赤を隠す「出征……ですか……」
平坦に思えるその声に、確かに悲痛な色が混ざっていることを、ダクスは分かっていた。あまり感情を表に出さない彼が、分かりにくくも声に滲ませる時を、心密かに喜んでも、いる。
だが、日頃のそれと今日はどうあっても違う。決して、そんな思いを抱かせたかった訳ではなかった。いつも通り微笑んでくれると思っていたということもなかったが、それでも、悲しませたかったのではないのだ。
「……何となく、そんな気はしていました。国境に近い村々から、避難民が増え始めていましたから」
元より隣国との関係は冷え込んでいた。そこに来て、寒波で作物が取れなくなった。最早後にひけなくなった隣国は、遂に国境付近の村に対して略奪をしかけ始め、そうして戦争の火蓋が切って落とされたのだ。今は首都に近いこの教会まで戦火も及んでいないが、それでも時間の問題だろう。
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