『PIPE DREAM』 手は届くのに心は遠かった。だからこんな夢を見ても驚きはしない。
驚かない──はずなんだけどなぁ。
純一は薄暗く空気の淀んだ屋内で今日もぼんやりと立ち竦んでいた。大きな窓ガラスの外に視線をやればあらゆる建造物が下に見え、自分がいる場所がかなりの高さであることが分かる。どうやら今日は高層マンションの中にいるらしい。よくもまあ毎晩飽きないものだなと純一は自嘲の笑いを床に落とした。視線を少し先に進めれば今日も黒いスーツ姿の『あの人』がそこにいる。耳障りなタイマーの音が規則的に部屋に響き、カウトダウンの数字がこちらを嗤うように目減りしていった。
夢は、自分の深層心理を映し出す鏡だ。ここ最近は毎日彼のことばかりを考えていたからこんな風に夢を見るのも仕方がない。けれども毎日続くとなれば話は別で、さすがの純一もうんざりしてきていた。
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