マサルが愛用しているブラウンのレザーボストンはジムチャレンジの頃から使っているもので、子供の頃は大きかったその鞄は、大人になった今はマサルの背にぴったりのサイズになった。
長年使い続けた革はすっかりマサルに馴染み、どれだけ物を詰め込んでも軽々と背負える優秀な相棒である。けれど、そんなマサルと一心同体である鞄が、最近やたらと重く感じるようになった。
原因は分かっている。中に入っているリングケースのせいだ。ドラマや映画のプロポーズシーンで指輪を出す時によく見る、あのパカっと開くタイプのケースである。手触りの良い上質なベルベッド生地のそれは、汚れないようにタオルに包まれて、隠すように鞄の奥底に押し込まれていた。
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