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    「雨続、君と」ー 萩松

    前世は龍神様の松田の話。
    ※今世の二人は人間です
    ※DCとは別時空

    元々本にするための原稿ですが、納得できなくて没になりました。
    一応完成済です。
    元々廃棄するかと悩んだものなので、誤字脱字あるかもしれません。

    雨続、君とある神様の小話 小さい頃はオカルト的なことを信じてなかった。見えないものよりお姉ちゃんの方が怖かった。幽霊の類なんて見たことないし、心霊現象にも体験したことはなかった。今思うとむしろそれが不思議だった。近所の有名な心霊スポットに行ってもオレが居ると何も出ないらしい。いつもは絶対心霊現象が起こるところも、オレがいると嘘のように何もでない。小学生の合宿でみんながなにかしら見たと言っていたのにオレだけ朝まで爆睡した。自称霊感ある友人曰く、多分特別の力に守られていると。それならラッキーだなと思っただけでオカルトに興味はなかった。中学生になるまでは。

     中学生になって、クラスの窓から近くの森が見えると気付いた。丁度席は窓際にいた。授業に集中できない時は窓から風景を眺めていた。ふっと緑の中に白い何かが見えた。よく見たら小さい鳥居だった。とても綺麗と感じた。なぜか目を離せなかった。そのせいで先生に怒られた。それでもオレの脳内はその鳥居でいっぱいだった。
     行ってみたいという衝動に駆られて、萩原は神社に行くと決めた。下校の時間になって、萩原は荷物を持って森へ出発した。森と言えと小さな森で、木もそこまで高くなかった。枝の合間に見えた白い鳥居を目指して進み、古びた神社に辿り着いた。管理されている様子がないそこは少し寂しい。萩原は引き寄せたように神社に踏み入れた。鳥居をくくった瞬間、空気が変わった。清浄な空気が流れている。
    (これは……神域ってやつか?)
     清らかな空気を肌で感じながら、説明できない懐かしさを覚えた。気づけば、萩原は冷たい涙で顔を濡らしていた。訳が分からないまま立ち尽くした。理解できていない感情が脳をぐちゃぐちゃにした。思考は混乱した。気付けば周りはしっかり暗くなった。静寂に包まれた神社。萩原は不思議と怖くなかった。むしろ神秘さを感じた。だがさすがにここに居すぎたと気付いて、ゆっくりと帰路をついた。いつまでも帰ってこない萩原を心配して、家族のみんなは探しに行くかと考えていた。何ともないように家まで戻った萩原はお姉ちゃんにこっぴどく怒られた。様子がおかしい萩原に話しかけてくるのはおばあちゃんだった。
    「研二、どこにいたの」
    「森近くの白い神社……」
    「あら。龍神様のところだね」
    「龍神様?」
    「そう。今はもう信仰する人いないらしいね。おばあちゃんも小さい頃大人に教えてくれたから知っているの」
    「龍神様はどんな神様?」
    「大昔、この一帯を守ってくれた神様らしいのね。でも……」
    「でも?」
    「居なくなったらしいのよ」
    「え。死んだってこと?」
    「それは知らないわ。ただおじいちゃん、おばあちゃんのおじいちゃんね。おじいちゃんは龍神様が消えたと言ったの」
    「……」
    「研二?」
    「うう、なんでもない」
     その晩、話を切り上げて部屋に戻った。退廃しても美しく神聖な神社から消えた龍神様。どうしていなくなっただろう。伝説と伝承も残ってないから考えてもしかないがどうしても気になる。

     それから暇さえあれば神社に行った。なにをするでもなく、ただその空間に居たかった。懐かしい空気に包まれたあの空間は居心地がいい。神が居ない神社は悪いものを誘うらしいがそんな空気は一切なかった。よく邪魔するから時々清掃もした。奇妙なことにこの神社を含めて、この一帯は雨降ることが多い。そういえば、興味本位で調べたが龍神は水神や海神に祭られることが多い。もしかして龍神様は水神だったかもしれない。でも龍神様はもういないから残った力とか。それなら龍神様は元々すごい神様だったかもしれない。気付けばオカルト脳になった自分を笑った。昔は全く信じてなかったのにな。それくらいオレはこの神社に惹かれた。

     神社にいると安心する。なぜそう感じたのかオレもわからない。天気がいい時は神社の巨木の下で本を読む。雨が降る時は神社の縁側をお邪魔していた。そんなオレを気にかけて、おばあちゃんは時々話を掛けてくる。
    「研二は本当にあの神社がすきだね」
    「そうかな」
    「いつも行くじゃないの」
    「確かに」
    「どうしていつも神社に行くの?」
    「なんか安心するから」
    「あら。龍神様とご縁があったかもしれませんね」
     そう言われて、オレは嬉しくなった。龍神様のこと何も知らないのに。もう知ることが出来なくてもオレはあの神社が好きだ。中学生の三年間、いつも神社に通っていた。あの神社との出会いはオレにとって一回目のショックだった。

     高校生になって、オレは2度目のショックを受けた。雨の中、高校に向かう途中、ずぶぬれの男の子と出会った。制服を見ると同じ高校の学生だとわかった。慌てて駆け寄って傘に入れてあげた。彼は驚いてオレの方を見た。くりくりした目は空色で吸い込まれるような錯覚をした。雨で濡れてもふわふわを隠せない癖毛と強気を隠せない表情は対比的で印象深い。
    「同じ高校だからさ、一緒に行こうか」
    「え。ああ。サンキュー」
    「オレは萩原、萩原研二。君は?」
    「……松田」
    「下に名前は?」
    「陣平」
    「お! じんぺーちゃんね!」
    「は、はああ? そんな呼び方すんな!」
     初対面なのにあの神社と似ている懐かしさを感じた。正直言って、いままで人に興味がなかった。だから友人付き合いもしないでいつも一人で神社に行った。でも松田と出会って、自分から近づいた。そのまま見なかったこともできないが。学校に向かう短い間、肩越しの温度を感じて、なぜか嬉しさを感じた。魂が喜んでいるみたいで気付かない間に涙が出た。
    「お、おい?どうした」
    「……あれ?」
    「急に泣くな! どこが痛いのか」
    「いや……」
    「ああ、もう!」
     慰めてくれるように松田はオレの頭を撫でた。子供をあやすように。初対面なのに恥ずかしかった。でも松田の手はとても優しく温かかった。いつの間にか涙は止まった、オレたちも目的地に着いた。彼と離れるのは名残惜しい。そんなオレを察して、松田はため息をついた。
    「そんな顔をするな。今から入学式なのに」
    「うん……」
    「ほら。行こうぜ。オレも一年生だ。運が良けりゃ同じクラスかもしれないな」
    「そうだね!」
     一緒に入学式を参加して、オレたちは本当に同じクラスなの知った。まるで運命じゃん。それが嬉しくて先まで泣いていたのにオレは心から笑った。それからオレはいつも松田といた。松田は態度が悪く見えて優しい。いつも不機嫌そうだなと思ったら実は表情豊か。機械の前で無邪気に笑う姿にオレは落ちた気がする。今思うと一目惚れかもしれない。性別なんて関係なく、オレは松田に惹かれた。
    「あ……まだ雨か」
    「じんぺーちゃんって雨男だよね」
    「うるせぇ!お前もそうだろう」
    「じんぺーちゃんの程じゃないしー」
     他愛のない話をする時間は楽しい。いつものように松田を揶揄ったら、声を掛けられた。
    「あの! もしよかったら一緒に帰りませんか?」
     振り向くとかわいらしい女のクラスメイトがいた。女子に優しい主義だが松田との時間は邪魔されたくなかった。それも仕方ないとわかっている。自分で言うのもなんだが顔はそこそこいい、松田もイケメンの部類だ。だから隙があれば女子に囲まれる。うんざり。邪険に扱う訳にはいかないがオレにとって松田といる時間の方が大切だ。毎回上手く躱したが流石に疲れた。癒されたくてオレはあの神社に行きたくなった。松田なら連れて行っていいと感じた。あの場所はオレにとって特別だ。他の人と一緒に行きたいと思ったのは初めてだ。
    「な、じんぺーちゃん。行きたい場所がある」
    「え?」
    「行こうか。あ、ごめんね! 予定があるんだ」
    「え、あ……はい……」
     素っ気ない態度を取った自覚がある。松田もオレの態度に驚いたみたい。そりゃね、よく知らない女の子と松田なら松田を取るだろう。
    「そんな言い方ないだろう」
     ほら。松田は優しい。傍の居心地もよくて、もう離れたくない。自分も執着心がやばいと自覚している。でも好きな子だから仕方ないよね。
    「で? どこに行きたいんだ」
    「近くにいる小さな神社だよ」
    「神社?」
    「そう。中学生の時からいつも行くんだ」
    「ふん」
     
     外野の雑音を背にオレは松田を連れてお馴染みの神社へ。少し時間を空けだが神社の様子は変わらなかった。松田と一緒に鳥居をくぐったら木の葉が揺れていた。まるでオレたちを歓迎するように。今までそんなことはなかったのに。松田を見ると彼は難しい顔をしていた。
    「じんぺーちゃん?どうした?」
    「いや……なんか懐かしいなあ。ここにくるのは初めて筈だが」
     もしかして松田もオレと同じものを感じた?それこそ運命じゃん。縁に結ばれたのかな。そう考えるとニヤニヤが止まらない。
    「なんだよ。気持ち悪い顔をして」
    「ひどい! こんなイケメンなのに……わあー!」
     いつもの間にか、空が曇って、雨降り始めた。萩原と松田は慌てて縁側にいって、雨避けした。ひんやりした空気に触れる肌は寒く感じる。松田を見ると少し震えているのに気付いた。ジャケットなど持ってないからどうすればいいのか少し思案した。考え込んで数秒、萩原は手を伸ばして松田を抱きしめた。
    「っわー! 萩?」
    「こうすれば寒くないだろう!」
     松田の体温は暖かい。寒がりなのに子供体温なのかわいい。雨の音以外二人の呼吸音だけが聞こえている。まるでこの世界はオレたちしかいないみたいだ。雨、もう少し降ってくれないかなと願ってしまう。
    「萩……抱きしめなくても……」
    「えー雨まだ止まないし寒いじゃん」
     腕の中の松田は少し恥ずかしいようで抜け出そうとしている。思わずガン見したら一瞬角みたいなものが見えたような……そんな訳ないか。錯覚だと思うけどまるで記憶が蘇っているみたいに鮮明だ。龍神様の話を聞いたから錯覚を見えたのか。
    「萩?」
    「うう。なんでもない」
     まるでオレの願いを聞き入れたように雨まだ降っている。くっついているとは言え、オレも少し寒く感じた。そんなオレに気付いたのか松田は恐る恐る抱き返してくれた。密着している体から心臓の音を聞こえた気がする。オレと松田もドキドキしていて、もしかして脈あると考えた。そうだといいな。なくてもアタックするけど。

     どれだけ時間が過ぎたのかわからなかったくらい松田の体温を堪能した。これほど自分と松田の雨男体質に感謝したことはない。
    「萩ー離れろー」
    「ええ。嫌だ」
    「わがまま言うな! ほら。帰るぞ」
    「はいー」
     嫌々松田を解放した。ああ、もっと抱きしめたいな。野良猫みたいな松田がこんな近距離も許されたことに優越感を感じる。
    「うん」
     立ち上がって、松田はオレに手を差しだした。訳が分からないまま手を重ねると握ってくれた。そのまま引っ張られて帰路を着いた。男子高校生二人が手を繋いている光景は少し異様だがオレはただ嬉しかった。同時に、松田がやっと懐いてくれたことに感動した。

     あれから妙な夢を見始めていた。まるで誰かの記憶を見るように。でも何故か、他人のことだと思わない。自分の意思で動いている訳じゃないのに視界と触感もリアルに感じて抜け出せない。視点の高さや手足の大きさで十二歳の子供だと推測した。服はひと昔の和服。もしかして前世のやつか?そう色々考え込むと体の主は動き始めた。家らしきところから出て、慣れた様子で歩き始めた。周りの風景は今と違って大自然に囲まれている。変わらない緑の風景を過ぎ、『オレ』は止まった。見慣れた鳥居を潜っていつもの神社に辿り着いた。今と違って神社は廃れてない。人は相変わらずいないが管理されていないからまだ時間が経っていない。柱の欠けた部分は元に戻っているし穴が空いた木板もまだ真新しい。まるでタイムマシンを乗ったような。奇妙な気分になったところで、『オレ』は誰かに話し掛けていた。
    「龍神様! 会いに来たよ!」
    「まだお前さんか。来ても何もないぜ」
    「龍神様が好きだから!」
     萩原は驚いた。だって龍神様の顔は松田とそっくりだった。少し違うのは龍神様の外見は20代で頭から角が生えていた。もっと驚いたのは龍神様の瞳から幼い自分の顔を見えた。萩原は歓喜した。やっぱり松田は自分の運命の人だと。『自分』の目を借りて龍神様を観察した。高貴な着物を纏う体はしっかりしていて、その割に腰は細く見える。松田が着物を着るとそうなるかなと想像をした。
    「なにニヤニヤした顔してやがる」
    「……え?」
    「お前、大丈夫か?」
    「……大丈夫だよ! じんぺーちゃん優しいね」
    「誤魔化すな」
    「いや! 本当に大丈夫だって」
     どうやらまだ夢を見たのか。最近の萩原はずっと心ここにあらず状態だ。夢を見始めてからぼーとしていたが多くなった。松田は心配そうに萩原の顔を覗き込んだ。夢で見た龍神様の顔が重ねたように見えて、萩原は目を逸らした。いくら似ていても、龍神様と松田は違う人だとわかっているから。例え運命だと信じたくなっても二人は違う個体。そんな萩原の思いは知る筈もなく、松田は的外れな考えにたどり着いた。
    「あのな、無理してオレと一緒にいなくてもいいよ」
    「は? なぜそうなる」
    「……好きな人ができたんだろう?」
    「は?」
    「はあああ。もういいよ」
     状況まだ呑み込めないうちに松田はその場から去った。二人の空間だった屋上は萩原だけが残った。仕方なく荷物を片付け一人で教室に戻ったが松田はいなかった。それから松田はオレを避けるようになった。

     あからさまに避けられた萩原はイライラした。それでも夢は見る。夢見る回数を重ねて、『自分』は今の自分と同じくらいの年齢になったと気付いた。視点は高くなった。龍神様の背丈が『オレ』より小さく感じた。まるで今の松田のように。
    「龍神様! オレもう成人したからお嫁さんになってくれませんか?」
    「はぁ?」
    「16歳になったし龍神様より逞しくなったよ!」
    「……お前にはもっと相応しい人がいるぜ。聞いているよ。村の小娘たちに狙われているだろう、色男」
    「龍神様の方がずっと綺麗じゃん! それに……」
    「うん?」
    「龍神様は優しく温かい人だ。そんな龍神様が好きだ!」
    「……人、ね」
    「龍神様?」
    「……お前、そろそろ帰る時間だぜ」
    「あ!本当だ」
     そう言われて、『オレ』は夕陽が沈み始めていると気付いた。いつも通り、龍神様にお別れの挨拶をすると龍神様はいつもと違う表情になっていた。
    「まだ明日! 龍神様」
    「……ああ、さよなら」
     夕焼けの空を背景に、龍神様は悲しそうな顔をしていた。とても綺麗で寂しい笑顔だった。あの日、松田が見せてくれた表情と同じだった。『オレ』は胸騒ぎがした。それから、夢の中の『オレ』は1人になった。まるでいまの自分のように、毎日龍神様を探していた。龍神様は姿を消した。オレは松田と同じ学校だから授業の時間はまだ相手を見つける。『オレ』はただ毎日一人で神社に居た。とても寂しかった。寒かった。
     松田に逃げられている状況は続いて、精神が削られていた。心の安らぎを求めて、オレは『オレ』のように、神社に足を運んだ。同じように縁側に座って、風の音を聞いた。まだ夢を見た。
    「どうして。龍神様は出てこないの。オレが嫌いになった?」
     『オレ』は毎日、神社に行った。周りの人に止められても行った。信仰する人がどんどんなくなったから、わかってくれる人はいなかった。みんな、龍神様のこと見えないから信じてもらえなかった。確かにそこにいたのに。そんな心の悲鳴が伝わってくる。夢は見続ける。
     『オレ』は誰もいない神社に座っていた。天気が悪くなってもそこにいた。ざんざらと耳に伝わる音。雨というより嵐が来た。それでも『オレ』は動かなかった……動けなかった。寒い、冷たい。体の感覚なのか、心の感覚なのか、わからなかった。風に委ねて、『オレ』は倒れた。ああ、こんな軟弱な体だから早く龍神様をお嫁さんにしたいのに。
    「おい! 起きろ!」
    「……」
    「こんな状態に! いつから居た!」
    「……」
    「っち! 意識が朦朧しているな。息は……おい! 噓だろう! なんて!」
     龍神様は倒れた『オレ』の傍に現れた。未だ荒ぶる空を見つめたら嵐は徐々に収まった。松田の、いや、龍神様の焦った声が耳に届いた。高熱が出した体は言うことが効かない。『オレ』はまだ目覚めない。大嵐の中であの状態は危険だとわかる。だから龍神様はあんなに慌てるんだ。映画のワンシーンを見ているみたいで、オレは冷静だった。ああ、『オレ』はきっとこのままだと助からないだろうと。
    「オレより先に逝ってしまうのは定めだ。オレと違って、お前は人間だから。でも……」
    「でも今じゃねぇ。オレはお前を看取りたくねぇ」
     一体何を言っているのだろう。当事者じゃないだから理解できる。できる筈だが『オレ』は理解できなかった。理解したくなかった。だって龍神様は凛々しい顔をしているが涙が零れている。泣かせてしまった。例え今日ここに来なくても命の灯火は弱いのに。それならどの道、泣かせてしまうか。
    「……どうせもう誰にも必要されていない。この力はお前にやる……全部。だからお前だけでも生きろよ」
     吹っ切れた顔で、龍神様は『オレ』にキスをした。単純な口付けではなく、何かが『オレ』の体に流れ込んでいく。生気を貰った『オレ』の顔色は良くなっていた。反対に龍神様は力なく座り込んだ。何も知らない『オレ』は目覚めて、隣にいる龍神様を見て嬉しそうに笑った。
    「ん……龍神様?」
    「……ああ」
    「やっと会てくれた! ずっと、会いたかった……」
    「悪いな」
    「今度はもう姿を消さないで」
    「……」
    「龍神様? もしかして体調悪い?」
    「ああ、ちょっとな」
     龍神様は『オレ』の肩に頭を乗せた。『オレ』は困惑したがゆっくりと龍神様の頭を撫でていた。龍神様は二度と来ないこの時間を大切に過ごしていると感じた。オレもその光景をただ見ているしかできなかった。残酷なことに、時間は止まってくれない。『オレ』が寝落ちしたと気付いた龍神様は静かに離れた。
    「オレの力を分けていたから長生きしろよ」
    「……もう時間だ。お前と出会えて楽しかったぜ。お嫁さんにはなってあげられないが……」
    「もし来世があったらまだ会うぜ……」
     寝ている『オレ』に語り掛けた龍神様。最後は『オレ』の名前を呼んだ気がするが聞こえなかった。空気に溶けるように消えていく龍神様。オレは呆然と彼の消失をじっと見ていた。
    「……あれ? 龍神様?」
     夢から覚めた。きっともう『オレ』の夢を見ないだろうと感じた。『オレ』はきっともう龍神様と会えなかった。わかってしまう。どうしようもない喪失感に包まれた。同時に寒さに気づいた。パラパラと雨の音が立てた。
    「雨……」
     萩原は呆然と灰色の空を見上げた。吸い込まれるように、萩原は縁側から離れて、雨の中に立っていた。止まない雨が萩原に降り注ぐ。水分を吸い込んだシャツとパンツが色濃くになった。ああ、寒い。震えが止まらない。それでも萩原は動かなかった。
    「っ! おい! 萩……萩原!」
    「……え?」
     不意に誰かに呼ばれた。気づけば松田は目の前にいた。片手は傘を持っていて、片手は俺の方を揺さぶっていた。怒ったような悲しいような顔で俺を見つめる松田。思考はどんどんクリアになって行く。
    「……見つけた」
     萩原は松田を抱きしめた。松田が持っている傘は音を立って地面に落ちていた。一瞬何が起きったのかわからない松田は驚いた。何をされているのか気付いて我に返った。
    「こっちのセリフだ! バカ萩!」
    「え? なんて?」
     松田は反抗するじゃなく、抱き返した。冷めきった体を温めるように強く抱きしめた。
    「……松田はずっとオレを避けていただろう」
    「……」
    「……嫌いになったじゃないのか?」
    「は……はあああ?」
     そう。嫌いになったと思った。だってずっとオレを避けた。そうなった理由は見当たらないが人間の心なんてすぐ変わる。松田のこと、探し続けたが聞くのが怖かった。密着した肌から感じる体温があまりにも暖かいから、つい聞いてしまった。
    「オレはいつお前のことが嫌いって言った?」
    「でも……」
    「お前……好きな人ができたみたいだから離れたのによ」
    「待て。じんぺーじゃん? どういうこと?」
    「だからお前が!」
    「いないよ!」
     君以外に。なんてこんな誤解が生むんだ。オレは松田一筋なのに。他の人には興味ないのに。
    「例え好きな人ができても、じんぺーちゃんに避けられる理由がないだろう?」
    「いや、だって……」
    「それとも……じんぺーちゃん、ヤキモチ?」
     にやにやしてしまう。よく考えたらそういうことだろう? 自惚れじゃないよね?
    「んな訳あるか!」
    「照れる顔もかわいいよ」
    「うるさい!」
    「そんなこと言って……ならどうしてオレを探してくれたの」
    「お前の様子がおかしいし……いつもオレを探しに来るのに……」
    「じんぺーちゃん、いや、松田」
    「なんだよ」
    「好きだ」
    「……は?」
     今伝わらないといつにするんだと思った。要するにいつもオレのことを意識しているよな。ずっと気になっていたよな。脈、あるよな。
    「付き合ってくれ」
     今度こそ離さない。あの夢の『オレ』と龍神様はオレたちの前世なのかわからない。きっと答えは見つからない。本当だったら僅かな龍神様の力はまだオレの魂に残っていたと思う。でもそれは重要なことじゃない。オレにとって、重要なのは松田だ。夢の内容は全部心の中に閉まっていい。オレは松田と今を生きていたい。
    「……断る!」
    「えー! なんてー!」
    「……オレは別に好きじゃない」
    「素直じゃないな……そんなじんぺーちゃんも好き」
    「黙れ。帰る」
     松田は腕を解いて、落ちていた傘を拾った。びしょびしょになった今、傘なんて役立たない。松田もそう思ったのか、傘を畳んだ。
    「ほら。帰ろうぜ」
     松田は俺に手を差し出した。手を重ねて、俺たちは帰路に就いた。弱くなった雨はぽつぽつと落ちてくる。でももう寒くない。
    ある神様の小話
     気づけばオレはそこにいた。人々に祀られていた。自分はどこから来たのか自分もわからない。だが人々の信仰で存在していることは理解している。人がいたから、オレがいる。例え彼らはオレの姿が見えなくても。時間に連れ、オレは自然の力が持っていると自覚した。水を操る力だ。信仰する人が増えていて、オレの姿に変換があった。尻尾と角が生えていた。空を飛べるようになった。いつしか、人々から「龍神様」と呼ばれ始めた。
     龍神様として振舞った。極稀にオレが見える人間は現れる。彼らと会話するのは楽しい。でも長くは続けなかった。だってオレは神様で彼らは人間だ。人間の命は有限だ。オレは途方もない年月の時間を過ごした。段々と力振る必要がなくなった。人間は神より自分自身の力に頼った。信仰してくれた人間は少なくなった。立派な社もお世話する人がいなくなった。ああ、もう必要されていないだなと気づいた。全盛期と比べならないが力はまだある。だがオレを知っている人間がみんな亡くなればオレも消えるだろう。変化がない社、時間だけが過ぎていく。
    「暇だ」
     いつも通り退屈な時間を過ごす。そんな時、声が聞こえた。
    「誰? 誰がいるの?」
    「へ?」
    「わー! お兄ちゃん誰?」
    「……龍神様だ」
     誰もいない筈の神社に子供がいた紫色の瞳を持つ子供。綺麗な着物を着ていて、オレの傍に駆け寄った。誰かと話すのが久しぶりだ。
    「龍神様……龍の神様ってこと?」
    「まあ、そうだな」
    「そうか! かっこいいね! 美人だ!」
    「はあ?」
     オレに構わず、彼は俺の手を引いて縁側縁に座った。小さな手がとても暖かい。それから彼とは色んな話をした。神社から出ないから外の世界の話を聞いた。神様に頼らなくても、人は生活できる。そう思うと安心した。オレがいなくなってもみんな幸せだ。気づけば逢魔時に近づいた。
    「お前、そろそろ帰るべきじゃないか」
    「もうこんな時間! オレ、まだ来ていい?」
    「好きにしろ」
     他に友たちいないのかと疑問を持った。彼は察したのか聞いていないのに答えてくれた。
    「オレ、生まれつきの体が弱いんだ。だから他の子と遊ばない」
    「それならここに来ていいのかよ」
    「お家が近いからいいって! それに最近体の調子が良くなっているから」
    「そう」
    「龍神様、まだね!」
    「ああ」
     満面の笑みで手を振り、彼は帰って行った。それから、彼は本当に良く来てくれた。他愛のない話をして、一緒に社を掃除する。偶に何もしない、ただ傍にいる。穏やかな時間は楽しかった。消える前に出会えてよかったと素直に思った。
     
     月日が経つ、いくつの四季を一緒に過ごした。あの時の子供は立派な大人になった。そう気づいたのは彼を見上げる時だった。いつの間にか、体格もオレより逞しくなった。本人曰く、体が弱いなのはかわっていないらしい。それでも彼は村一の美男子。出会ってから変わっていない長めの髪、藤色の瞳。何よりオレに向ける笑顔はずっと変わらなかった。
     いつしか、彼との時間を手放したくないと思い始めた。楽しすぎだ。ずっと夢を見ていた。そんな夢から目覚めるように、彼が言った。
    「龍神様! オレもう成人したからお嫁さんになってくれませんか?」
    「はぁ?」
     その言葉にドキッとしたが平静を装った。ああ、そうか。一瞬でも承諾したいと思ったオレは彼のこと好きになったのか。どうするものか。結ばれることは許されないのに。
    「16歳になったし龍神様より逞しくなったよ!」
    「……お前にはもっと相応しい人がいるぜ。聞いているよ。村の小娘たちに狙われているだろう、色男」
    「龍神様の方がずっと綺麗じゃん! それに……」
    「うん?」
    「龍神様は優しく温かい人だ。そんな龍神様が好きだ!」
    「……人、ね」
     そう。君は人だ。オレは人ならざるもの。流れる時間は違う。本来は一緒に居てはならない。もう離れないといけないんだ。
    「龍神様?」
    「……お前、そろそろ帰る時間だぜ」
    「あ! 本当だ」
     夕日に照らされているかれの姿を見て、オレは久しぶりに泣きたくなった。綺麗だ。もう会えない。目に焼き付けないと。今のオレはきっとうまく笑えなかった。
    「まだ明日! 龍神様」
    「……ああ、さよなら」
     彼は満面の笑みでそう言ってくれるか、明日からはもう会ってあげない。オレはこの気持ちを隠してまま、君の記憶から消えていく。本当はわかっている。オレはただ君を看取って欲しくない。傍にいる覚悟が足りないだけだった。オレは君が言うような優しい人じゃない。

     お別れからオレは逃げた。どれだけ呼ばれても頑として顔を見せなかった。早く諦めて。もうオレを探さないでくれ。同時に、いつでもオレを探してと矛盾な感情も持っている。
     
     彼が横たわっている姿を見て、オレは気付いた。残されるのが怖い。でも自分の全てを捧げても生きていて欲しい覚悟はとうの昔からできている。
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    MOURNING「雨続、君と」ー 萩松

    前世は龍神様の松田の話。
    ※今世の二人は人間です
    ※DCとは別時空

    元々本にするための原稿ですが、納得できなくて没になりました。
    一応完成済です。
    元々廃棄するかと悩んだものなので、誤字脱字あるかもしれません。
    雨続、君と 小さい頃はオカルト的なことを信じてなかった。見えないものよりお姉ちゃんの方が怖かった。幽霊の類なんて見たことないし、心霊現象にも体験したことはなかった。今思うとむしろそれが不思議だった。近所の有名な心霊スポットに行ってもオレが居ると何も出ないらしい。いつもは絶対心霊現象が起こるところも、オレがいると嘘のように何もでない。小学生の合宿でみんながなにかしら見たと言っていたのにオレだけ朝まで爆睡した。自称霊感ある友人曰く、多分特別の力に守られていると。それならラッキーだなと思っただけでオカルトに興味はなかった。中学生になるまでは。

     中学生になって、クラスの窓から近くの森が見えると気付いた。丁度席は窓際にいた。授業に集中できない時は窓から風景を眺めていた。ふっと緑の中に白い何かが見えた。よく見たら小さい鳥居だった。とても綺麗と感じた。なぜか目を離せなかった。そのせいで先生に怒られた。それでもオレの脳内はその鳥居でいっぱいだった。
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