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    ひか星4お疲れ様でした。
    置いていたカイ晶♂です。中央の国に買い物に行く話です。晶くん片想い。

    これからも秘密 カイン・ナイトレイはモテる。老若男女にモテる。
     明るくて気さくで、誠実で。目上の人にも敬語が抜けてしまうのが玉に瑕だけど。
     カインは、異世界から来て何も分からず混乱していた晶にも真摯に向き合ってくれた。
     とても頼もしくて、安心できて、心強かったのを覚えている。そして彼とは賢者と賢者の魔法使いという前に、最高の友人でもあった。
     
     今日はそんな最高の友人と中央の国の市場へ買い物へ来ている。
     使っているペンがそろそろダメになりそうだと話したら、じゃあ一緒に買いに行こうかとなったのだ。
     だが、ふと周りのお店に目を移している間に逸れてしまった。
     何だか今日は人の気配が多いから気をつけようなと言われたばかりなのに。
    「あぁ、やっちゃった……カインは何処だろう」
     小走りで人混みを避けながら探していると、店の軒先にいる二人組が目にとまった。
     嬉しそうな女性と、あの赤髪はカインだ。少し遠い場所に居るのに二人の声がはっきり聞こえる。
    「こんな所で憧れの方お会い出来るなんて光栄だわ!」
    「ありがとう!嬉しい事を言ってくれるな」
     会話の内容的に女性はカインの知り合いという訳ではなさそうだったが、明らかに好意が滲み出ている。
     大いなる厄災による奇妙な傷のせいで、カインは触れるまで人が見えない。もしかしたら、今も目の前の女性の事が見えていないかもしれない。
     だとしたら、あの綺麗なブロンドの長い髪も、風にそよぐ素敵なワンピースも分からないのか。
     (……もし見えたら、カインはきっと褒めるだろうな)
     少し何かチクッとした気がした。それを気持ち程度胸を撫でながら、切り替える。
    「……終わるまで待つか」
     突然割って入って会話の邪魔をするのは悪いし、ついでに気まずいし。
     市場にあるお店を見ているうちにある程度時間は潰せるだろう。
     心の中でカインに後で合流しましょうと声を掛けた。
     確か少し先に可愛い猫の雑貨が売っているお店があったなと歩みを進める。
     めぼしい物があったら今度ファウストにも教えたいな。
     なんて事を考えながら歩く。
     
    「…様!……晶!」
     よく通る聞き慣れた声だった。
     振り向くより早く、肩にぽんっと手が乗る。目をやると少し息の上がったカインがいた。
    「カイン!……お話はもういいんですか?」
    「あぁ、やっぱり見てたんだな。賢者様が俺が居る場所と反対に行くのが見えたから切り上げたんだ」
    「あ……すみません、邪魔しちゃいましたね」
     そう言えばカインは形のいい眉を申し訳なさそうに下げた。
    「邪魔されたなんて思ってない。そんな寂しい事を言わないでくれ。今日はあんたと買い物に来てたんだ、俺の方こそ一人にしてすまなかった」
     こちらの不注意で逸れてしまったというのに、カインの誠実さに嬉しくなる。
    「ありがとうございます。実は少し寂しいなって思ってました……知らない方と話していたから、今日一緒に居るのは俺なのにって」
     子どもっぽいですね、と笑うとカインはやんわり首を横に振って悪戯っぽく目を細める。
    「そんな事ないさ、妬いてくれてるみたいで嬉しい。そうだ、お詫びと言っちゃなんだが今日は晶の欲しいものを贈ろう!何でも言ってくれ」
     
     スルッと手を取られ、エスコートされる。
     カインはこういう気遣いがいつもスマートで上手い。
     箒に乗せてもらう時、少し道が悪い時なんかでも、さも当然だというように晶の手を取るものだからいつもドキドキしている。
     何でもない時でも声を掛けてくれた。皆んなの方が頑張っているのに、頑張ったなと励ましてくれる。
     そんな小さな一つ一つが晶にとって力になって密かな想いになっていた。
     友人としてもちろん好きで。そうとは割り切れない想いにも気付いてしまった。
     けど、今のこの関係が続けられるのなら、何も言わないのが最適解だと思う。
     
     (カインから欲しいものなんて、一個しか無いけど……)
     この想いは、元の世界に連れて帰ろう。素敵な出会いだったと記憶に残そう。
     告げられる事のない気持ちにふわりとハンカチを被せて、せめて俺だけは大事にしよう。
     
     晶を見つめる陽の光の様な黄色の瞳は、出会ったあの時も今も優しい。
     もう片方の赤い瞳は髪に隠されてはいるが、きっと同じだろう。
     淡い気持ちがじんわり温かくなる。顔に出ない様に元気よく返事をした。
    「実はこの先に猫の雑貨が売っているお店を見つけたんです!そこにペンもあると思うので一緒に行きませんか?」
    「いいな、行こう!」
     今度こそ逸れない様にとしっかり繋がれた手に思わず顔が熱くなるのを抑え、今はこの時を楽しもうと思う。
     (いつか、俺の事を忘れてしまうとしても……今日が楽しかったとだけは思ってほしいな)
     自分が元の世界に帰るその日までの、そんな束の間を願うのだった。
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