ぶんっ、と風を切る音と共に振り下ろされた蛮竜。直後に聞こえる「ぐちゃっ」という、液体が勢いよく飛び散る音。目の前にいた緑色で軟体状の妖怪を両断すると、蛮骨は蛮竜を軽く振って刃に付着した体液を落とす。
「手応えねえし、気持ち悪いやつだったな」
「ああ」
蛮骨の言葉に相づちをうつ煉骨。交渉事の帰り、たまたま通りかかった森で妖怪に襲われた。なんとはない相手だったので苦戦することもなく、蛮骨が一人で仕留めたところだった。
「襲いかかってくんなら少しは楽しませろよ、ったく」
蛮骨が両断した妖怪に背を向ける。その時、妖怪の亡骸がぶるぶるっと震えた。
「大兄貴!」
「!」
煉骨の声に蛮骨が跳び跳ねる。直後、死んだと思っていた妖怪の体が爆ぜて四散した。飛び散った体液が周囲の木々に当たり、触れた部分が溶ける。溶解液のようだ。溶けた木の幹を横目に煉骨が蛮骨に駆け寄る。
「怪我は」
「なんともねえよ。ったく、驚かせやがって」
そう話す蛮骨の姿には確かに怪我を負った様子は無い。しかし。
「あ~あ、こりゃもう駄目だな」
そう言って胸元を見る蛮骨。妖怪の体は蛮骨の胴体に直撃したものの、鎧と着物を溶かすのみに留まっていた。が、半分ほど溶けた鎧はどうみても修復出来そうにはなく、新調する必要がありそうだった。着物も上半身の一部が溶けて、胸板が露になっている。ふっくらと、薄桃色に色づいた胸の突起が煉骨の視界に入った。
「……大兄貴」
「ん?」
するりと煉骨が頭巾をはずす。そしてそれを蛮骨の胸板に、さらしのようにして手際よく巻いた。
「これでいい」
「こんなことしなくたっていいだろ。どうせ帰るだけじゃねえか」
「そうは言ってもまだしばらくは歩く。これなら少しはマシだ。それに……」
煉骨が頭巾の端を結ぶ。きちんと隠れた胸元をちらりと見て、蛮骨からすっと視線をはずすと、薄い唇が小さく言葉を発した。
「目の毒だ」
そう言ってすたすたと歩き始める煉骨。その後ろ姿を目を丸くして見つめたあと、蛮骨は悪戯っぽく笑って澄ました背中を追った。
「そんなに気になるならあとで吸ってもいいぜ」
「下らないこと言ってないで行きますよ」