祝祭静けさの残る街。
何も予定のない日に、静かな所で二人で過ごしたい。と言うファウストの願いを叶え魔法舎から遠出した。
その街を象徴する広大な街一面に広がる花畑に寝転ぶ。二人は世界の中心に取り残されたような静けさの中で、会話をする訳でもなくその静かな時間を楽しんでいた。すると。風が髪を揺らし、周りには彼らを歓迎するように色とりどりの花弁が舞い落ちる。
ネロはその景色を横目に呟く
「先生。花畑が興奮して、花の雨が降ってきてるよ」
視線の先では、構ってくれと言うばかりにふたりの周りを花弁ゆっくりと舞っている。ファウストは丸い眼鏡の奥でじっとそれを見ていた。
「……ここの地は静かな場所だと思ったけれど、この花畑は僕たちを歓迎しているようだ。東の国の精霊だしね」
「ははっ。歓迎して貰えて嬉しいな」
ネロはそう言い、花弁をそっと指でなぞる。その仕草に花達は喜び、もっと触ってくれを言わんばかりに静かに、それでいて楽しそうに舞い続ける。
その光景をまた楽しむように一通り眺めた後、ネロはそっとファウストの手の甲に手を重ねた。ふたりが重ねた手から、淡い光が広がってゆく。舞い上がった花々が小さな光の蝶へ変わり、空一面を飛び交った。この姿は幻想的というより、もはや騒がしいようにも見える。
「なぁ先生」とネロが苦笑を浮かべる。
「これ……ロマンチックっていうより、ちょっと祭りみたいだな」
「……だな」
ファウストは眼鏡をクイッと押し上げて、肩で笑う。
「でも、悪くない」
光と花の渦に囲まれながら、二人は互いの手をぎゅっと、優しく、でも強く握り直す。
世界が夢かどうか分からないくらい、そして些細な幸せを感じる。この時を……この先も笑いながら寄り添えるなら、それでいい。
……花畑は、ふたりの非日常なようで日常な幸せなこの時間を祝福していた。 永遠に続く二人の関係を祈るように。