Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    で@Z977

    @deatz977

    グスマヴェちゃんだけをまとめておく倉庫。
    🦆🐺至上主義強火。独自解釈多。閲覧注意。
    (全面的に自分用なので配慮に欠けています)

    ☆quiet follow Send AirSkeb request
    POIPOI 57

    で@Z977

    ☆quiet follow

    Gifts from you.
    ワンライ「クリスマス」で書いたやつ。

    Gifts from you.「今日は来てくれてありがとうな。ブラッドリーのプレゼントも。はしゃぎ疲れて寝ちまってるけど、あいつ、すげー喜んでたから」
    「おれの方こそ、今日は楽しかった。キャロルも、ありがとう。僕までこんな、一緒にクリスマスが祝えるなんて、その……。嬉しかった。……じゃあ、グース、また明日な。遅刻すんなよ!」


     泊ればいいのに、と幾度もされたグースとキャロルの申し出を断って、マーヴェリックは仄暗い街灯が照らす夜道を歩き始めた。
     きらきらした、眩い時間だった。幸せな空間で朝を迎えるのは魅力的な提案だったけれど、これ以上彼らの、家族の時間を邪魔したくない。
     殊勝な考えを巡らせて、いや、そうじゃないな、とかぶりを振った。
     本当は、きっと怖かったんだ。家族のように共に過ごした時間が、翌朝にはブラッドショー家と客人という関係になるのが。それは何ひとつ間違っていないはずなのに、不必要に疎外感を抱くんじゃないかと危惧してしまう。
     幸せな気持ちで過ごしたクリスマスは久しぶりだった。まるで“家族”と過ごしたような嬉しさが胸の中をあたたかくする。明日にはまたいつもの日常が始まるけれど、今日はこのぬくもりを抱いて眠りにつくのだ。

     クリスマスを“家族”で楽しめる日がもう一度訪れるなんて、想像もしなかった。いつからか、祝われなくなったクリスマス。いつから、なんて、そんなこと、わかっているけれど。

     幸せで胸をいっぱいにしたまま歩む足取りは軽い。きっとこれは、最高のクリスマスプレゼントなんだ。


    ―――


    「おれはいいこじゃなかったから、……えっと、プレゼントは、……貰えなくて、」
     クリスマスを間近に控えた時期だった。
     仲間内で騒いでいたクリスマスの話題にぼんやりと適当な相槌を打っていたマーヴェリックの様子は気になっていた。二人きりになったロッカールームでそれとなく話題を振ったグースは、マーヴェリックが口ごもりながら発した言葉に己の迂闊さを呪った。マーヴェリックの過去を、彼の父のことを、家族のことを知っていながら、無神経なことを聞いてしまった。
    「あー……その、悪い」
    「いいっていいって。なーに謝ってんだよ! んなガキの頃のこと、もう気にしてねーし。それよりもさ、ブラッドリーへのプレゼントなんだけど……」
     相棒の息子へのプレゼントを真剣に考える姿は立派な青年なのに、その精神が案外幼いと気づいたのは、一緒にフライトをするようになってからだった。人一倍警戒心が強い一匹狼は、その実、寂しがり屋の甘えたがりだ。
     マーヴェリックの精神的な成長は、ある日を境に歪に進んでいったんだろう。それがいつのことか、なんて、わかりたくもないのにわかってしまう。海軍の汚点。彼の父の死がそう揶揄されるようになって、幸せな家族が瓦解したことは想像に難くない。

     甘えたくても甘えられない子供は、周囲を敵視して自分の心を守るしかなかったのかもしれない。

     家族に愛されるはずだったやわらかな心は、きっとまだ子供の時間を彷徨っている。俺が、少しでも癒してやれたなら――。


    ―――


     幸せな夢を見ていた気がする。
     クリスマスの翌日まで幸福を噛みしめて目覚めたマーヴェリックは、いつもより爽やかな朝を迎えたことで外気の寒さに身震いしながらも軽やかに身支度を済ませていった。
     昨日のあたたかなクリスマスを思い浮かべる。出来合いのものも多いけどな、なんて揶揄いながら、それでも一緒に並べられたキャロルの手料理を自慢するグースの溶けるような笑顔。ブラッドリーにプレゼントを渡せば「開けていい!?」と返事も聞かずに包装を破り始めて、顔をくしゃくしゃにして喜んでくれた。そのうちにグースが得意の歌を披露してくれて、みんなで踊って、騒いで……。本当に幸せな時間だった。

     それもこれも、全部グースに出会えたから得られた幸福なのだと確信している。
     グースとフライトするようになって、なんだかんだプライベートでも付き合ってくれて、家族で過ごすクリスマスにまで呼んでくれるようになった。これまでの自分の人間関係を考えると不思議なくらいに良好だった。
     子供の頃から、どこかで幸福を回避するようになっていた。周囲から向けられる冷ややかな視線。壊れていく家族。心は絶対に満たすことが出来ないとわかっていたから、それは早々に諦めた。誰かに縋ることも、頼ることもしない。そうやって、ひとりで生きていこうと思っていたのに。
     頑なに拒絶していたはずの扉は開かれていて、いつの間にか傍らにはグースがいて、今では、全てを、彼が与えてくれている。

     あぁ、今日も。早く、グースに会いたい。



     いつもより早く着いたロッカールームには、会いたい男の姿が既にあった。普段ならもっと遅くに来るはずのグースはこちらに気づくと妙なぎこちなさをもって「なんだよ、今日は妙に早いな」と軽口を叩いた。
    「早いのはグースもだろ」
     お互い様だと返しながらロッカーを開ける。開いた正面、ぷらぷらとぶら下がる見覚えのないものに、はたと手の動きが止まった。

     小さな赤いサンタブーツ。

     幼い子に配る用途のそれは、確かに子供向けの菓子をぎゅうぎゅうに詰められて無骨なロッカーにぶら下がっていた。
     疑問符を浮かべながらロッカー内に視線を巡らせると可愛らしいサンタクロースとトナカイが印刷されたメッセージカードに、見覚えのある文字が踊る。定番の「メリークリスマス」しか書かれていないそれが、どうしてこんなにも嬉しいんだろう。
     どうしてグースは、おれに、全てを与えてくれるんだろう。


    ―――


    「どうした?」
     隣でロッカーを開けたマーヴェリックの動きが止まってから暫く経った。吊るしておいたサンタブーツには気がついているはずなのに、想像と違ってマーヴェリックからの反応は何もない。「何だよこれ」って笑うとか、「子供扱いするな」って拗ねるとか、色々考えていたのだけど。
     一向に反応がないマーヴェリックに再度声を掛けようとロッカーの扉越しに顔を出す。
     ――あぁ、そんなにも。

     素知らぬ顔をして、一度己のロッカーに向き直る。マーヴェリックの姿が目に焼き付いて離れない。あんな表情を見せられては、こちらまで自然と顔が緩む。
    「マーヴ? 何か良いことでもあったのか?」
     愛おしいものに触れるようにメッセージカードをなぞる指先。泣きそうなほどに瞳を潤ませ、頬を上げてにんまりと弧を描く唇。「ぐーす、」と甘えた響きのコールサインが鼓膜を揺らす。
    「グース、これ!」
     満面の笑みを浮かべて眼前に突き出されたのは見覚えのある菓子入りサンタブーツで、それは間違いなく俺がマーヴェリックのロッカーに吊るしてやったものだった。
    「おれ、いいこにしてたから、」
     だから、と小さくなった言葉の続きを捕らえて少し硬いブルネットをクシャリと撫でる。気持ちよさそうに眼を細めて、笑みが一層深くなった。

    「そうだな。お前がいいこにしてたから、サンタさんからのプレゼントだ」


    ―――


     “家族で過ごすクリスマス”なんて最高のクリスマスプレゼントを貰った翌日に続けて手に入れた最高のプレゼントは、一週間経った今も変わらない形のまま残っている。食べてしまいたいけれど、無くなるのが惜しい。それでも嬉しくて何度もサンタブーツを撫でていると、ついにグースから声がかかった。
    「マーヴ、それ、食わねーの?」
    「……食べたら無くなるだろ」
    「中身はまた詰めればいいじゃん」
    「でも……」
     ちらりとグースを見遣る。サンタクロース本人を前に妙な心地だけど、食べてほしいと思っているのはわかる。プレゼントしたものは、使ったり食べたりしてほしいものだ。
     それなら、
    「グースも一緒に食おうぜ」
    「でも、お前がサンタから貰ったんだろ」
    「そうだけど……」
     ひとりで食べるよりも、グースと一緒に食べたかった。きっとその方が、特別なプレゼントには相応しいから。
    「おれはいいこだから、グースにもお裾分けしてやる!」
    「なるほど……。じゃあ、来年もサンタさんが来てくれるかもな」


     グースが傍にいると、諦めていた心が満たされていく。
     少しでいい。
     いっぱいじゃなくていい。
     それでもどんどん与えられるグースからの幸福は溢れ続けて、おれはもっと貪欲になってしまうんじゃないかって不安で、来年もサンタさんが来てくれるようにって、いいこにしていなくちゃいけないんだった。

    Tap to full screen .Repost is prohibited