうことでもなく、憎しみ合い殺し合うことでもない。互いを理解し合うための言葉と時間さえあれば、きっと俺たちはこんな風になっていなかっただろう。
     そして今、俺たちの前には途方もない時間が広がっている。
    「過去は過去、全ては終わったことだ」
     そう言ってまだ中身が半分ほど残ったワイングラスに目線を向け、ルルーシュは寂しげに微笑んだ。
     もしかすると今の言葉も仕草も全部計算ずくのことかもしれない。狡猾な悪魔のことだ、己の欲を解消するためならどんな甘言だって吐くだろう。今日が終われば気狂いの暴君に戻っている可能性だってある。一度壊れてしまった友情や愛情は元通りにはならないものだ。
    「……気が変わった」
     ルルーシュの骨張った手首を掴む。細くて、力を込めれば折れてしまいそうな――とまでは言わないが、心細くなるほど肉のない腕だった。
    「抱いてやる」
    「……え?」
    「いいから来い」
    「ちょ、まっ……ほわっ!」
     互いに数多の命を奪った罪人だ、今更人並みの幸せなど望まないし、望んではいけないことくらいは分かっている。だからこれは俺とルルーシュへの罰だ。失った何かの幻を追い続け、絶対に得られない絶望に身を投じる罰。そう自分にきつく言い聞かせる。
    「ルルーシュ、俺は絶対にお前を愛さない。だからこれはお前への執着で、俺が人間だった頃の残り滓だ」
    「……ああ、分かっているさ。俺だってそうだからな」
     ルルーシュの目が切なげに揺れた。そこに隠された思いには気づかないふりをして、汚れた指を絡め合い、噛みつくようにキスをする。
     久しぶりに触れた唇は残酷なまでに甘く、それでいてとても冷たかった。
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    DONE業ス×業ル、フィンブルの冬が崩壊して異世界転生、みたいな話です。


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    業業
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    それを絶望と呼ぶ フィンブルの冬が崩壊した。
     あと一歩でルルーシュにとどめを刺せる、俺の悲願が達成する瞬間のことだった。突然足元が揺れたかと思うと、轟音を立てて大地が裂け、その中にルルーシュが落ちていく。映画か何かを見ているような、そんな光景が俺の前でスローモーションで流れていき、ルルーシュの姿はあっという間に見えなくなっていた。
     咄嗟に伸ばした手は空を切り、何も掴めなかったそれを握り込む。殺そうとした相手を助けようとしただなんて、自分でも信じ難い行動だ。ルルーシュを殺すことだけを考えてここまでやってきたのにと、己の愚かしさに肩を揺らした。
    「ははっ……あはははっ! アハハハハハハ」
     世界が壊れていく。地面は最早ぐにゃぐにゃの粘土のようだった。俺は無理やり立ち上がると先程ルルーシュを飲み込んだ暗闇へと足を踏み出す。ルルーシュが死んだ今、俺が生きている理由はない。どちらにしろこの惨状ではフィンブルの冬にいたすべての命はその活動を終えざるを得ないだろう。だったら最期くらいは自分で幕を引いてやる。
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