人魚姫。薄暗い海の中。
私はゆっくりと沈んでいく。
身体が重いーー。
見上げれば、水面に揺れる月が見えた。
なんで?
だって私は泳げるはずなのに。
モヤのかかった頭が少しずつはっきりしていく。
これは夢?
現実?
ーーそうだ。
私はもう、人魚じゃない。
王子様は、私を選んではくれなかったんだ。
ゆっくりと瞳を閉じる。
ハリーは未来へ帰った。
『お姫様』と幸せになるために。
王子様に選ばれなかった人魚姫は、泡になって消える運命。
でも…、
ハリーが幸せなら、それでいい…。
お姫様と王子様。
笑い合うふたりの顔が浮かぶ。
胸がチクリと痛んだ。
心にぽっかりと穴が空いたように虚しくて。
でも、消えてしまうのなら…もう何も考えなくてもいいんだ。
泡になって消えるって、案外楽なのかな。
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