キツネうどん「なんで食べてるんだよ」
ゴウの悲鳴に似た糾弾の叫びに、サトシも黙ってはいなかった。
「だって、名前書いて置いてあったら、俺の分だと思うじゃん!」
興奮のあまり、サトシの金色の尻尾が大きく振られた。頭部には、同じく金色の三角耳がピンと立つ。内側は炎のようなオレンジ掛かった赤い毛で覆われていた。
「だからって…!」
ゴウはさらに言葉を繋ごうとしたが、適切な批難が見当たらない。サトシの言い分としては、こうだ。
そろそろお昼かという時分にゴウの友人のトキオが来訪。ゴウに話があるとかで、二人で応接室にこもってしまった。
対して俺は、退屈+空腹+手持ち無沙汰。
先にお昼食べちゃうのもなぁ。トキオも、ごはんまだかもしれないし。でも、お腹すいたな~。
って思ってたら、ゴウのサルノリが何か持ってきた。即席麺だ。蓋に俺の名前が書いてある。買った覚えは無いけど。
…。
…。
待ってる間、食べちゃお。
その結果、ピョコンと耳と尻尾が生えた。
「ああ~。ゴメン、ゴウ」
ゴウにカップ麺を渡したとき、リュックの口をしっかり閉めなかったのだろうと、トキオが謝った。
「俺じゃなくて、サトシに言って。元はといえば、俺のサルノリが勝手に持ち出したのが悪いんだし。そもそも、サトシも身に覚えのないもの食べるのも、どうだろうとは思うけど」
ブツブツと文句を垂れるゴウにトキオがかぶりを振った。
「うん、いや、そっちじゃなくて。ゴウはサトシ君のケモ耳、人に見せたくないって言ってたから。見ちゃってごめん」
「それはもう忘れて!」
ゴウの声は間違いなく悲鳴であった。
「いまはもう、それいいから。それより、どうすれば元に戻るかを考えないと」
不満げに唇を尖らせたまま二人の会話を見つめていたサトシが、口を開いた。
「なんなんだよ?一体」
耳が生え、尻尾で感情表現までしている割に、現状を把握しているわけではないらしい。サトシの言葉にゴウが眉根を寄せた。
「耳、違和感ないの?」
目をすがめてサトシを見やり、心配半分、呆れ半分で問いかける。
「頭にあるのはわかるけど、ちょっとくすぐったいくらいで…ゴウ?」
答えるサトシが口ごもった理由は、ゴウの顔が恐ろしく近くになったからだ。
「近い、近い。ゴウ、顔、近いって!」
「フォッコだ!」
整った顔立ちのゴウに詰め寄られ、サトシが珍しく慌てた声を上げるのと、ゴウの声が重なった。
「へ?」
「え?」
サトシとトキオが同時に間の抜けた返事をする。
「見ろって!トキオはアローラロコンだけど、サトシはフォッコの耳なんだ!種族が違うんだ。同じカップ麺なのに!」
まくし立てるゴウにトキオとサトシの口が開いたままになる。
「いや、え?うん。何て?」
「だからぁ!何が原因かわからないけど、結果は画一的なものじゃないんだって!パターンなのか、ランダムなのかわからな、い、けど…」
一瀉千里に述べたてていたゴウの言葉がピタリと止まる。
「そっか。確認するには数が必要だよな」
低めた声で呟いて、トキオに向き直る。
ニッコリと何かを捨て去った笑顔で言い放った。
「シゲルにも食べてもらおう!もちろん、俺も協力するよ!」
「実験体だー」
ゴウの探究心の流れを追ったトキオの悲鳴がこだました。