旧友じっとりと重さを持った手袋を外す。
年季が入りひび割れた合皮が血液を吸い、かつての光沢を失っていた。
生白い手が露出する。
手袋ををずっと付けていたせいか肌がかぶれていた。いつか揉み合った時に力を入れすぎたのか、爪が割れて血が出ていた。
目視してやっとその痛みを認識した。
最近感覚がおかしくなっている。
鈍っているのではない。まるで体が痛みを感じることを忘れているかのように、怪我をしていると頭で認識しなければ傷に気付きもしないのだ。
商店街の方から濁った煙が出ていた。
段々と風に溶け、寺尾の元には香ばしい香りだけが届いた。
焼き鳥屋か何かがあった事を思い出す。
排気口から立ち昇る煙を眺めた。最後に食事をした日はいつだっただろうか。
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