「新学期、二日目」 新学期が、静かに始まった。三年生の0学期が終わり、本格的に春の幕が上がる。
けれど、その始まりは騒がしくも、目新しくもなかった。三度目の春は、どこか擦り切れた制服の袖のように、馴染んだ風景の中に溶け込んでいる。
新しいクラス、といってもその実、知らない顔の方が少ない。名前を呼ばずとも、その笑い方や歩き方で誰かが分かるようになるくらいには、長い時間を共有してきた。
「イトダ、一緒に帰らない? 今日部活ないんだよね」
振り向けば、あたたかい声。春の日差しのような表情。
「……あー、ごめん。ぼく生徒会あるんだ」
その瞬間、何かがふわりと浮かんで、風にさらわれていく音がした。
「あっ、そっか。じゃ、先帰るわ」
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