Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    ぽけ🐥

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 44

    ぽけ🐥

    ☆quiet follow

    ケモ耳トキオとケモ耳シゲル

    隠しておきたいアレやソレ味は普通だったな。
    スープまで飲み終えたタイミングで、頭部に違和感を感じた。むず痒い感覚に手を伸ばしたところでバネ仕掛けのように起き上がったそれにぶつかる。途端に、そこから体温を外気に奪われた。
    「ひゃ」
    間の抜けた声が出てしまって、テーブルを挟んだトキオと目があった。頭部の三角耳はこちらにアンテナ宜しく向けられて、大きな目が僕をとらえる。口元にはいつも通り、柔らかな笑み。
    「ああ、いや。驚いちゃって。…けっこう寒いんだね。耳」
    タマザラシの耳が小さいのは放熱を防ぐためだという学説が、説得力をもって思い返される。なるほど。これは、肌で感じなければわからない。
    トキオがふふと笑って僕に手を伸ばしたが、僕は反射的にそれを手で覆って隠していた。近付く腕が、というよりもその周りに生じた空気の揺らぐ音が、怖かったのだ。
    新しく生まれた僕の耳は、恐ろしいほど敏感に空気の流れを感じ取る。トキオから生じる衣擦れ、息づかい、果ては部屋の空調まで、隠微なはずのすべての音が洪水のように僕を包んだ。
    「シゲル君、手をどけて?よく見えないよ」
    何のポケモンになったの?困ったように笑うトキオに、もう少し、音の多さに慣れてからと答えたものの、僕だって自分の耳が何になったのか、早く知りたい。触れた感覚だと、滑らかな被毛に覆われている。でも、少なくともサトシのように耳の内側がさらなる被毛で覆われているタイプでは無さそうだ。
    「色んな音が聞こえて混乱するけど、必要ない音はね、その内に無視できるようになるよ。カクテルパーティー効果って言うんだって」
    トキオ自身もこの感覚を経験したせいだろうか。気分を害した様子も見せず、笑みを浮かべたままそう言った。
    恐る恐る手を離すと、案の定僕の耳は再びぴょこりと立ち上がる。湧き上がる音の波に堪えていると、トキオが息を吐き出した。吐き出された息の、温度までわかる生々しい響きにぎょっとする。人の息が官能的だなんて、考えたこともなかった。
    「ロコンだね。炎タイプの」
    楽しげな響きをもって、トキオが続ける。
    「僕はアローラロコンだから、何だか嬉しいな」
    はにかむ笑顔が嘘ではないことは、彼の尻尾が雄弁に物語る。
    「ロコン?ちょっと失礼」
    あからさまな友好の気持ちの表明は、僕の側でもそうらしい。鏡を見るために席を立つと、気付かなかったけれど臀部にかなりの質量が発生して、パタパタと空を打っていた。気付かれないようにそっと手で押さえるけれど、勝手に動いてしまう。
    …これは、恥ずかしい。普段なら無意識に隠していたはずの感情がダダ漏れだ。自分の体なのに制御がわからないのも不便極まりない。
    「ゴウ?」
    数歩進んだ辺りで、後方のトキオが気遣わしげな声で囁いた。表情豊かな彼の声は、戸惑いと不安と焦燥を瞭然と示す。
    「ねえ?ゴウ?大丈夫?」
    胸に迫る声に、僕でなくとも振り返らざるを得なかっただろう。果たして、振り返るとゴウが席に着いたまま、頭部を押さえて体を縮めでもするように机に突っ伏していた。


    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works