(燭へし)最後の花火 ドンと腹にまで響くような音がして、山の向こう側の空が明るくなる。坂をのぼるとさすがに汗が流れ、夏の名残がわずかに残る空気がじとりとまとわりつく。
ここに来るのも5年ぶりか。
学生のころに比べて体力は落ちたのか、わずかに息を切らしながら光忠はふと思い出す。
夏の終わりのわずかに涼しい
風と、夜空を照らすわずかに欠けた花火。
こっち側だと全部は見えないんだ。
だからあまり人がいない。内緒だぞ。
初めて一緒に見たときにそういって悪戯っぽく笑った長谷部の顔を思い出す。
君はいまどこでこの花火を見ているの。
足を進めてほかのだれかと花火を見上げる長谷部がいたら。
思わず足がすくむ。
もしかして、まさか、それでも。
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