いつの日かどこかで運命が引き寄せる.
櫛が折れた。
「一真、お前の髪はこの櫛では目が細かすぎて扱いにくいだろう?もう少し目の荒い物を用意しよう」
遠い昔、師兄である引玉がそう言って用意してくれた黒檀の櫛。大事に使い手に馴染み角も丸くなり当時よりずっしりとした色合いになっていた。
とくに何をしたわけでもない。ただ髪を梳かそうとしていただけだったのに。
「お前の髪は癖があるから手で解して、それから櫛で、ほら、上からではなく毛先から……」
面倒を見てもらっていた頃、じぶんで朝の支度をするようになってまもなく髪の毛が結えないといけないと他の人から注意された。その時も引玉はどうすればいいのか優しく丁寧に教えてくれた。
大切に扱ってきた。
引玉が居たときも、居なくなってからも、ずっと使い続けてきた。
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