無題「せんせえさ、なんか俺にしてほしいことないの?」
ここが夜更けの中庭やキッチンであったのなら、ネロのその唐突な問いに対して、ファウストは「ならもう一杯付き合って」と言ったかもしれないし、「明日はきみの作ったガレットが食べたい」と言うかもしれなかった。ただそうはならず、ファウストは意図を掴みかねるとでもいうような純粋な困惑を瞳で語っている。何故なら、ネロとファウストはふたりきり、ベッドの上にいたし、視線は厄災が仄かに照らす部屋の中で湿っぽく絡み合っていたので。
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二人が肉体関係を持つに至った経緯はともかく、ネロがファウストに挿入することになったのは、単に互いが互いの性経験の量だか質だかの違いを推し量ったからだった。元よりたわいない会話の多い二人であるのに、肝心なところは成り行きでどうにかなってゆくのは今に始まったことではない。
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