金曜日、机の上に伏せられたままのお茶碗を避けるように武臣くんの手がリモコンへ伸びる。まだ体が甘くしびれているわたしを抱いたまま、武臣くんがテレビをつけた。さっきまでわたしの中を弄っていた指が、チャンネルをザッピングしてる様はなんだかおかしかった。ドラマ、旅番組、食事、クイズ、音楽番組。選ばれたのは音楽番組で、マックの有線で聞いたことあるバンドがちょうど演奏を始めるところだった。ギターリフから始まって、ボーカルが叫ぶように歌い始める。わたしはあまり聞かないジャンルだけど、武臣くんは鼻歌まじりで聴いている。
「この曲好き?」
「うーん、別に」
武臣くんの腕がわたしのお腹に張り付いて、ゆるゆると撫でられている。薄皮と脂肪の下には、武臣くんのザーメンが私の中で泳ぎまわっている。我が子を撫でるような優しい指に、私も指を絡めた。撫で回されているお腹が、ぐうと鳴った。
「あんなに出したのに、まだ腹減ってんの?」
そう言われて、私は恥ずかしくなった。まだ熱がこもったわたしたちのベッドとは対照的に、頑張って武臣くんが好きなものばかり作ったご飯は、キッチンでもう冷たくなってしまっているだろう。
お風呂にする?ご飯にする?それとも私?なんてばかなことを言わなければよかった。抱きしめられた腕は離してくれなくて、私たちはまたテレビの画面に視線を戻した。次の歌手に変わっていて、さっきとは対照的なバラードが流れる。この曲は私も知っている。KinKi Kidsの「愛されるよりも愛したい」だ。
「俺とシンでさ、ヤンキンキって呼ばれてんの」
「なにそれ」
私は振り返って、武臣くんの顔を見た。鼻の頭にキスをされる。
「ヤンキーのキンキだってさ、クラスの女子にキャーキャー言われてシンはご満悦」
ばかだよなあ、なんて武臣くんは笑った。私と武臣くんは学年が違うから、学校ではどんな様子なのかは断片的にしか知らなかった。
「……それって武臣くんも言われてるんでしょ」
「ま、そうだな。どっちかっていうと俺かも?コウイチっぽいって」
さらり、と髪の毛が額を伝う。髪型は、似ているかもしれない。
「全然似てないよ」
私の言葉に、武臣くんが笑う。
「焼いてんだ」
「焼いてない」
知らない武臣くんの話を聞くと、自分がどうして同じ歳に生まれなかったのかと後悔する。私は全部を見せているのに、武臣くんは全然見せてくれなくて、こうやって時々小出しにしてくる。その度に私はときめいて、また恋をして、自分が惨めになる。でも武臣くんはそれを知っていてやっている。
そして、そんな彼を嫌いになれない自分に腹が立つ。
~~なんか飽きちゃった~~
「ま、でも他の女は知らないけどな、俺の背中に羽があるの」
「お前が付けた俺の背中の傷をさ、更衣室で見せつけてんだよ、他の男に」
「えっ……知ってたんだ」
今まで一度も言われたことなく、どうせ見えないし、と自分の自己顕示欲のためにつけた傷だったので、驚いてしまった。
「シャワー浴びると沁みるんだぜ」
「俺の背中には羽がある、ってな。」
「恥ずかしいからやめてよ」
「お前が俺に傷つけるために爪伸ばしてんの知ってるから」