Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    Sak_i

    二次創作【腐】
    https://twitter.com/pulsate_s

    リアクションありがとうございます!!

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 511

    Sak_i

    ☆quiet follow

    ウタカネ(未完物)

    ##他版権
    ##テキスト

    毎朝、自分の赫い眼を確認するのが日課だ。



    あか が 消 え る 日

    2014.06.01-2015.05.03



     シャンプーはいつも朝方にする。冷や水で。
     マスク屋として東京4区のアンダーグラウンドに「Hy-Sy」というスタジオを構える喰種ことウタは、ならば夜行性として生きていたい。しかし人間社会の中で仕事をするには日中 店を開けている方がいい。何故なら人間の1日は夜明けに始まり、日没に終わるからだ。
     とは言え数十年前と比べると夜通し光る店が増えたとか、そもそも残業で帰れないなどの理由で、日没からかなりの時間が経ってもその日を終わらせず、夜が明けるまで遊び、働き、そして一日一日の境もなく仕事や学校に行くような人間も増えているのだろうけど、それでもやはり人間の基本生活は昼にある。大抵の店はそれに合わせて開店しないと商売にならない。
     人の活動し始めるより先に準備し、整ったら人を呼び込むのが普通の客商売だ。
     しかしその点、マスク屋というのは少し特殊だ。朝一で客が訪れるような爽やかな店ではない。新規の客が気が向いたと言ってフラリと立ち寄ってみるような場所でもない。客の密集する時間帯というのも、特にない。マスク屋に訪れる客の基本は、こと“喰種”のウタが経営する「Hy-Sy」に至っては有事の際に正体を隠したい喰種(仲間)たちで9割を占め、たまにやって来る人間の客もデザインやファッションとして特殊嗜好的にマスクを愛好する“変わり者”だ。
     そう言った客層はウタと同様に夜型を好む者が多いため、あまり早い時間に開店している必要もない。かと言って完全深夜営業にしてしまうとそれこそ本当に限られた客しか掴めず経営が成り立たなくなるし、マスクを制作する時間も取れなくなる。結果「Hy-Sy」は13時開店の21時閉店としていて、スタジオのほかにマンションの1室を借りてなんとか生活できるくらいには商売が成り立っていた。
     店仕舞いは21時だが、ウタの仕事はその後にもある。と言うより、その後に始まると言ってもいい。マスクのデザインや、それを形にする作業は深夜の方が捗るのだ。
     店をオープンしている間は基本的に接客や、材料の発注だけの仕事だ。まぁ、マスクを造るにあたってクライアントのことを知る作業(接客)もデザインする上で大事な工程と言えばそうなのだが。たまにスケッチブックを拡げて鉛筆を持ってもみるが、昼間は何故か集中できない。日の当たらない、外の生活音も遮断された地下のスタジオでも、どこからともなく漏れてくる明るい昼の空気が、気に障ってどうにも落ち着かないのだ。
     夜は良い。鎮(しず)かで。
     ノイズが消える。煩い気配たちが寝静まる。同時に危険なニオイがざわりと起き出す。月の視ている鎮かな街に美味そうな肉の香りがふわりと漂って来た時などは、どこかで生きようとしている仲間(喰種)の存在に ある種のシンパシーを感じて昂揚する。
     店を開けている時間帯よりも物に触っている時間の方が自分本来の仕事をしているように感じる。それは職というより趣味としての意味合いの方が強い所為かもしれない。ともかくマスクを創るが好きなのだ。
     作業がノッている時は夜通し繕っていることもある。アートには勢いと直感も大事だ。相手(クライアント)があるから気のまま好き勝手、というわけにもいかない部分はあるのだが、デザインする時もそれを形にする時も、手の動く時にちゃっちゃと仕上げてしまう方が出来がいい。少なくとも創り手としては、何日もかけて拘った末に出来たものより、一晩でさっさとやってしまったものの方が満足のいくことが多かった。やっつけ仕事でいいというわけではなくつまり手が早いというのは調子が良いという事なのだ。
     そういう時の作業は本当に楽しくて、必要で徹夜をしているというより気が付いたら夜が明けている。腹は減らない。口淋しさに無性に喰いたくなる時もあるものの、腹が満たされると創作意欲が落ちるから我慢する。太るし。
     とにかく、そうしてウタの夜は遅い。寝る前に必ず風呂には入るが、頭は洗わない。頭は翌朝、髪を整える前に洗面台の冷たいシャワーで洗う習慣だ。時間は朝の5時から11時までと疎らだが、一発で目が覚める。そして洗面台の鏡ごしに自分の赫い眼を見て、何故だかいつも、ほっとした気持ちとがっかりしたような気持ち半々に新しい1日を始めるのだ。


     “カネキくん”という“客”が行くから、彼のマスクを作ってあげてほしい。
     20区に暮らす喰種の“総締め”に依頼されたのは、巷で噂の“大喰いリゼ”が事故で死んだという、少し賑やかな事件から ひと月ばかり経った頃だった。
     すでに別の客を抱えていたため、手の空く日を指定すると、ならばその日に向わせる、と、老公・芳村が言った。芳村はウタが顧客の“人”を見て、造ることを知っていた。
     “彼は喰種になってしまった人間なんだよ。どうか、そのつもりで接してやってほしい。”という注意を付け足され、ウタは丁重に対応することを約束して電話を切った。
     “喰種になってしまった、人間”。 、、知ってた。
     喰種の世界に新しく、“隻眼”が現れたという“噂”。
     元人間で隻眼の半喰種、その情報だけでウタはもう“カネキ”という存在を気に入ってしまった。アーティストというのは大体、他者なり自己なりヒトの抱え込む闇を喰らって生きている。半喰種という奇異な存在は、それを創った背景含めて闇深く、興味が深く、そそられる。
     対面(あえ)る日が楽しみで先客の依頼に集中できないのには困った。職人として失格である。
     どんな風に出迎えようか、毎日のように考えた。コスプレをしようか、爆竹を仕掛けてみようか、花をスタジオいっぱい降らせてみようか。日に日に心が弾んで、おやつに取って置いたペニスを3つも食べてしまった。
     果たして対面した彼は とてもかわいらしかった。
     初めの登場で驚かせた所為もあるけれど、おどおどとして初々しい。その素人っぽさは、喰種の世界への無知と彼本来の人格だろう。たぶん童貞。
     擦れていない感じが新鮮だった。ウタの周りは自身を含め、変に世慣れて腹の汚れた輩ばかりだったから。
     と言っても喰種に生まれて清らかな人格の育つ方が珍しい。喰種に生まれたというだけで人生はウルトラハードモード。人間社会で生きるにはコネが無ければ基本的に詰んでいる。教養や品性などは到底疎遠な位置にあり、隠れることを余儀なくされる、安らげることのない生活。当然、精神も荒んでく。喰種は主に病んでいる。
     言ってしまえばDQNの集まりだ。
     そんな世界に紛れ込んだカネキは純白の、殻から生まれた醜いあひるの子のようだった。
     今は喰種になったとは言え、その人格はまだ人間寄りである。それもかなり純朴な部類の。
    「…何やってんですか、ウタさん」
     第一声に呆れた言葉を発したのはトーカだ。人間社会で“女子高生”をがんばっている喰種の少女。芳村の店で働いている彼女は、カネキの案内役として来たらしい。
    「……ビックリさせようと思って」
     結局、隠れて突然“バァ!”っと登場してみたのだけれど、カネキは予想外に驚いてしまって、鈍くさいコみたいに後頭部から転んでしまった。
     喰種でそういう反応をくれるコはそうそういない。まだ、警戒心が足りないな。
     カネキは成人近い男子らしいが、トーカの方がナイトに見える。(それなりに似合っているようにも見えるけど。)(いつでも気張っているトーカには、それをふんわり包むか丸め込んでくれるような、にぶい彼氏が良いと思っていたから。)
     変わった匂いがする。
     半分は美味しそうだけど、もう半分はあまり近付いてはいけないニオイ。禁断の果実のそれに似た。
     一度も染まったことのなさそうな黒髪。ボディラインを隠した服装。野暮ったささえある外見の中、左目にかけられた眼帯が印象的だった。
     趣味かと問えば、空腹時に赫眼の発現が抑えられないからだと言った。
     赫眼。喰種である証。
    「食べればいいのに?」
     腹を満たせばカンタンなのに、――“あんていく”に保護されてるなら、食糧の調達も難しくはないはずだ――不思議な苦労をするコだな、と、思っておやつの目玉を差し出すと、カネキは青い顔でそれを拒んだ。
     隠されていると暴きたくなるもので、カネキはまだ自分が喰種であることを受け入れられていないらしい。だから人食を拒むし、赫眼を隠す。まるでそれらが穢れたことであるかのように。
     つまりは性器だ。カネキの左眼は彼の恥部、誰にも見られたくない部分。
     どうしてもそれが見たかったから、マスクは左目の覗くデザインにした。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works