主よ、我を許したもうことなかれカツン、カツン……
硬い靴底の音が静かな廊下に響いた。後宮のさらに奥の、誰からも隠すようにひっそりとある重い扉を開く。部屋からはレッドムスクの甘い香り。ローズマダーの天蓋、天井から下がる黄金に輝くランプに照らされた寝台。薄衣を纏い輝く宝石にも劣らない美しい貴人がそこにいた。
「こんばんは、愛しい薔薇の君」
天蓋を捲りそこで待つ愛しい人を呼べばコンスタンティノスは目を伏せ長いまつ毛は影を落としている。ゆっくり顔を上げ視線が絡まるがすぐにまた俯いてしまった。
「ああ、贈った宝石も良く似合っていますね」
色白の肌に映えるパープルサファイアは華奢なデザインのネックレスとなり胸元を飾っていて、それをするりと撫でた。美しいあなたには何色でも似合うけれど。若き王は次に贈る宝石は何にしようかと楽しげに声を弾ませた。
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