サガシモノ「み、みんな……」
一人、人の消えた船に取り残された最後のクルーが、ごめんなさい、と宙に散っていった仲間達に言った。
先程の会議で、もう一人のクルーを追放したばかり。それでも終わらない。
つまりは、……もう一人残った者はクルーでは無かった訳だった。
「ワタシと二人だけなのに、クルーの勝ちになりませんでしたね。」
「……遺言があるようなら、聞いてやろうカ?」
「可哀想カワイソウ。……どうしました?ボクを追放しないのかい?」
隣にふわりと降りたった黄緑が、絶望しきったクルーにそう話しかけては笑う。笑って、
「ホラ!ご覧なさい。貴方が二人になったヨ!」
パチン、という音と共に、クルーと全く同じ姿に成った。
「シェイプシフター……。」
ひらり、ふわりと姿を自在に変えるこの一体のインポスターの変異種に、クルー達はまんまと騙され抜かれたのだった。
「皆、みんな居なくなってしまったね?」
ケラケラ笑うシェイプシフター。
ひとりぼっち残されたクルーは、いつ殺されるのか身構え、怯えている。そして諦めつつもある。
「殺すなら殺してくれ……」
耐えかねたクルーは言い放つ。
「どうせ僕は生きては帰れないんだろ。」
けれども、黄緑はクルーの予想に反し、きょとんとしていた。
「……何故殺されたいのですか?」
「…………だって、インポスターより弱いクルーが、独りで生き残れるわけが無いから。」
「どうせ、殺される。インポスターはクルーを食べるんだろ……」
「ワタシは貴方を殺すとは言ってないヨ?」
「じゃあ……なんなんですか。非常食とでも?」
黄緑はクルーの返しに少し考えている様子だった。
「……。」
「ほら、結局はそういう事だろ……」
「あーー、カスリもしていないですね。」
「何が、ですか」
「貴方を殺さないワケ、だよ。」
少し雰囲気の変わった黄緑は続ける。
「ちょっとした身の上話を聞いて頂きたかった。それだけです。」
ちゃんと聞いて頂けるなら生きて帰してあげますよ、と黄緑は笑った。
ワタシはずゥと人を捜してるンです。
捜しビト……彼もインポスターなのですが、孤児院からの幼なじみ。そして、少なくともワタシにとっては唯一無二の相棒でした。
ある時、それぞれ別の船に乗ることになってしまって。
……え?何故カ?簡単な話です。あまり一緒に行動しすぎても、貴方たちは警戒するでしょう?そういうコト。
終着の星で合流する予定でして、ワタシはすんなり着きました。新しい船でしたようで、遺伝子検査キットとかも有りましたが……まあワタシには意味が無いものでした。貴方もよくご存知でしょう?
けれども、時間を過ぎても彼は来ませんでした。
彼は約束だとか自分の決めたルールにはうるさい人なので、来ないことに違和感がありました。
それで私は彼の乗り込んだはずの船の足跡を追ってみたんです。けれどもネ?これが中々難しいんです。
船は最期にかなりの激闘の場にされたようで、信号だとかはハチャメチャ。
貴方たちで例えるなら……ダレかにぐしゃぐしゃに食い荒らされた死体を発見したようなものですカね?
そんなもん見ちゃったんだから、流石にボクもびっくりしました。
ちょっとばかし焦りながら信号を捜し続けまして、やっと見つけたのはとても寒そうな枯れた星と、掠れ擦り切れした信号の残りカス。控えめに言って、たぶん死んでル。そういうところで。
え?あぁまだ諦めてはいませんよ。彼は化け物じみた身体能力に体力に……まあ私がカワイク見えちゃうようなヤツなので。雑草みたいにタフなヤツですから、たぶん生きてると信じてますよ?
だからこうしてワタシは船に乗ってるんです。観光ついでに人探し。楽しいゲームとオヤツつきのハッピーな旅ってところですネ。
あ、ほら。星が見えてきましたよ。
惑星No.17654886377。星名は……ДЙЛМЙЁ。……貴方がこの船に乗った訳の星デショウ?
おやおや、ポカンとしてるネ。
ちゃぁんと言ったじゃないデスカ。ボクの話を聞いてくれたなら、生きて帰してあげますよって。
……お話、聞いてくれてありがとうございました。
船は星に降り立った。僕は気絶した状態で倒れていたのをレスキュー隊に発見されて、搬送された……らしい。
気がついた時には黄緑は居なくなっていた。彼か彼女か分からないが、彼女は最初から居なかったかのように、姿を消していた。
それに、彼女はシェイプシフターだから、見付けるのは難しいだろう。
クルー達には、「インポスターと乗り合わせ、一人生き残った悲劇のクルー」そう認識されているようだった。
とりあえず彼女の捜す人が、無事に見つかればいい。そう一人の生き残りは思った。