「先輩、今日はずっとくっついてられますね」
「そーだな」
間近で香る、お風呂上がりの嵯峨先輩の匂い。額を軽く押し付けて甘えるように
すり寄ると、先輩は小さく笑い声をあげた。
「俺も甘えていい?律」
「もちろんですよ……わっ」
肩をつかまれ、そのままベッドに押し倒される。上から覆い被さった先輩が、俺の胸に顔を埋めてぎゅーっと抱きついてくる。
「あー……律の匂いだ……」
「っ……!も、もうっ先輩!そんなに嗅がないでください……!」
「ごめんごめん。でもさ、律だって昔初めて俺の部屋に来てベッドに潜り込んでた時、俺の匂い嗅いでたんじゃないの?」
「……っ!それを言われたら何も言い返せないです…」
何せあの時は3年越しの野望を叶えるチャンスだったのだ。流石に昔からしてみたかったからだなんて今更言えるわけないけど。
「ならおあいこだよな?それに、好きなんだから仕方ないだろ」
「うっ……そ、それなら俺だって先輩の全部が大好きなんですからっ!し、仕方ないじゃないですか……」
今でも思い出すと恥ずかしいから考えないようにしてたのに、指摘されるとついムキになって言い返してしまう。先輩は少しきょとんとした顔を見せてから、優しく微笑んだ。
「そうだな。俺たちお互いに大好きなんだもんな」
「そ、そうです……」
改めて言われるとどうしようもなく恥ずかしい。けれど、同時に幸福感に包まれているのも事実だった。思いきり抱きついてぎゅうぅと顔を埋めると、背中に腕が回ってきて優しく包み込んでくれる。
「……しばらくこのままでいてもいいですか…?」
「いーよ。俺もまだこうしてたいから」
そのまましばらくの間、お互いの存在を確かめるように抱き合った。先輩の温もりに包まれているだけで、胸の中が幸福感でいっぱいになっていく。
「先輩……大好き……」
「ん。俺も」
額に先輩の唇の感触がして見上げると、俺も同じように先輩の額に口付けを返した。
与えられるばかりじゃなくて、俺も少しずつでいいから先輩に与えることができるように頑張ろう。
先輩の香りを胸いっぱいに吸い込みながら、俺は心の中で強く決意するのだった。