まずはウサギを捕まえろ チープだ。あまりにもお粗末。
週末に浮かれた者どもで賑わう居酒屋のテーブルで、思いも寄らない相手から告白され、今なんて? と耳を疑う。そんな始まりの小説なんて誰が読むか。
「今なんて?」
だが、現実は、小説のように格好がつくことばかりではない。
その日、デビュー時からの担当である長谷部国重が持ち込んだ企画は、上から目線でも何でもなく、自分にはそぐわないと思った。
小説家日ノ本号の代表作は、時代物の推理小説だ。トリック自体はそう複雑ではなく、周囲の人間模様に重きを置いているのでミステリーというより人情ものと言った方が正しいかもしれない。寡黙な庭師が好奇心旺盛な雇い主のせいで面倒ごとに巻き込まれていく。正反対な二人の関係性と軽妙なやりとりが読者に受けたらしく、あれよあれよという間にシリーズ化した。
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