大人ごっこふと目を覚ますと、午前0時過ぎ。隣にいるはずの体温がなく、俺は慌てて辺りを見渡した。
すると、窓から神々しい月明かりが差し込み、そこに人影を見つける。彼女だ。ブランケットを羽織り、ぼんやりと月を見上げる姿は、贔屓目に見ても美しいと思えた。
俺は彼女の体温が恋しくなり、ベットから抜け出すと、小さな身体をブランケットごと包み込む。項にリップ音をたて、口付けると、彼女はくすぐったそうに笑う。
「ふふ…もう、擽ったいよ」
「起きたらいなかったから、びっくした」
「ごめんね。月すごく綺麗で見たくなっちゃって」
「あぁ…確かに…」
今日、月はこんなにも綺麗だったのか。そんなことすら気づかないほど、最近の自分は切羽詰まっていた。専門学校の課題、モデルの仕事に追われ、今日ようやく彼女と会うことが出来た。
だが、彼女と触れた時、自分の中の理性が焼ききれてしまった。それは彼女も同じようで、2人でベットになだれ込み、そのまま求めてしまった。熱は収まることを知らず、俺と彼女は1つに溶け合う。
気がつけば、現在に至るわけだが、それは奇しくも、彼女の誕生日の前日だった。
日付が変わり、彼女は今日、大人になって行く。
「なぁ…凄いかっこ悪いんだけどさ」
「ん?」
「誕生日と成人…おめでとう」
「ありがとう実くん…1番最初のおめでとうだね」
なんて無様で、不格好なおめでとうだろう。それでも彼女は、嬉しそうに俺を見上げてくれる。
「今日から酒もタバコもOKだな」
「ホントだね!でもお酒は飲んでみたいけどタバコは勇気ないなぁ…」
うーん、と少し小難しい表情でうなる彼女。酒はともかく、タバコに関しては俺も同意見だ。
「まぁ…確かに。酒…かぁ」
「今日…思い切って買ってみようかな」
決意したかのように、うんと頷く彼女に、俺はどことなく寂しさを覚える。誕生日が先に来る彼女は、俺よりも少し早く歳をとる。何だか、置いていかれているようで、気が気でない。
考えても仕方のないことだが、思わず彼女を抱きしめる腕に力が入る。
その腕を、彼女は優しく撫でてくれる。まるで、大丈夫だと言わんばかりに。
「私1人じゃ不安だから実くんも来てくれる?」
「…未成年ですが?」
「もう、意地悪するっ」
「ハハ…悪い…行くよ」
彼女の肩に額を乗せ、ぐりぐりと頭を擦り付ける。子供っぽいと言われてもいい。今は、彼女に甘えたい気分なのだ。
彼女は、また擽ったそうに身を捩るが、されるがまま。次第に、楽しくなってきたのか、心地いい鼻歌が聞こえてきた。
俺は、その音色に耳を傾けながら、彼女との素敵な1日を、どう過ごすのか思考を廻らせる。
彼女にとって、幸せな1年となりますように。
end.