道ぐだ♀ 月食見てイチャイチャしてるだけ「わー!月赤くなってるよ!」
「ンン、不気味で綺麗ですなァ」
「不気味とか言わないの」
今日は皆既月食。そして天王星食だ。ダブルで起きるのは400年以上ぶりだとかなんとか。
立香たちはマイルームのスクリーンに映してそれを見ていた。
「空まで漂白されなくて良かったぁ。漂白されてたら見れないもんね」
「ンン、何言ってるかおわかりで?」
「あはははは」
ぎゅっと絡めた腕にすり寄る。
「生で見たかったなぁ」
「抜け出すならお手伝いいたしますぞ?」
「こーら」
軽口を言い合ってくすくすと笑う。
「真っ赤になったね」
「ええ。何か呪うにはピッタリかと」
「深紅満月臨界!」
「ンン、第二宝具にしましょうか」
「天体系サーヴァントじゃんもう」
「まあ陰陽師は天体系ですぞ?」
「たしかに」
はっと立香は気づく。
「陰陽師的にはこれ不吉の予兆とかなんとか?」
「ンン……そうですなァ」
道満が真面目な顔になる。
「月もそうですが……ええ、実の所この天王星が食われるのがよろしくないのです」
立香は目を見張った。
「そうなの?」
「ええ……きちんと対策をせねば、一週間後悪いことが起きまする」
静かに告げられる言葉に、立香は眉を寄せる。
「悪いこと」
「ええ。どのようなことかはきちんと占わねばなりせぬが」
「そっかぁ……。対策って?」
道満は頷いた。
「きちんと気を充実させることが必要です。具体的には……陰陽師に陰陽を整えてもらう、等」
立香は縋るように道満を見つめた。
「道満、お願いできる?」
道満は安心させるように微笑み、頷く。
「もちろんですとも。拙僧におまかせなされ」
しばらく見つめあって――――同時に吹き出した。
「もぉ、なにそれ。えろ親父じゃん!」
「ンン、親父ではありませぬぞ!」
「えろは否定しないんだ」
あははは、と笑い合う。道満はなんだかんだノリが良い。やっぱ関西の人って面白いんだね、と前に言ったところ、ド偏見ですぞと怒られたが。たしかに、カルデアの関西組サーヴァントは面白い人の方が少数だった。時代もあるのかもしれない。
「まあまあ、きちんと交わす目合いは健康に良いものですぞ」
「それは否定できない気がする」
道満とそういう関係になってから、体力を使うはずなのによく眠れるからか、翌朝の調子はすこぶる良い。満たされているからか、気持ちも穏やかに安定している。
基礎化粧品やシャンプー変えたのか、とマシュに聞かれたのも関係を持ってからだ。肌と髪のツヤが良くなったと言われ、当時は首をひねったものだ。
「そういったことも込で人間ですからなァ。何かとケチをつけ出したのは、そういう風に管理せぬと困る上の者がおったからにて」
「たしかに」
何も縛りがなかった時代をぼんやり想像してみるが、結局道満とだけがいいし道満にもそうしてほしいと思ってしまう。現代に生まれたからかもしれないが。
「では立香、妖しい月を見ながらいかがです?」
「うーん、ダヴィンチちゃんから予想タイムスケジュールもらってるんだよね。せっかくだからちゃんと見たいな」
「ンン……約40分後に完全体、と」
「そうそう。それから1時間くらいでまた戻っていくんだって」
「ンン……残念」
「あっ、映像もらって夜流しながらしようよ」
「情緒もへったくれもありませぬなァ」
「どうせこれ映像だし、見えてれば一緒じゃない?」
「天体が動く時はマナ等の量が常と変わるのですよ。ですから……ええ、端的に言うといつもより気持ち良い可能性がございまする」
「本当に端的」
立香はやれやれ、と肩をすくめるが、そう言われると気になってしまうのも事実だ。
ちらり、と時計を見る。
「完全皆既月食始まってからの一時間ならいいよ」
「おお、さすが立香」
「その代わり、終了5分前に終わらせること。アラームかけとくからね」
「ええ、もちろんですとも」
(とはいえ、立香も始めてしまえば……)
「アラーム鳴って終わってなかったら令呪使うから」
「ンンンンン……致し方なし」
残念そうな顔に、やはり止める気なかったんだなと立香は半眼になる。
と、大事なものを思い出した。
「ね、その前にお団子食べようよ」
机の上から容器を持ってくる。
「はい?」
「エミヤに作ってもらったの」
ぱかっと開けると、そこにはみたらし団子が並んでいた。
「なるほど、赤い月だからみたらし、と」
「そうそう」
「しかし月見団子の季節は過ぎましたぞ?」
拙僧そもそも馴染みない文化ですが、と言う道満にまあまあと言いながら楊枝を渡す。
「あれ江戸時代だっけ。まあ、美味しかったらいいじゃん」
月見ると食べたくなるしね、と言いながら一つ刺し、ぱくりと頬張る。
さすがエミヤ印、美味しい。甘みの後に香ばしい醤油の香りがする。団子自体も、ぷりんともちもちしてクセになる。米の自然な甘みだけなのが食べやすくて良い。
道満も美味しかったのか、2人でしばし無言で食す。
「ン。美味でしたな」
「ほんと。めっちゃ集中して食べちゃった。残ったタレも全部なめたいくらい」
「拙僧は構いませぬぞ?存分にしなされ」
「もぉ、恥ずかしいでしょ?」
「欲を抑えきれず容器を舐めまわす立香……ンン、なんとも動物的でそそられますなァ」
「ねぇやめて!しないから!てか直接舐めるイメージなの」
「ああ、指で掬い取り、その指を舐めまわす、と――」
「違う!スプーンとかあるでしょ!」
「ンンンンン、舐めると言っておいて文明の利器に頼るとは……」
「もぉ、いいでしょそこは」
げしげしと腕を小突くと、その手を取られる。
「――立香」
急に雰囲気を出してきた道満に、どくりと鼓動が高鳴り、つい流されそうになる。が、立香はちらりと時計を見る。まだ数分早い。
「ね、まだだって」
「先程から大して変わっていないでしょう。もういいのでは?」
「もぉ雰囲気……」
立香はちらりと月を見上げる。
確かに、光の微妙な位置しか先程から変わっていない。そうしてる間にもらすり寄って首筋に口付けたり舐めたり噛んだりしてくる、大きなケモノ。
(ま、微妙な移り変わりは録画でも見られるか……)
なんて思ってしまうあたり、このケモノに弱いのだ。
首筋に懐く頭をもふもふと撫でる。気づいた道満が、じゅっと吸い付いてから離れる。
見つめあい、立香が首筋に腕を回すと共に道満が立香の頭を支え、そっと顔が近づく。
薄く柔らかい唇の感触を感じながら、立香は目を閉じた。