祓い屋弓弦と視える高峯 雨は嫌いだ。人を憂鬱な気分にさせる。
夜は嫌いだ。希望を持たない人を狂わせる。
曇は嫌いだ。光も温もりも奪い去る。
こういった日には必ず良からぬ者を引き寄せてしまう。満月の光を浴びて遠吠えをあげる狼男のように、命がけで光を求めて火に飛び込んでいく虫のように、そっと心の陰に忍び込み、機会がくるとあっという間に食い散らかしていく。
今日は朝から散々だった。
目が覚めたら天井で首を吊っている女がいたし、玄関を出たら自分の首を小脇に抱えた落ち武者が立って居た。
歩き始めると片足がない迷子の子どもに目をつけられ、信号を渡りきると内臓が飛び出た犬に懐かれる。
それらの〝怪異〟は、何も面白くなんてないのに翠の後をついてきてケタケタと不気味な笑い声をあげるのだ。
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