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    jiganogazoran

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    jiganogazoran

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    オリオン航路時空
    ギルガメッシュに泣かされる夢
    2018年くらいに書いたやつです

    どうかな。今日の服、頑張りすぎていないかな。可愛いかな。
    エレベーターの鏡に映し出された自分の姿を眺め、髪型が崩れていないか、服が皺になっていないか、疲れた顔をしていないか、軽くチェックをする。
    大丈夫。恐らく、問題は無かった。
    三階で降り、明かりのついた彼の部屋を確認してから、最後に鞄の中身も最終確認をする。今朝、出勤前に気合いを入れて作ったランチボックスの中身は、ギュウギュウに詰め込んでよく冷やしておいたからか、少しも崩れてはいなかった。完璧だ。小さくガッツポーズをして時計を確認すると、丁度夕飯時だった。タイミングも悪くない。大丈夫。大丈夫。万事、問題ない。
    心の中で少し自分を鼓舞して、わずかに緊張しながらチャイムを押す。暫くすると、ドアは開かれないまま、ガチャリとインターホンが繋がれた。
    「なんだ」
    がさがさ、キシナミくんにしては随分低い声が誰何する。一瞬面食らいながらも名を名乗ると、訝しむような声の後、ガチャリとドアが開かれた。
    立っていたのは、白っぽい、明るい髪色のヒューマノイドだった。私やキシナミくんと殆ど同じ形をしている。判別するに、恐らくメールだ。疑問に思うまでもなく、彼が誰かすぐに思い当たった。すっかり失念していたけれど、そういえばキシナミくんは『ギル』という名の同郷人と生活していたのだった。姿を見るのは始めてだけれど、なんだかひんやりとした雰囲気が、キシナミくんとは全く感じの違う人で、ほんの少し戸惑った。
    私の身体を頭のてっぺんから爪先までをじろり、なぞったその視線を、品定めのようだ、だなんて全く思わず、とりあえず私は笑顔を繕う。
    「こんばんは。あの、私、キシナミくんの職場の者です。急にすみません。いつもお話伺っています...」
    「ああ?はっ。なんだ、思ったより年増だな」
    私の当たり障りない自己紹介に、『ギル』は、開口一番そう言った。吐かれた言葉が信じられず、体をびくり、と硬直させると、彼はその一瞬の間にもう私から興味を失ったように踵を返し、気怠げに元いたソファへ戻って行ってしまう。
    にべもない、どころの話ではない。玄関には、鞄の中身を取り出そうと、口に手を差し込んだままの形で呆然と立ち尽くす私だけが取り残された。言葉もなく固まる私をよそに、『ギル』はなにも言わず、寛いでテレビ画面を眺めたりしている。
    失礼だ、とか、腹が立つ、とか、そんなものではない。そんなものよりも、とにかくショックで、あまりにもショックで言葉が出なかった。
    顔を合わせるのはこれが初めてのはずだ。なにか気に障ることを言っただろうか。ここ数分の間の出来事を反芻しても、全く思い当たる節はない。ただ、とにかくあちら側から一方的に暴言を吐かれ会話を強制終了されてしまったことは明白だった。ここは怒りを露わにするべきなのだろうか、と少し逡巡したけれど、そんな勇気など当然ありはしないのだった。
    とにかく、このまま両者黙ったままではらちがあかないと思い、あの、とか、すみません、とか、何度も声をかけてみようと試みたけれど、喉はぴったりと張り付いたようになって開かず、口の中は乾いてからからになるばかりだった。
    どうしよう。ばくばく、と心臓の音が重く聞こえる。
    苦心して作った料理だけでも渡して帰りたかったが、このままではキシナミくんが何時に帰るのかもわからない。こんな仕打ちを受けてもなお、黙って置き去り帰る勇気は、流石に無かった。
    私がもだもだとしている間に、彼の方から再びなにか声をかけてくれはしないだろうかと一抹の期待を抱き始めるも、コマーシャルが三度流れ番組が切り替わっても尚、彼はそこから動こうとしなかった。時たま、テレビの内容に関して、独り言にしては大きすぎる独り言を言い、笑う。もしかするとそれはこちらにかけられた言葉なのかもしれなかったが、もしそうでなかったらなにか怒られそうだったので、私は返事をせずに黙っていた。明確に、私に向けて声がかけられるまで、じっと待ち続けるつもりでいた。
    数十分間同じ体勢で微動だにせずいたため、いい加減足に痛みを感じ始めた頃、ガチャガチャ、とノブが回り、開いたドアからキシナミくんが現れた。
    「あれっ!こんな所でなにしてるの?」
    私の姿を認めると、キシナミくんは驚いたような顔をして言う。私は安心して泣きそうになりながら、それを悟られるのは情けないと思い、喉を引きつらせてひゅうと笑った。
    「あ、...」
    言葉が出ない。
    「帰ったか。そら、お前に客人だ。相手をしてやれ」
    『ギル』はまるで人ごとのようにそう言って、ちらとこちらを、キシナミくんを、見やる。キシナミくんは少し嫌な顔をして、ため息混じりに「ねぇ」と吐き出した。
    「相手をしてやれ、じゃないよ。お客さんが来てるんだから、中にあげてお茶出すくらいしてくれてもいいんじゃないの?」
    あまり聞いたことのない尖った声だった。慣れているのか、『ギル』は相手にもしない。
    「知らんな。好きに上がりこめば良かろう。言い忘れたか?そこを左がハクノの部屋だが」
    「っ、もう...」
    ごめんね、本当に。キシナミくんはすまなそうに頭を下げる。
    「結構な時間待ったりとか、した?本当にごめんね」
    「あ、あの、いいの、大丈夫、本当に...こちらこそごめんなさい、連絡もしないで急に来ちゃって、えっと、これ...」
    喉が詰まって、うまく喋ることができない。瞬きの多さを悟られたくなくて、カバンの中を覗き込むようにして話した。震える指先で目当ての包みを取り出し、彼の前にかかげる。
    「作りすぎちゃって、良かったらその、食べてください。大したものじゃないんだけど...」
    「えっ?なんだろう、開けていいかな。あっ。すごい、余り物って感じじゃないよ?これ、全然!すごい豪華、おいしそう!」
    包みを解いたキシナミくんが、嬉しそうに声をあげる。ホッとして緩みかけた心に、『ギル』の低い笑い声がスッと響いて、また目の前が暗くなる。
    「こんな立派なもの貰っちゃって...ありがとう。あの、うち本当になにもなくて今から作る所なんだけど、良かったら一緒に食べていかない?もし暇だったら...」
    ねぇギル、いいでしょ。彼が言い切るより早く、私はさっと玄関の戸に手をかけた。
    「あの、ごめんなさい、このあとちょっと...用事があって。だからごめんなさい、嬉しいんですけど、今日は帰ります。私、帰ります。さよなら」
    限界だった。顔がくしゃりと歪みそうになるのを堪え、慌ててドアノブを押し、表に出る。茫然自失と無我夢中と狭間で廊下を駆け、闇夜にぽっかりと口を開けているエレベーターに、まるで幽霊のように乗り込んだ。鏡に映し出された私を、数十分前の私と同じだと思うことは、自分自身にもできそうになかった。ドアが閉まり、モーター音が静かに響き始める。一人になれた、と思うと涙が出て来て、嗚咽をこぼしながら、暫く泣いた。人通りが少ない住宅地の夜道を歩きながら、たかが「年増」と言われただけだ、ただそれだけじゃないか、と何度も自分に言い聞かせながら、それでもまだ止まらない涙に、家に着くまで困らされた。
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