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    jiganogazoran

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    jiganogazoran

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    4年前 佐々木夫妻イチャラブ小説 ありとあらゆるねつ造がある

     襲撃を受けたのは、笹藪の裏手にある路地へと回った時の事だった。
     幕府の犬。
     17で出仕を始めてから今日まで、何百回と聞いたお決まりのフレーズだ。
     闇討ちなら黙ってすれば良いものを、律儀なことだと思う。
     相手は五人。間合いを図る先頭の懐へ飛び込み、刀を抜いた。しばし暗闇に、剣戟が響く。
     勝負は直ぐについた。
     人気の無い長屋のボロ障子に血飛沫が跳ね、地面には、欠けた体のいくつかが散らばった。
     まとめて三人を切り捨てた所で一人は逃げて、残った一人はその場にとどまった。いや、とどまったというよりも、恐怖で動けなくなったと見るのが正しいか。
     斬り合うまでもなくわかる、拙い腕だ。滞空する蜂の如く八の字を描く切先から、身体の震えが伝わってくる。苦し紛れの踏み込みを軽くいなして腹に蹴りを入れれば、細い体はいとも簡単に地へ転がった。
     ちょうど、真上に来たらしき月の明かりが路地まで射し込み、相手の姿を映し出す。
    明所で見れば、敵はまだ15、6の子供だった。恐怖に見開かれた目で私を睨み上げている。
     どっと疲れが押し寄せて─、懐から帛紗を取り出し、包んであった金を、地面へぶちまけた。
     何を思ったのか、自分でも知れない。
     子供は私の顔と金とを交互に見比べ、慌ててそれを掻き集めると、転がるようにしてその場から逃げ去った。
     こんな事をして何になるのか。馬鹿馬鹿しい。
     ふきすさぶ風が、血溜まりをなでて妙な模様を作る。血を吸って重たくなった懐紙が、笹舟のように傾いた。



     縁側で刀の手入れをしていると、ふいに視線を感じた。顧みれば、妻が障子の陰からじっとこちらを見つめている。何事かあったろうかと、咥えていた紙を外して刀を鞘へ収める。妻は膝立ちでそばまでにじりより、悪戯っ子のような顔で言った。
    「異三郎さん。刀、見せてくださらない?」
     好奇心の強いひとだ。午後の陽光が目に入ったのか、眩しげに目を細めながら私の答えを伺っている。
    「…危ないですよ」
     昨日も人を斬ったばかりの刀だ。触れればその無垢な手が穢れるように思えて、躊躇した。
    「仕事道具をさわられるのは、おいや?」
    「違います」
     思いの外強い声が出て、自分で動揺する。羽織を掴んでいた掌がぱっと離れて、俄かに不安になった。
    「…柄の部分でしたら、触れても構いませんよ。抜くのは勘弁してください。怪我するといけません」
     慣れない事をして頭など撫でたのが気に障ったのか、白い頬が餅のように膨らむ。
    「まあ。子供扱いですか?」
    「自分の刀で君に傷をつけてしまっては、悔いても悔いきれないでしょう」
     無念げに柄を撫でていた妻が、かすかに頬を染めて笑んだ。柔らかな栗色の髪が、ひだまりの中で錦糸のようにひかり輝く。
     ふと思い立ち、鞘から小柄を抜いて、その指へ握らせた。
     彼女は思いがけないものを見た顔をして、まじまじと持ち手の彫り物を観察する。
    「綺麗な装飾。水仙ですね?私の一番好きな花。異三郎さんも?」
    「え……、まぁ…」
     あなたが好きだと言った花だから、拵に用いたのだとは言えなかった。きまり悪くて背けた顔を、わざわざ覗き込まれて少し困る。
    「異三郎さん。ありがとうございます」
    「いえ…」
     寄せられた身体から、白粉が濃く香る。
    「昔ね、お父様に刀を見せてとねだったら、ぶたれました。女が男のするものに興味を持つなって」
    「……」
     返す言葉に窮し、沈黙した。
    酷い話だな、と思ったが、彼女の父を面と向かって悪く言うのも気が引けた。過ぎた事だ。
     慰めの代わりに手の甲でそっと頬を撫でれば、壊れ物かのように思えた肌は存外、したたかに弾力を返した。
    「念願かなって、どうでしたか。刀は、おもしろかったですか?」
    「おもしろくなんかありません。
    …あなたの深いところに触れた気がしました」
     今度は妻の手が、そっと私の頬へと伸ばされる。
    「冷たくて、優しいの」
     手のひらに次いで唇が、瞼の上へ落とされた。
     急に翳った眼裏に濡れた感触を覚え、不意に、夕立の音を空耳した。
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