これが何度目のデートなんてもうわからない。ガキの頃からの付き合いだし、それこそ二人で出かけた回数なんて数えきれないぐらいだ。良く言えば居心地の良さ、悪く言えば慣れ。それだけの時間を、俺は輝二と過ごしてるんだしな。やれ記念日だやれイベントだとはしゃぎたてる性格はしていない。俺の方がテンション上がっちまって「落ち着け」と宥められる始末で、だからこそ何もないただのおデートってなりゃお互いに平坦な心持になる。
でもさ……。
『明日、お前が好きそうなことしようと思う。まあ、あまり期待はしないでくれ』
ってきたら、ただの休日もハッピーでスペシャルな休日に早変わりってもんよッ!!
待ち合わせは12時。普段の俺たちは合流してから飯食って、買い物したけりゃ付き合うし逆に付き合ってももらう流れが主流だ。映画だったり水族館だったり、行こうぜの言葉にいいなって返事が俺たちには性が合ってる。前回は輝二が気になっていたパンケーキだったから、今日は俺が行きたかったハンバーグを食べに行った。お目当てのマウンテンハンバーグを前に「ちゃんと食い切れんのか」と若干引き気味な輝二の手元にはいろんな一口ハンバーグがのった定食が。おろしポン酢がのった数個が美味そうでハンバーグ山一切れと交換し合い舌鼓を打つ。小さい口がせっせか動くさまは小動物のようで笑いが漏れ出てしまった。俺を見て、不思議そうに小首を傾げる仕草が小動物感に拍車をかけている。あーかわい。
去年の誕生日に貰った黒のキーケースを取り出す前に、輝二が渡していた合鍵を使ってドアを開けてくれた。今朝洗濯した時の柔軟剤の香りが俺たちを出迎え、二人並ぶのには少し狭い玄関でスニーカーから足を抜く。飲み物をいれようと電気ケトル片手に振り返れば「そういえば」と、思い出したかのように口を開く輝二と目が合った。
「なに、どした?」
「昨日のメールなんだが」
「ああ、あれ…」
てっきり、飯のあとに行ったバッセンやら俺の買い物やら、輝二がクレーンゲームで一発でとってみせたお菓子の詰め合わせバケツのことかと思っていた。俺が好きそうな事ばっかだったし、なによりバッセンでハイスコア叩きだした時の満面の笑みがかわいーなーって思って、正直満足いっているんだけども…。
「これのことじゃねーの?」
「お前いくつだよ…」
「バケツ一杯にビックカツとか最高の夢の詰め合わせじゃねぇかよぉ…。で、もったいぶってなんだよ」
「今日紐の下着付けてる」
「ぶッッ」
背中から熱が駆け上ってくる感覚がした。みるみるうちに首筋に到達して、口をはくつかせてる俺を輝二が笑う。「金魚みてぇ」って。
少女の様に幼く、大輪とは言えねーけど愛してやまない花が咲く。形になれてない言葉を発している俺の手がひかれ細指と絡まった。日中ばかすかホームランを打っていたとは思えない指で、きゅう…と一度握られた後そろりと抜かれ、今度は情事の色を蓄えた笑みが向けられた。
「それを解くのはお前の役割だからな」
「う、………っわぁ…」
「くくっ…どうだ?好きそうなことだったか?」
「……勘弁しろって…」
邪魔になったケトルを脇に避け、開いた手で真っ赤になっているであろう顔面を隠す。輝二がよく使っているハンドクリームの良い香りが鼻先をふわりと掠め、言いようのない気分になってきた。いまだにくつくつと肩を揺らす細身が憎たらしく、余裕で指が回ってしまう心許ない手首を掴んだ。
「……」
「なんだよ」
「……それってさぁ…今すぐ見る事って…可能、でしょーか…」
「はあ?ダメだ、風呂入ってからだ」
「やだ」
「やだって…うわぁっ」
細い手首が痛みを感じないよう力を込め、勢いに任せて抱き寄せた。よろけた足元のまま俺の腕の中にすっぽりと納まった輝二を全部を使って閉じ込めて、まっさらな小ぶりな耳へ唇を寄せる。リップ音なんか立てちまったぜ、らしくねぇ。けどそのお陰で目の前の貝殻が真っ赤に染まっていった。さっきまでの余裕綽々な態度がみるみるうちに剥がれ落ちていく。とくとくと高鳴る心臓の音が気づかれませんよーに。
お決まりの言葉は、
「今すぐ抱いていい?」
まあ、たまにはそーゆーのもいいんじゃねぇかなって俺は思うんだよね。