2/14LJアジトの周辺がまだ薄暗いうちに車を出した。
街まで距離があるのでそうしただけで特に深い意味はなかった。陽が昇る頃には街に着いたけれど、早朝といわれる時間帯に開いている店はほとんどなかった。
目的の店の開店時間まで時間を潰しながら車内で寝転がっていたルパンと次元は、ときおり車外へ出てタバコをふかす以外、会話もない。
もう少しアジト出るの遅くても良かったんじゃねぇか、と文句でも飛んでくるんじゃないかと思ったのだが、次元は気にした様子もなくルパンが声をかけるのを待っていた。
「次元」
「ん? 多分まだ開いてねぇぞ」
腕時計に視線を落とした次元に、そうねぇと返す。
多分このまま何分でも何時間でも、こうして二人でいられる気がした。
「車、走らせよっか」
「だから店……」
「いいじゃん、いいじゃん」
次元の背中をぐいぐい押して助手席へと押し込む。
火の付いていないタバコを落としそうになった次元から、それをひょいと取り上げる。
ルパンが助手席側から運転席に移動するあいだタバコのお預けを喰らった次元は、ジロリとこちらを睨む。
「顔こっわ」
「ルパンてめぇ」
一息ぶん煙を吸い込んでから、返せと騒ぐ次元の口へタバコを突っ込んだ。
かなり乱暴に返したけれど、それに文句を言うことはなく助手席のシートを軽く倒しそっぽを向いた。
拗ねた次元に構うことなく、店が開くまでのあいだ、ルパンはゆっくりと車を走らせた。
夜と朝のはざまのその時間は、澄んだ空気と肌寒い空気を連れてくる。
それから……。
「じげーん」
「あ?」
「まだ怒ってる? 車ここに停めるぜ」
お互いに買い物を済ませたら、またここでと告げるとルパンは先に車を降りた。
さっと目的のものを買い揃えると、ルパンは一つの店舗へ足を踏み入れた。
小さな箱、手に収まるほどのそれを最後に、来た道を戻った。
すでに車内には次元がおり、後部座席には荷物が積んである。
「お待たせ」
「そうでもねぇ」
助手席の後ろ、つまり次元が座っている後ろの席に荷物を積んで、ルパンはまたしても次元のタバコを奪い取る。
今度は後ろからとあって、二回目とはいっても次元はあっさりと口元のそれを奪われていた。
また先ほどと同じようにルパンが運転席へ回るのを、次元は恨めしそうに眺めている。
「っおい! なんだよさっきから」
「はいはい、口開けて」
ドアを開くと同時に、掴みかかってきそうな次元をなだめつつ押し返す。
次元の口に、今度はタバコではなく小さな四角いものを放り込む。
とっさに口を閉じた次元だったが、それが害のないものだと分かると、複雑そうな表情を浮かべた。
「チョコレート……」
「バレンタインだしねぇ」
さきほど車を走らせながら見た、季節を告げる広告がそれを思い出させたのだ。
花束でも良かったけれど、それだと持ってくる時点で見えてしまうだろうとこちらにした。
甘いものが好きなわけではないくせに、律儀に飲み込んだ次元を見届けると、だいぶ満足した気分になった。
「さて帰りましょー……痛ぁっ」
ハンドルを握ろうと正面に向き直ると、横から何かが投げつけられた。
こめかみにヒットしたのは次元の腕ゆえだろうか。当たった箇所をさすりながら投げつけられたものを見る。
それは、ルパンが買ったものとよく似た小箱。
「次元、これ……」
「……バレンタインなんだろ」
ねだったところでくれるかどうか分からないと言うのに。
「何ニヤけてやがる」
「どうせなら次元も食べさせてくれても」
「誰がするか」
結局アジトへ戻るまでに二人の手元にあったチョコレートは無くなっていた。