Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    Sak_i

    二次創作【腐】
    https://twitter.com/pulsate_s

    リアクションありがとうございます!!

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 511

    Sak_i

    ☆quiet follow

    ハチヤス。原作準拠・捏造多め。スタート時の時間は6度目のライブ以降です。少しどこゆびの仲が深まった程度。1話目はまだハッチンとジョウしか出てません。

    ##テキスト

    【蜂と烏】 ①『左の者、1週間の停学処分とする。――1年花組 ハッチン』


    【蜂と烏】 Scene 01


     学生用掲示板の真ん中に貼りだされた報せを、しかし気に留める生徒はいない。
     昇降口のすぐそばに設置されている掲示板は誰の目にも留まりやすく、誰からも素通りされやすい。
     何ヵ月も前から貼られたままの部活勧誘ポスターや学園行事の案内はらくがきで塗り潰され、貼り替えられる素振りはなかった。気付けば新しくなっているものと言えば、この張り紙のような生徒の停学処分通告だ。
     校舎脇に建てられた小さな用務員室に、始業時間から遅れてその細身は登校した。
     本来なら校舎に姿を見せるべきではないハッチンだったが学校を休ませれば街中で遊び歩くだけだろうという教師側の予想から、停学という体をとって用務員室で1週間分の課題を言いつけられたのだ。
     他の生徒らと鉢合わせしないために登校時間はズラされ、いつもより遅い時間まで寝ていられたものの、そのぶん昨夜は夜更かししたため、だりー…と欠伸が零れる。
     『うさぎ小屋』と名付けて仲間内で冷やかしていた用務員室の中に踏み入れることに複雑な感情を抱きながら入口のドアを開けると、そこに用務員ではなく見知った影があることにハッチンは驚いた。
    「ファ!? ジョウ!?」
     簡易的な流し台の備わった8畳一間の用務員室、その真ん中に置かれた円卓に、狭っ苦しそうに胡坐をかいているのはハッチンのバンド仲間であり、同じくDO根性北学園に学生として通っているジョウだった。
     自分以外の学生が。しかも顔見知りがこのうさぎ小屋に居るとは思いもしなかったハッチンだったが、ジョウはジョウで現れたハッチンに驚きを隠せない表情をしている。
    「ハッチン、――"停学処分で課題をやりに此処に登校してくる生徒"ってのはお前だったのか」
    「あー、まーな。つーか何でジョウもココにいんだよ。ジョウも停学?」
    「お前と一緒にすんな」
     持っていた荷を下ろしてハッチンはジョウの向かい側に座り込む。ジョウは教科書ではなく公務員試験とかいう参考書を広げていて、卓は胡坐で座っても低かった。
    「留年も三年目となれば残ってるのは俺くらいだからな、テスト以外の幾つかの授業は免除されててよ。浮いた時間、ココで勉強させてもらったり仕事を手伝わせてもらったりしてんだ。用務員の手伝いをするって条件で足りてねぇ体育や技能の単位を補填してもらってるし、少しだがバイト代ももらえるしよ」
    「ふーん。そーいやたまに教室からジョウが草むしりさせられてんの見るわ。ワリ―ことして罰受けてんのかと思ってたぜ」
    「だからお前と一緒にすんな」
     ハッチンの課題のために広げた本やペンケースを除けるなど気を遣いながらジョウが苦笑する。
    「生徒の中には、俺のこと用務員だと思って挨拶してくるヤツもいるんだよな」
     敷地周りの除草や花壇の管理、軽度に破壊された校舎の修復など、主にDO根性北学園の環境整備を請け負っているらしい、うさぎ族の用務員。その仕事の手伝いをしているジョウも一部の生徒からはもう一人の用務員だと認識をされているらしかった。
     ジョウは一週間ほど停学処分の一年が課題をするのにこの用務員室を使うから、サボらないよう監視を頼むという意味であらかじめ話をされていたらしい。まさかそれがハッチンだとは、聞いてもいなかったみたいだが。
     停学処分を言い渡された時、まだムシャクシャが治まらないから街に出て目一杯遊んで、発散しようと思った。それを見越され校舎脇にひっそり佇むウサギ小屋での課題を命じられ、メンドくさくて、ダルくて、やってらんねーと思っていた。
     しかし同じ場に知り合いがいたとなると別だ。気は楽になって、テキトーにやって、テキトーに終わらせりゃいーかくらいの気持ちにはなってきた。
     しかも居たのはジョウだ。バンド仲間だ。課題に厭きれば、バンドの話だって出来る。
     街中で、ゲーセンで、遊び回れこそしないものの思わぬ余暇をもらった気分になる。
    「で、お前は何をして停学になんてなってんだ?」
     とりあえず課題を卓袱台に広げてみたハッチンに、今度はジョウから訊いてきた。ハッチンが今、このウサギ小屋に居る理由を。
    「ンなもん、喧嘩に決まってんだろ」
     一瞬、正直に話すか迷って結局ハッチンはケロリと白状した。
     隠したってどうせ噂話か何かでバレる。ハッチンが病院送りにした三年のこと。二階の便所がまた一つ破壊され、休み時間のたびに勃発するだろう便所戦争のこと。
     停学という処分を受けた以上は良い事をしたわけもなく。何より自分たちの間で喧嘩や乱闘など日常茶飯事で、今更そのうちのひとつを隠蔽したところで何も変わりはしない。
     しかしながらハッチンがあまりに平然と答えたためにジョウは呆れた顔をした。
    「お前なぁ…」
    「しょーがねーだろ!! だってよぉ…!!」
     停学で済んだからいいものを。その喧嘩でハッチンがイッパツ退学にでもなろうものなら、一蓮托生でバンドをしているジョウや仲間たちの今後も危ぶまれるのだ。
     そもそもすでに退学を突き付けられて奉仕活動という名のバンドをすることでそれを免れている自分たちの身には、最近のDOKONJOFINGERのライブ実績を加味してもその不良行為が停学処分で済むというのは温情中の温情だ。
     本来ならとっくに学校を追い出されていても文句は言えない。
     理解してんのか、と責めるようにジョウが言えばハッチンは反省した顔を見せながら、それでも「しょうがねぇだろ」と言い訳を零す。
     仲間たちのこと、考えなかったわけじゃない。
     自分の処分なんていうのはこの際、どうでもよかった。学割が使えなくなることなんて、些末なことだった。自分の所為で仲間たちまで道連れの退学処分になるかもしれないことだけが気掛かりだった。それでも、我慢が利かなかったのだ。

     数日前。
    『――死神八咫烏の……』
     次の授業のチャイムが鳴りそうな ぎりぎりの時間に、始まっちまってもまーいーかと用足しに行った男子トイレで耳にしたのは、幼馴染の名前だった。
     正しく言えばあだ名だが、少し前までは誰と喧嘩をし、誰をカウンターで伸したとか物騒な噂の中でしか聞こえて来なかったその名前が、バンドを始めてからは耳触りの良い話題の中にも上るようになってきた。
     良い話なら聴いてやろうと耳を立てたが下卑た笑い声とともに聴こえてきたのは、死神八咫烏を陥れようという画策だった。
     ヤスが三限目の休み時間は必ず早弁をしに屋上に居ることを知り、そこを狙って複数人で強襲しようという計画だった。
     入口を塞いで逃げ場をなくして、目障りな死神八咫烏を。オンナノコにしてやろーぜ。
     その言葉の後は何を聴いたか、自分が言ったか、憶えていない。奴らの叫びも自分を制止する周囲の声も耳になんて入らなかった。
     遠い救急車の音だけが試合終了の合図みたいに冷静に響いて、気付けば拘束された校長室で停学処分を言い渡されていた。
     病院送りになった三年らにも非があってのことだと、校長は慮ってくれたのだろう。それでも受験を控えた三年らの両親からのクレームは抑えきれず、体裁としてハッチンを処分するしかなかった。
     事情をひと通り聞くとジョウも溜飲を下げ、目の前で課題を広げる不器用な後輩に苦笑した。
    「そういうことを素直に話してやれば、ヤスだってお前のことそう嫌ったりはしねぇんじゃねぇのか?」
     普段あれだけ『うぜぇ』だの言われて冷たくあしらわれても仲間のためにそういうことをしてしまうハッチンを。知ればヤスだってもう少し、ハッチンに対して軟らかくなるのではないのか。
     『幼馴染』にしては仲が悪く、いつも喧嘩し合っている後輩のふたりについて思うことをジョウが言えば、ハッチンは豆鉄砲を喰らったように目を丸めて、呟いた。
    「ファ…? オレ…嫌われてる…?」
     ヤスに『うざい』だ何だと言われて逃げ回られてもそれはヤスの性格で、自分が嫌われているわけではないと受け止めていたハッチンは、ジョウに言われた言葉が地味に衝撃的だった。
    「あ、いや…そこまで本気で嫌ってるってわけじゃあねぇだろうが…」
     自分勝手に良い風に思い込んでいただけで、ハタから見たら自分はヤスに嫌われているのか?
     思いの他ショックを受けて落ち込みが見えてしまっているハッチンに、ジョウは余計なことを言ってしまったと少し焦った。普段から犬猿の仲なのだ、ハッチンとヤスがお互い嫌い合っていることは自覚の上だと思っていた。
     実際には『喧嘩するほど』というやつで、嫌い合った上で認め合っているのだろう。DOKONJOFINGERの四人の関係のように。そう思っていたのだが。
    「とにかく、ヤスも再来週にはライブがあんのに何やってんだって腹を立てていたからな。ちゃんと説明してやれよ」
    「……ヤスには言うなよ!?」
    「なんでだ、ヤスがやられる前にと思って殴ったんだろ」
    「だって、……『ヤスのため』じゃねーもん」
     ――自分が狙われていたなんて、聞いたらヤスがダメージ喰らうじゃん。
     それを阻止しようとして殴った仲間が停学になったなんて知ったら、ヤスが責任、感じちゃうだろ。
     ヤスが知らねー三年にヤられんのなんて自分がイヤだった。それだけで頭に血を昇らせてブッ刺さっていってしまったのだから、仲間のために停学になったなんて格好いいもんじゃない。
     唇を尖らせ黙り込むハッチンに、ジョウはハァとため息をついて、わかったよと頷いた。
    「課題だけはしっかりやれよ」
     気を取り直して「ジョウも半分手伝って」と甘えたハッチンに、ジョウはふざけんな、と拳を返した。


    ⇒ Scene 02(まだです。)
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💜💜💜💜💜💜💜💜💜💜🙏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works