幸せはパンの香りとかたちをしている「お話があります、聡実くん」
「なんでしょう」
「今日、前から買い出し行こうて言ってた日なのは分かってるよな」
ふわりと揺らめいて、注がれるお湯に反応して立ち上がる湯気とともに香り立つほろ苦さが鼻腔を突き抜けていく。休日の朝のルーティンとして、コーヒーの香りはすっかりと組み込まれこの家に馴染んでいた。例に漏れず休日である本日も、聡実くんと自分の、同じ形をした揃いのマグカップ二つを用意して、そこに冷めないように白湯を注ぎ温めておくのもすっかり習慣と化していた。
そんないつもの朝、だったはずの本日。コーヒーから始まり朝食の準備に取り掛かろうとしていたところ、それは唐突に訪れた事件だった。
「昨日の夜にはあったはずの朝の分の食パンが、ありません。消えました」
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