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    hito

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    hito

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    仕事の合間に書いてた現パロ睡蛮

    煙と情愛「うまいのか、それ」
    まだ陽も昇らぬ内、下着一枚の姿で布団から出て煙草に火をつけると、同じ布団の中から声がした。
    咥えた煙草から口を離し、ふぅ、と息を吐く。白い煙が、苦い香りと共に漂った。
    「吸ってみりゃわかる」
    「じゃあ、それでいいから少しくれよ」
    布団の上に横になって頬杖をついたまま、目線で睡骨の吸っている煙草を指し示す蛮骨。睡骨は少し考えて、それを蛮骨へと渡した。
    「吸い方わかるか」
    「お前の見て覚えた」
    そう言うと蛮骨は睡骨が咥えていた煙草のフィルターに口をつける。同じように吸って吐いてみると、白い煙がまた部屋に漂った。
    「どうだ」
    「……何がいいかわかんねぇ」
    「そうかよ」
    むすっとした顔を浮かべる蛮骨に、睡骨はへっ、と笑う。布団から起き上がる少年の体。引き締まったその体に今は何も身につけておらず、普段結わえている長い黒髪もほどけて乱れている。その姿に、昨晩の光景が睡骨の脳裏に浮かび上がった。
    「何がいいんだ、こんなもん」
    そう言って蛮骨が煙草を睡骨に返す。それを再び口に咥えて、睡骨はまた煙草を吸い始めた。
    「そのうちうまく感じるようになるんだよ」
    「ふうん」
    少年の手が伸びて男の顔を引き寄せる。静かに口づけて蛮骨はふっ、と笑った。
    「吸ったらお前と同じ味がしたぜ」
    蛮骨の言葉に眉間に皺を寄せる睡骨。少しばかり困った口調で「逆じゃねぇのか、それ」とかろうじて言うと蛮骨はまた笑って広い額に静かに唇を寄せた。


    「蛮骨。なんだそれは」
    買い物をした後、「先に外で待っている」と蛮骨に言われた睡骨は、外で蛮骨が手にしたものを見て面食らった。
    「煙草だろ」
    「なっ……」
    言葉を失い、頭を抱える睡骨。先日まで、蛮骨は煙草など吸わなかったはずだ。
    「………あの男の勧めか」
    「くれって言ったらもらえたぜ」
    「すぐにやめた方がいい。煙草なんて、体にいいことは何も無い」
    「お前だって持ってんじゃねえか」
    ほら、と蛮骨が睡骨の鞄のサイドポケットを指し示す。開けると中には確かに煙草が入っていた。睡骨の眉間に皺が寄る。中に入っていたそれをぐしゃっと片手で握りしめて潰すと、近くにあったゴミ箱へ捨てた。
    「……とにかくやめるように。未成年が吸うものではない」
    そう言って睡骨は蛮骨の手にした煙草をじっと見つめる。蛮骨は惜しむ様子も無く、火を点けたばかりのそれを地面に――捨てて足ですり潰そうかとして、やめた。近くにあった灰皿スタンドまで行って火と煙草を始末し、睡骨の隣に再び戻る。
    「成人したらいいのかよ」
    家までの道を歩きながら睡骨に尋ねる蛮骨。睡骨は首を左右に振った。
    「未成年の喫煙はそもそも禁止されているが、大人になっても吸わないに越したことはない」
    「ふーん」
    一緒に暮らすアパートが見えてくる。錆ついた階段を上り、家の扉の前まで来る。
    「ようやく味がわかってきたとこだったんだけどな」
    そう呟く蛮骨。睡骨が鍵穴に鍵を入れて回すとがちゃりと音がした。扉を引くと、当然のように蛮骨が先に家へと入る。睡骨も当然のようにそれに続く。二人とも玄関に入ったところで、睡骨は家の扉を閉めて鍵をかけた。
    「……煙草は健康を害する」
    どさり、と荷物を下に置いた音がして、大きな腕が蛮骨に伸びる。目の前の小柄な体を、静かに抱き締めると睡骨は小さく呟いた。
    「この先、お前がぼろぼろになっていく様子は見たくない」
    優しさと懇願の滲んだ言葉が部屋の中に溶ける。愛惜しむように睡骨は腕の中の体を抱き締めた。
    「だからやめてくれ」
    少しの静寂のあとに、睡骨の腕が離れていく。それを待って、蛮骨はゆっくりと振り向いた。
    「じゃあお前もやめようぜ、睡骨」
    「え?」
    「ずっと一緒にいるんだろ?」
    蛮骨の言葉に睡骨は目を丸くする。そして柔らかく笑うと、穏やかに呟いた。
    「そうだな」
     二人で靴を脱いでリビングへと向かう。睡骨は買ったものを冷蔵庫にしまいながら、蛮骨はそんな睡骨の姿を見ながらソファに腰掛け、いつものように会話を続けた。
    「もう一人の私に強く言っておくが……お前からも言ってくれ」
    「あいつ、きっと嫌だって言うぜ」
    「お前なら説得出来る」
    ぱたん、と冷蔵庫を閉める音。蛮骨の方を振り返って、睡骨が口を開く。
    「あの男も、お前のことを好きだからな」
    同じ人間だから分かる、と苦笑しながら言う睡骨に、蛮骨は優しく「そうか」と言って微笑うのだった。
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