もしかしたらここは御伽噺の世界なのかもしれない。じゃなけりゃ夢でもみてるんかな…。
風呂上り、下着姿の輝二の髪を乾かしてる最中うたた寝したわけでも、ましてや意識を飛ばしたわけでもない俺の前には、柔らかさより線の細さが目立つちびっ子がちょこんと座っていた。例えるなら、玉手箱を開けたみたいな煙が上り…いや別に経験したことがあるわけじゃないけれども。もくもく立ち上っていった無臭の白煙が消え、その中から懐かしいブレザーが現れた。
ブルセラショップに行ったことはないはずなのに、なんでこの家に女子制服があるんだろうか。あと、いくら輝二が細身だと言ってもこんなちまっこくはないぞ…。驚き、戸惑い…いろんな感情の波に揺られながらどこか冷静でいれるのは、間違いなくあっちの世界での日々があったからだろう。
「………あの、」
「…へ?ああ俺かっ!」
これはもしかしてあれか…?10年前の、まだ中学生の頃の輝二なんじゃ…。警戒心むき出しで、そんでもって怯えてることを隠そうとしながら、目の前の女の子が口を開いた。
「……おじさん、誰…でしょうか」
「おじッ…?!」
おい!誰だよこんな失礼極まりない子に育てた奴!!十中八九輝一だろうけどなっ!!
「俺が育てました」ってにこやか笑顔でVサインしてるアイツの顔を思い浮かべ、頬を引き攣らせながら、怖がらせないよう柔らかい声音で問いかけた。
「…わかんない?」
「…すみません、ちょっと存じ上げないです…あと、ここって…」
「……えっと〜…」
言っても良いんだろうか…映画とかだとこういう場合、未来のことを教えるのはご法度のはず。でもそんなことより、不安げに曇らせてる表情をどうにかやわらげさせたくなった。
「俺、神原拓也だよ。今、24…次で5になる」
「……は?」
「…君は、源輝ニさん…で、あってるよね」
「そっ、そうだ……源、輝ニ…14歳です」
どこのAVのとっかかりだよ。聞かなきゃよかった。心のメモリーにだけ留めておこう。
俺にならって名前と年齢まで教えてくれたガードの甘い中学生が、信じられないといった顔つきで距離を取る。ふっと笑いをもらしながら言葉を繋げた。
「そうだよなぁ…光の闘士で、甘い物が大好きで、ストイックでカッコよくて……タクヤの告白から付き合い出した、彼女のこーじ…だろ?」
大きな瞳を丸め、思い切り息を吸い込んだ輝二がもう一度、今度は大きく「はぁああ?!」と叫び声をあげた。
中2になる前には付き合ってたから言っても大丈夫だろう。安心しろよ、ちゃーんと続いてますよっ。変に乙女思考なとこあるから、「ずっと一緒にいたい…」って言えずにいたことを18の時に聞いた。多分当時からも考えていただろうから、あえて教えてやろうと思った。
「ここは、俺と大人になったお前の家」
「えッ……俺と、たくや…けっ結婚、したの…か?」
「…どう思う?」
「……確信した、お前は拓也で間違いないな。そんな意地の悪い顔するのはお前しかいない」
ひでぇって言いながら肩を揺らして見せれば警戒心が少し解かれていった。懐かしい一人称も、化粧っ気のないつるっつるの肌も、あの頃の輝二のまま。
……待て。これって一歩間違たら事案なのでは…?
よく考えてみろ。成人男性の目の前には、制服に身を包んだ女子中学生だなんて…文字面の犯罪臭がはんぱない。
「とりあえず、このとんでも展開は理解した」
「…やけに物分かりがいいな」
「まあな…だてに進化してきたわけじゃない、俺も…拓也も、な」
やっと見せてくれた笑顔にどくんと鼓動が高鳴った。これはまずい…犯罪者にはなりたくない。断じてロリコンではございません。
「いつまでここにいるのかはわからないが…まあ、どうにかなるだろ」
「さっすがこーじ、こんなんじゃ動じねぇのな」
「…バカにしてるのか?」
本人はぎっと睨みを利かせてるつもりだろうけど、俺から見たらただの上目遣い。ここで笑ってしまったら多分機嫌を損ねてしまう。口先だけで謝ってソファから降りた。何をするつもりだと目線に追いかけられながら向かった冷蔵庫から、俺の輝二が好んで飲んでいるミルクティーをグラスへと注ぐ。ついでに自分用にコーヒーを淹れ、それらを手にソファへと戻った。
「はいどーぞ」
「悪いな、ありがとう」
最近もっぱら白湯を飲むから消費に困ってた所だと、ちみちみ飲みだす姿に内心で礼を告げる。ついでに、輝二のために買ってきたのに「太るからそんなにいらない」って断られた大量のシュークリームも食べてもらおうかな。案の定嬉しそうにぱくぱくと食べ進めるちび輝二に妙な感情が沸く。…これが、父性なんかなぁ。
「ふぅ…シュークリームまでありがとう、ご馳走様。…食べておいてなんだが、よかったのか?」
「いや~正直すげぇ助かった。こっちの輝二がさ、太るからってそんな食わないんだよ」
「…もしかして、大人の俺って…太って、たり…」
「ぜんっぜん?心配になるぐらい細くてキレイだぜ」
「はッ…きっキレイッ?!」
目を点にしたかと思えば、真っ赤になりながら飛び上がった。その拍子にテーブルに足をぶつけ、天のイタズラか、スカートにグラスの中身が全部こぼれていった。
「うわぁッ!」
「おっおい!大丈夫か?!」
「…ど、どうしよう……」
「ああっ、んな泣きそうにすんなって!今すぐ洗うから、とりあえず脱いでっ」
シミにでもなったら一大事だ。一人暮らしと同棲中に身についた家事スキルを駆使してどうにかしようと、大慌てで脱がしにかかった俺の耳に短く鋭い悲鳴が聞こえてきた。
「やッ!!」
「…へ?」
「…やっ…やだぁ……」
気づいたら小さい身体をソファへと押し倒し、ファスナーを下ろして緩まったスカートを手で押さえた輝二が恐怖におびえていた。一気に血の気が引いた俺は即座に飛びのいた。
「あッ!ご、ごめんっごめんねっ!あっあっ…ごめんね?!」
お巡りさん違うんです。決してやましい気持ちがあったわけじゃないんです、信じてください。
細くて小さい身体を更に縮こまらせ、カタカタ震えてる姿に違和感を覚えた。なんだろう…これは。そこで、一つの結論へとたどり着く。
そういえば、"まだ"じゃねぇのかこの時期って…。
輝二の処女をもらったのは付き合って2年目の俺の誕生日だった。じりじりと日差しが照り付ける暑い夏の日。
彼氏彼女になっても俺はなかなか手を出せなかった。そりゃそうだろ、今までの間柄があるんだから。関係が恋人になったとしても、手を繋いだりキスをしたり、そういったことを輝二は大層嫌がった。「女扱いするな」ってさ。女の子なんだからって言葉が嫌いで、勇ましくてカッコいい女の子のことを好きになってしまった俺は、当時は頭を悩ませたものだ。当たり前じゃんか!男子中学生のエロへの探求心をなめんじゃねぇってんだ!
「…ホント、ごめんな…だいじょーぶだから、輝二が嫌がることはなんにもしないよ」
輝一のような物言いで優しく語りかけてやれば、輝二の震えがやっと止まった。10年後のお前は、風呂上り下着姿で「パジャマ忘れた」って出てくるようになるってことは言わなくていいだろう。
再びソファから降りて、今度はラックから普段輝二が着ている着替えを取り出した。
「俺、廊下に出てるから。着替え終わったら呼んでくれる?」
「……」
「…うん、いい子」
胸元にTシャツとハーフパンツを抱きかかえこくりと頷いた。笑みを残し背中を向けた俺に、意を決したような声がかかる。
「なっなぁ!拓也!」
「ん?どした?」
「そっその……あの…」
口を開いたかと思えばすぐに閉じ、もじ…と言いづらそうにする輝二の前にしゃがみ込む。おちゃらけた雰囲気を醸しながら「どうしたー?」と明るく問いかけた。
「……おれ、だって…わかってるんだ…いつかはお前と…その……そっ、そういうことを…するんだってことは…」
「……ー…」
行為に慣れだしたころ「付き合いたての頃のお前の目つきが怖かった」と文句を言われた。そりゃね、だって触りたかったもん。バードキスで真っ赤になる顔面全部にキスしたいと、骨が浮いた柔らかそうな肌に喉を鳴らして。俺のお初は別の女のコに奪われちゃったけども、その経験と映像とかの知識で流れはなんとなくわかるし。心を掴んで離さないコイツを骨の髄までしゃぶりつくしたくてたまらなかった。落ち着けよ、ガキの頃の俺。よくもまあそんな特大感情を抱え込んで生活してたもんだ。やっと開いた身長差で、少し下になった目をちらちらみながら頭の中じゃ「セックスしたい」しか考えてなかったしなぁ…。怖がらせちゃってたのも無理はない。……少しは落ち着け、輝ニがカワイソーだから。
でも、そう思えるのはこの10年があったからで。過去の自分に何かを言えるとしたら「耐えろ、頑張れ!」だけだ。
「怖がんなくて大丈夫だから!俺ってば、今も…昔も、輝ニが好きで好きでたまんねぇってだけ」
「そっ…そう、なのか…?」
「…驚くよなぁ」
「だってお前……目線はうるさいが、その…俺、に、触れたり…しないじゃないか……」
今度は俺の目が点になった。理性を常にフル稼働して失態を犯すまいと振る舞ってたことが、どうやら輝ニを不安にさせてたらしい。
「過去のことはどうしようもないからいいんだよ…お前の、どうっ……ハジメテが、俺…じゃないのはいささか不満だが…」
「……」
「……おれ、のは……お前に…たくやに、もらってほしい…」
勇ましく男勝りな可愛い彼女は、昔も大層愛らしい思考の持ち主らしい。蚊の鳴くような声で告げられた思いに、性的興奮ってより庇護欲が勝った。
「…うっし!おにーさんに任せとけっ!」
「……は?」
「とりあえず、手を繋ぐ事から慣れていこうぜっ」
そう言って差し出した手の平に、おず…っとカサついた指が触れた。繋ぐってよりこれじゃ握手だなと思いながらその手を取る。
「……お願い、します…」
「…ぷっ、きんちょーしすぎ。ガチガチじゃねーか」
「……うるさいなぁ…」
昨日の晩「ちょっとムラっとするから付き合えよ」と風呂場に押しかけて来たのを思い出す。10年って年月って濃いもんだなぁ。
***
洗濯機が回るゴウンゴウンって低い音が廊下の方から微かに聞こえる。それを上回るのが輝ニの叫び声。
「うわッ!てっめ拓也ァ!それは反則だろっ!」
当時テレビゲームといったら64ぐらいしかなかったもんな。薄型テレビの大画面に食らいつき、必死にコントローラーを振り回す姿に頬が緩む。
「へっへ〜ん!こーじとは年季が違うもんでねっ!」
「あああっ!負けたぁ…くそっ!もう一回だ!」
LOSERの文字に悔しそうな表情を浮かべた輝ニが俺の肩を揺すった。興奮しすぎてニキビ知らずの形の良いデコに汗が浮かんでいる。何回でも付き合ってやりたいけど終わりが見えない。
「わあったわあった!ちったぁ落ち着けよ」
「いーや、無理だね。お前をボコボコにするまではな」
「怖い倒置法すね…」
「もう一戦っ!」
「んーちょっと腹減らねぇ?なんか食い物用意するから、その間に風呂入ってこいよ」
大きな黒目を丸める輝ニに、ここでまたしても失言だったと口元を覆った。すでに警戒心は微塵も持ち合わせてないけれども、さすがに男のいる家で風呂に入れは配慮がない。だが輝ニは、その言葉ではなく、別の単語に耳を疑ったらしい。
「……お前、飯つくれるのか…?」
「…そこ?」
「だっだってさ!お前ってっ…俺もだが…料理は苦手じゃないか…」
「「食べて♡」」と差し出したハンバーガーに泡を吹かれたことを思い出す。懐かしい記憶に目を細め、撫でても怖がらなくなった頭に手を置いた。
「簡単なもんなら作れるぞ?」
「おお〜、大人って感じだな」
まあ、輝ニは大人になっても苦手なままですけどね。
冷蔵庫の中身を確認しようと移動する俺の後をひょこひょこと着いてくる。まるで雛鳥だなと、肩を揺らした事には気づかなかったようだ。
「米炊いて〜冷凍してたハンバーグのタネ焼いて〜あとは…よし、これならスープぐらいなら作れるな。今のうちに風呂行ってこいよ」
「……」
「あっスープより味噌汁のほうがいい?」
メニューの選択肢を提示してみるも輝ニは何も言わない。腰を屈め、耳を赤くした顔を覗き込む。
「…なにか、嫌だった?」
「………さすがに、家主を差し置いて一番風呂をもらうのは気が引けるんだ」
「あっなるほど…ふふっ、律儀だねぇ〜」
「っるさい…」
小さい握り拳を腹へこつんと当てそっぽを向いてしまった。何か別のことを言いたいようにも見えたけど、真面目な性格のコイツの気遣いを邪険にするわけにもいかない。炊飯器のスイッチを押してから「じゃあ、先に風呂いってくるな」とリビングを後にした。
***
「………で、どうすりゃいいんだろーかねえ…」
10年以上前に解約した白いケータイはまだ持っている。もしかしたら、また通信が繋がるんじゃないかと心待ちにして。
風呂上がりに引っ張り出してくるかと思いながら、顔面に湯船のお湯をバシャリとかけた。一息ついて、長湯する気もないしと身体を上げた時、扉がコンコンと叩かれる。
「……へ?」
「……たっ、たくや…?」
「どうした〜なんかあった?」
問いかけに返答はない。うーとかあーとか唸り声はあるけども。
すりガラスの向こう側の人影に「開けるぞ」と声をかけ、隙間から顔だけを覗かせる。さすがに裸体は見せられない。
「ひッ」
「…驚かせちまった?」
「いや……大丈夫だ…」
一歩後ずさった輝ニの足が踏ん張りを利かす。ゆでダコのようになりながら、ゆっくりと口を開いた。
「……おれも…………はい、る…」
「……あっ、うん、そだね?」
「…わかってないだろ。………今、入ると言ってるんだ」
「へ………へッ?!」
変な体勢を取っていたってのもあって、驚いた拍子につるりと滑り扉へと頭をぶつける。がしゃんって音の後ろで輝ニの驚いた声が聞こえてきた。
「びっくりした…おい、大丈夫か」
「…いってェ……」
「くっ…あははっ!何してんだっ」
隙間から捉えた輝ニは腹を抱えながらひーひー大笑いしていた。笑ってくれる分には構わない、それだけ今の俺に気を許してくれてるってことなんだろうから。でも逆にそれで踏ん切りがついたのか「じゃあ、脱ぐから待ってて」と、俺の輝ニの服をばさりと脱ぎ捨てた。
「ちょっ、えッ!待てって!」
「んー?」
「んー?じゃないからッ!おまッ…こーじさんっ!俺、今裸だぞ?!」
「当り前だろ、風呂入ってんだから」
「いやいやいや…!」
隙間から見えた細い二の腕に慌てて扉を閉めた。非常事態だ。
「そんな慌てなくてもいいだろ」
「バッカ!慌てるだろっ!さっきスカート下ろしただけで涙目になってたじゃねーか!」
「…涙目なんかなってない」
「強がっちゃってもぉ…」
「タオル、巻いてもいいだろ?……練習付き合ってくれるんじゃないのか」
「……」
そう言われてしまったらなにも言い返せない。数時間前の自分の発言と、10年前の眼差しを恨んだ。
濡れた毛先から落ちた雫が湯船をぽちゃんと揺らす。一度息を吐ききってから「俺もタオル巻くからちょーだい!」と叫んだ。
程なくしてひょこっと見せた輝二の顔は微かに赤くなっていて、本日二回目の庇護欲を掻きたてられた。
「…お待たせ」
「……あひるちゃんいるぜ?」
「あひる…ぷっ、お前っ成人してるくせにそんなもので遊んでるのかっ」
どう頑張っても緊張させると思ってかけたセリフは、どうやらうまいこといったようだ。少し日に焼けた肩を揺らしながら、差し出したアヒルを受け取った。このアヒルは、俺の輝二がルンルンで買ったやつってのは言わないでおこう。
「…どうしたらいい?」
「どうって……俺の脚の上座る?」
「……」
「…じゃあ、ここ」
膝を割り、開けた脚の間を指させばこくりと頷いて見せた。背中を向けて、バスタオルをぎゅうっと抑えながらスペースへちょこんと収まった。
「…なんか、新鮮だわ」
「そうなのか?…こっちのおれと一緒に入ったりとか…」
「入る、けど…すぐ俺にもたれ掛かって『いい背もたれだ』って言うんだぜ」
「……」
もうのぼせたのかと見間違うほど耳を真っ赤にさせた輝二が、苦笑しながら振り返った。
「その、なんだ…すまない…?」
「べつに気にしてねーよ」
妙に気を遣う姿に思わず吹き出してしまった。本来コイツは甘えたり頼ったり、そういうことをしない奴だった。けど共に過ごす時間が長くなって、それこそ一緒に住むようになってからはことあるごとに「頼む」と言い出した。むしろ言わねぇかも。当たり前に俺を頼る姿に本能が喜んでしまうのは惚れた奴だからで。背もたれになるぐらい…「さくっと軽い感じで抱いてくれ」と処理に使われるぐらいは黙って聞いてしまいたい。
「…じゃあ、おれも……」
おずおずと胸元に背中が付けられた。預けるってより付けられた。風呂の淵に乗せていた濡れた手でその頭をぽんぽんと叩いてやる。
「…緊張してる?」
「……多少なりとも」
「…あひるいる?」
「ふっ…ふふっ…ああ、いる」
湯船に浮かんでいたアヒルをかすめ取り、ぶぴっと音をたてながら見せたら簡単に笑ってくれた。その笑い声に、俺にどれだけ心を許してくれてるのかがわかって嬉しくなる。
「…かわいー」
「へっ」
「あ」
やばい、聞かれてしまった。し、形にしてしまった言葉に下半身が反応した。だってだって、だってさぁ!昨日だぜ、この場所でアイツを抱いたのはっ!ノリ気じゃなかった俺をその気にさせることなんか輝ニにとっては容易くて。簡単に絆されて、のぼせる一歩手前まで愛し合ったのだ。魔性だ。
「ん?…なんか、背中に当たって、」
「マジでほんと気にしないで…あと、お願いだからこっち向かないでくれお願いだから、ホント、お願いだから…」
「あ、ああ…わかった…?」
御伽噺でも映画でもなくこれは現実で。どうやら手中のちびっ子は、その無垢な身体に当たってるモノがなんなのかわからないようだ。それ幸いと、焦りだした顔面を見られないように両手で覆い隠した。
「……〜〜…」
「なっなんだ?どうかしたか」
「…昨日の事を後悔してるとこ……もっと頑張っときゃよかった…」
2発で終わらず、3発4発出しとけばここまで元気にならなかっただろうに。
俺の悲痛な声に心配そうな言葉がかけられた。次の瞬間、ぶぴゅうっと間抜けな音が鳴るからハッと意識が戻ってきた。そうだ、忘れちゃいけない。いま目の前にいるのは未成年。穢れをしらない真っ新で、俺のじゃないこーじ。
「……っし!さっさと上がって飯にしよう!」
「おっおう」
「アイスもあるぞ~?食うだろ」
「…食べたい」
首だけで振り返った輝二が嬉しそうに目をきらめかせている。顔をのぞかせていた欲を押さえつけ、優しく柔らかく微笑み返した。
「…でも、そんなに迷惑もかけてられないよな…」
「だーいじょうぶっ!おにーさんに任せとけって!」
「…どうしよ……お礼、になるかわからないが…背中流してやろうか?」
「もうホント黙っててくれたらそれでいいから」
「あ~すっきりしたぁ…すまん、眠いから寝るな…。あとのことはよろしく頼む」って言ってた俺の輝二さん、早く帰ってきてくれぇ…。