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    さめはだ

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    さめはだ

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    ファッション百合イズ2♀←拓、一

     手触りの良い黒髪が細い指で弄ばれているのを眺めてるしかないなんてあんまりだ。けれど生憎、この間に自然に割り込めるような、話術も度胸も体術なんかも持っていない。……体術ってなんだ?


    「あ、枝毛」
    「え、嘘…切ってくれ」
    「はいはい、お姫様?」

     「なんだそれ」と肩を揺らす輝二の背中にぴたりとくっついた泉が立ち上がる。どうやらハサミを探しているようで、離れた位置に腰掛けた俺と輝一の方へと顔を向けた。それをいち早く察した輝一が「持ってくるよ」と椅子から腰を上げる。

    「はい、どうぞ」
    「グラッチェ!ありがとう」

     ふんわり柔らかく笑い、返事するように輝一も笑顔を浮かべ返す。物腰柔らかいコイツらしいにこやかな笑顔。相変わらず外面は完璧でやんの…。俺もだけど、笑顔を向けられた泉もその真意には気が付いている。この中でそれをわかってないのは輝二だけだろう。本気でばぶちゃん。ほわほわしやがって、気づけよお前の兄貴の怖さをさ。



    『可愛い服買ったのっ!もちろん私と二人でお揃いよ♡今度もっていくわね』

     俺たち四人のグループラインに送られてきた内容にスマホを投げ捨ててしまった。どう見ても輝二個人あてなのにグループ投下しやがった。やるせない思いを八つ当たりされた端末を睨みつけ、嫉妬からくる唸り声をあげる。泉め…煽りやがって!

     数時間後に『もしかして私に言ってるのか?ここ、四人のとこだぞ』とご丁寧に指摘がなされた。わざとなの天然なのか…いっそのこと前者であってほしい。じゃなけりゃ俺は、愛しさとその他もろもろで爆発しちまいそう。

     その今度が来てしまった。義母だといっても母親の存在は大きいみたいだ。どうやら輝ニのぽやぽや加減は母親譲りらしい。箱入り娘こーじちゃんの立派なご実家に足繁く通う俺と輝一。そんな俺達に絶大な信頼を寄せる源母が「輝一君と拓也君が一緒なら心配いらないわね」と、安心しきった顔で源父と旅行に出かけて行った。待ってください、どう考えても愛娘一人きりのお家に男二人はだめでしょーが。
     良心と理性で出した提案が泉も誘うこと。『行く』の二文字とハートマークを抱えたくまのスタンプが返ってきた。即決。まあアイツは輝ニの事がだーい好きだし当たり前か…。当日、最寄り駅で集合した泉の肩には一泊にしては大きすぎるカバンがかかっていた。やぁ~な予感するぜ…。

     リビングに通された後、泉の手によってその嫌な予感は的中した。輝二がお茶の準備をしてくれている最中に「じゃ~んっ、これ見て〜!可愛いでしょ~♡」と披露されたのは、ふりふりでペラペラの布地。薄いすみれ色と水色の生地に見覚えなんかあるわけない。なんだそれ、薄くね…?

    「い、泉…まさか、それ…輝二にも着せるつもりなのか…?」
    「当たり前よ、なんの為に今日持ってきたと思ってるの」
    「しっ、しかしそれは…」
    「なによ輝一〜、ただのネグリジェじゃない」

     額を抑えながら微動だにしなくなった輝一の頭を、輝二がお茶を乗せたトレイでこつんと小突いた。そろりと降ろされた手がそのまま輝二の腰を抱きよせる。首を傾げた輝ニがそのままの状態で、状況を把握できてない俺の方へと問いかけてきた。

    「コイツ、どうしたんだ」
    「俺にはさっぱり…なんか、泉がお前と着たがってる服みてぇなやつ見た瞬間沈んだ」
    「服みたいなやつってなんだよ」

     いまだに腰を抱いたままの輝一に向かって「こら」と小さく宥めたあと、シンプルな四つのグラスがのったトレイをローテーブルに置いた。輝一がトレイごと受け取ろうと手が後を追うから、双子の腕がテーブルに伸びている。戻ってくる最中兄貴の手が妹のを絡めとり、いつの間にか手を繋いだ状態で輝一の隣へと腰掛けた。L字型のソファに俺、輝一、輝二、椅子が曲がったところに泉が座る。横を向けばにこやかに笑う泉の顔がよく見えた。ふふ、ふふふ…とじわじわ広げる笑いの波が不気味だ。

    「こ・う・じ♡これ、一緒に着ましょうね♡」
    「…なんだ、これ」
    「ネグリジェ♡」
    「寝間着か」
    「寝間着ってあんたねぇ…もう少し言い方ってのがあるでしょ」
    「事実だろ?それにしても、なんで輝一はそんな項垂れてるんだ」
    「泉!嘘言うな!それっ本当にネグリジェなのか…?!」

     胸の前で掲げていた泉から、水色の方を受け取った輝二の青白い細い指が布地を摘まむ。広げて全体がはっきりと見えた瞬間俺が悲鳴を上げてしまった。

    「なッ!なななっなんだよそれ…!!」

     ネグリジェってのがなんなのか知んねぇけどさ…なんっつーえろいデザインしてんだそれは…ッ!!

     ぴらぴらの生地はほとんど透けていて、こんなのをパジャマとは呼べないぞ。輝一が自分のスマホを操作して俺の方へと向けてくる。画像一覧に写ってる“ネグリジェ“は、目の前でひらついてる布地よりパジャマ感があるものだった。

     こりゃあ輝二の雷が落ちるぞ。「こんなもん、着れるかよッ!」ってな。案の定、わなわなと震えた輝二が短く吸い込んだ息を一気に張り上げた。

    「バッバカ野郎ッ!こんな下着まがいの物を着れるわけがないだろ…っ!」
    「…そうよね、やっぱり嫌よね…」
    「当たり前だ!」
    「どうしてもだめかしら…私、これを着た輝二とお泊り会するのすごく楽しみにしてきたの…」
    「ヴッ…」

     わぁー輝二さん相変わらずチョロいぞ~。この顔に弱い輝二は泉の策略にまんまとはまりだした。ほだされすぎんだろ。俺が上目遣いで「お願い輝二ぃ♡」とか言ったところで一蹴されて終わりなのによ。輝二の中の優先度は多分泉、輝一>>>俺なんだろうな。だからこそ、輝一と泉の間には静かに火花が散っている。

     目線を迷子にさせた輝二の手を泉が取り、ダメ押しと言わんばかりに「輝二、お願い…」と強請って見せた。

    「……ッああもう!今回だけだからな?!」

     って、先週も言っていましたよ輝二さん。今回も泉の完全勝利。がばりと抱き着かれ、不服そうな表情をしながら俺の好きな女の子がブロンドを撫でた。……俺も頭撫でられてみてぇとか思っちまう…。

    「だが、さすがにこれ一枚というわけには…私のパーカーでも羽織っておけよ」
    「え?なんで…」
    「例え輝一と拓也だとしても露出が多すぎる。危険だ」
     
     なんでその危機感を自分に当てはめることができないのか本当にわからない。お前も…ってかお前こそが俺らのそーゆー対象だってことにそろそろ気づいてもいいんじゃねーのか。おふざけで抱き着いても顔色変えず「どうした?」って言うくせに、泉とハグしようものなら飛び蹴りが飛んでくる。「ふざけんじゃねーぞ拓也ァッ!」って。

    「お揃い着れるの嬉しいなぁ…こういうの初めてよね」
    「なんでそんなこと知ってるんだ…その通りだけども」
    「ふふっ、輝二のことは何でもお見通しよ?」
    「ふっふふっ…なんだよそれ」
    「あと、結構これ好きでしょ」
    「そうだな…うん、嫌いじゃない」
    「嫌いじゃない?!」

     待て待て待て!年中Tシャツとかズボンスタイルの女子力の欠片もない奴なのに(まあそういうところもかわいーって思うあたり、我ながら救いようがないなとは思う)まさかこんな反応が見れるとは思ってなかった。もしかして、もしかしたらプレゼントしたら着てくれたり…?いや、多分それはない。これは泉だから許される距離感なんだろうなと、自分の中で完結させ人知れずため息をついた。

     僅かに高揚を見せる輝二が水色のぺらい生地を大切そうに握りしめ、「そういえば」と口を開いた。

    「夕飯だけど、母さんが用意してくれてるんだ」
    「里美さんの手料理、すごく美味しいから楽しみだ」
    「そうなの?楽しみ~っ!」
    「…足りんのか?」
    「た、多分…」
    「ちょっと!みんなして私の方を向かないでちょうだいっ」

     俺たちの目線が集まった泉が恥ずかしそうにしながら声を荒げた。もしかしたら、夜食を用意するはめになるかもしれない…まかせた輝一。

    「大丈夫だ泉、育ち盛りの男子二人が来るって母さん張り切っていたからさ」
    「…ちょっとこーじぃ?それ、全然フォローになってないんだけど」
    「そ、そうか?すまな、ひゃっ」
    「あんたが食べなさすぎなのよ!ほらっお腹だってこーんな薄いんだから!」

     押し倒さんとする勢いで泉が輝二に向かってとびかかり、勢いが殺しきれず輝一へとぶつかった。輝一を背に支えにした状態で、輝二の腹部がさわさわと擽られる。眉間に皺を寄せながら身を捩り、泉の手を引きはがそうと試みるが全く歯が立たない。「ひゃっ」「やっ」と声を漏らしながらその戯れを笑っている二人に目が釘付けになる。やめてもらってもいいですか???喉が鳴った事に気が付いて、手のひらで目を覆い隠しながら天井を見上げる。

    「いっい加減、にっ…んっ…やめろよっ、ふふっ…おいっ」
    「あははっ、そうね…かわいー輝二も見れたことだし、お夕飯の前にお風呂入りましょうか」
    「そうだな、案内するよ」
    「あら、一緒に入るわよ?」
    「はぁ?!!」

     これは俺の叫び声。叫ばずにはいられなかった。叫び声ってより悲鳴に近い。

    「いやっいやいやいや泉さんや…それはちょーっと調子に乗りすぎじゃ…」
    「そうだぞ泉、輝二も嫌ならしっかり言った方が…」
    「…確かに、恥ずかしくはあるが…どうせ泉は聞かないじゃないか」
    「リスポスタコレッタ!正解♡」

     やれやれと言った表情で、輝二が泉の手を取った。そのまま細指同士が絡み合い、揃って肩を揺らす。えっ、お前ら付き合ってんの?目が点になる。

     輝二はとことん泉に甘い。

    「さあ!気が変わらないうちに一緒にお風呂行きましょ♡」
    「そんなに引っ張るな」

     一緒にを強調してソファから立ち上がった。もちろん手は恋人繋ぎのままで、だ。輝一が息をしていない。

    「じゃあ後でね?…この子、ふわふわに仕上げてくるから楽しみに待ってなさい」

     ブロンドと黒の長髪が緩やかに揺れながらリビングから出て行く様を見送ることしか出来なかった。ばたんと閉まった扉をしばらく見つめ続け、残された無力な男だけの空間でどちらともなくため息を吐き出した。

    「……輝二、喰われないだろうな」
    「……否定できねぇのが怖いところ」
    「……」



     大きなバッグの中身は輝ニへ着せる衣類(服とは言ってない)がぎっしりで、文字通りふわふわに仕上げられた輝ニに感嘆の声を、泉へは感謝の拍手を送ることになった。真っ赤になって怒ったり、楽しそうに笑う輝ニを見れただけで御の字としておこう。

     ……たまには四人でお泊り会ってのも、なかなか良いもんだ。




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    さめはだ

    DONE成長拓2♀
     これが何度目のデートなんてもうわからない。ガキの頃からの付き合いだし、それこそ二人で出かけた回数なんて数えきれないぐらいだ。良く言えば居心地の良さ、悪く言えば慣れ。それだけの時間を、俺は輝二と過ごしてるんだしな。やれ記念日だやれイベントだとはしゃぎたてる性格はしていない。俺の方がテンション上がっちまって「落ち着け」と宥められる始末で、だからこそ何もないただのおデートってなりゃお互いに平坦な心持になる。

     でもさ……。

    『明日、お前が好きそうなことしようと思う。まあ、あまり期待はしないでくれ』

     ってきたら、ただの休日もハッピーでスペシャルな休日に早変わりってもんよッ!!



     待ち合わせは12時。普段の俺たちは合流してから飯食って、買い物したけりゃ付き合うし逆に付き合ってももらう流れが主流だ。映画だったり水族館だったり、行こうぜの言葉にいいなって返事が俺たちには性が合ってる。前回は輝二が気になっていたパンケーキだったから、今日は俺が行きたかったハンバーグを食べに行った。お目当てのマウンテンハンバーグを前に「ちゃんと食い切れんのか」と若干引き気味な輝二の手元にはいろんな一口ハンバーグがのった定食が。おろしポン酢がのった数個が美味そうでハンバーグ山一切れと交換し合い舌鼓を打つ。小さい口がせっせか動くさまは小動物のようで笑いが漏れ出てしまった。俺を見て、不思議そうに小首を傾げる仕草が小動物感に拍車をかけている。あーかわい。
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    さめはだ

    DONEモブ目線、成長一二。
     鍵を差し込んで解錠し、ドアノブを回す音が聞こえてきた。壁を隔てた向こう側の会話の内容までは聞こえないが、笑い声混じりの話し声はこのボロアパートじゃ振動となって伝わってくる。思わずついて出た特大のため息の後、「くそがァ…」と殺気混じりの呟きがこぼれ落ちた。

     俺の入居と入れ違いで退去していった角部屋にここ最近新しい入居者が入ってきた。このご時世にわざわざ挨拶に来てくれた時、俺が無愛想だったのにも関わらずにこやかに菓子折りを渡してくれた青年に好感を持ったのが記憶に新しい。

     だが、それは幻想だったんじゃないかと思い始めるまでそんなに時間はかからなかった。


    『あッ、ああっ…んぅ…ぁっ…!』

     
    「……」

     ほーら始まった。帰宅して早々、ぱこぱこぱんぱん。今日も今日とていい加減にしてほしい。残業もなく、定時に帰れたことを祝して買った発泡酒が途端に不味くなる。…いや、嘘です。正直、めちゃくちゃ興奮してる。出会いもなく、花のない生活を送っている俺にとってこんな刺激的な出来事は他にない。漏れないように抑えた声もたまらないけど耐えきれず出た裏返った掠れた声も唆られる。あの好青年がどんな美人を連れ込んでるのかと、何度想像したことか…。
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    menhir_k

    TRAININGムラアシュ(希望的観測)
    タイトル適当にあとで考えるわ 滴り流れ落ちる水に歪む窓の外の光景を眺めやりながら、己の判断にそっと安堵の息を吐いた。店を早くに締めたのは正解だった。この様子だと、雨は夜通し激しく降り続くだろう。夜の優れた聴覚が雷の声を拾い、ムラビトはそのまま一秒、二秒、三秒、と窓の外に視線を向けたままカウントを始める。六秒目を舌の端に乗せるより僅かに速く、外が昼間の明るさを取り戻した。雷はまだ遠い。
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