銀高ss⑨迷い犬を捕まえた。依頼にあった通りの、真っ白で黒い首輪の犬。飼い主に電話を入れてやり、後は引き渡すのみ。
室内で飼われていたのだろう、粗相もせず行儀良くしているのはいい。いいの、だが。
白い毛玉は、きゅうきゅうと甘えた声を出しながら高杉に撫でられていた。
「……いいこだな。」
良く知るデカい犬より随分小型なので収まりがいいのからなのか。随分とやさしい手つきで毛並みに触れている。
「あと1時間しないで引き取りに来るってよ。」
「そうか。よかったな。」
「………。」
こたらを見もせずに答える高杉。もちろん視線は毛玉に釘付けだ。クソ、そんな毛むくじゃらの何がいーんだよ。毛量なら下も合わせれば俺だって負けねーから。
「昼メシ、何にする?銀さん今なら高杉くんの好きなもの何でも作ってあげるよ〜。ふわふわオムライスとかどう?」
「まだいい。」
「………。ふーーん!あっそ!!」
「なんだよ。デケェ声出すな。こいつが驚くだろ。」
「ウッセー!」
「テメーがな。」
銀さんのとっておきの優しさより毛玉を優先しやがったよこいつ!腹立たしい。ぽっとやって来てなんの苦労もなく高杉を占領する毛玉も、簡単に優しさを向ける高杉も。
此方の気も知らず穏やかな空間を醸し出す二人(一匹)に感情をぶつけることもできず。
手を振るわせて悶えていた所で、来客を告げるチャイムが鳴った。
予定より早く到着した毛玉の飼い主は、泣いて喜びながら帰っていった。後ろ姿を見送って、多くはないが報酬を懐にしまい込んだ。
「行っちまったなぁ。」
「…………。」
もう見えなくなった背中を見続ける高杉に顔が引き攣った。こいつ、背中に残念ですと書いてある。今後ペット探しは犬禁止にしたろうか。
羨ましかった。あんな穏やかな手つきで高杉に触れられた犬が。高杉はこちらに滅多に触れてこない。てかデレたりしない。なのにあの毛玉には。
「何してんだお前。」
気づいたら、高杉に頭を差し出していた。何してんだろ俺。
「…高杉くんが、毛を撫でたいみたいだから。貸してやろうと思って……。」
「はあ?」
「ほら有り難く撫でやがれよ。銀さんのフッサフサのヘアーを!」
ほんと、何してんだ。自分でも思う。でも、高杉から触れられたい。俺だって。
「……。バカなやつ。」
くしゃり、と髪がかき混ぜられる。それは一瞬で終わってしまった。いや、もっとあいつは触ってたじゃん!と抗議したくなり、顔を上げると。
「ん。」
ちゅう、と高杉の薄い唇が触れた。高杉から。キス。脳が現実を処理しきれていないのを感じて固まってしまう。
「いいこ。」
ふっと笑った高杉は、硬直する俺を抜けてさっさと家の中に入っていった。
「ええええ!ちょ、もっかい!今の、もう一度お願いします!!!」
「うるせえ。さっさと昼飯作れ。ふわふわのオムライス、だろ。」
「オイイイ!自分のリクエストだけ通すつもりか!」
きいきいと喚く俺に目もくれず、高杉がふぅ、と煙を吐き出した。