めらめらと燃える炎の中に黒く焦げたもの。さっきまで動いていたそれに冷たい目を向けながら、煉骨はふん、と鼻を鳴らした。
「ちっ……突然わいてきやがって……」
そう言って手にしていた瓢箪を腰に結わえる。隣で蛮骨が呑気な声を出した。
「驚くだけでなんてこたねぇ妖怪だったな」
「ああ。くそっ、油がもったいねぇ……」
眉をしかめる煉骨。依頼主との打ち合わせの帰り、森を通りがかったところで蛮骨と煉骨は妖怪に襲われた。カエルの玉子のような粘性のねっとりとした妖怪が樹上から落ちてきたのを、咄嗟に煉骨が火を吹き付けて焼いたのだ。
「びっくりさせるためだけに出てくるなよなあ」
「まったくだ」
蛮骨が先に進む。それに煉骨が続こうと妖怪の燃えカスから離れようとした時だった。崩れた体からびゅっと液体が飛んできた。
「っ!?」
塊になった液体が煉骨の足に直撃する。苦々しく顔を歪め、そのまま煉骨は地面へ倒れ込んだ。
「煉骨!」
蛮骨が走って戻ってくる。倒れた煉骨の顔を覗き込むと、切れ長の目は険しく細められ、薄い唇が忌々しげに舌打ちを放った。
「くそっ…しくじった…」
「痛むか?」
液体がかかった部分はじっとりと濡れている。ただの液体ではないのか、ぬるっとした様子だ。
「痛みはそうでもないが……痺れて動かねぇ。補食や戦闘時に、相手を麻痺させるのが目的の体液だろう。腹の中に溜めてあったのが噴き出したのかもしれねえな」
倒れてはいるものの、はっきりとした口調で喋る煉骨に蛮骨は密かに胸を撫で下ろす。
「立てるか?」
「いや……しばらくは無理そうだ」
「そうか。わかった」
そう言うと蛮骨は倒れた煉骨の腰に手を添える。不思議な表情を煉骨が浮かべた次の瞬間。
「よっ、と」
ぐん、っと勢いよく蛮骨は煉骨の体を持ち上げ、そのまま器用に鎧のついた胴体部分を首の後ろへと回し、自分の左右の肩に煉骨の尻の部分と胸の部分を乗せた。
「なっ!?」
「運ぶぞ。大人しくしてろ」
「ま、待て、大兄貴!」
「お前の調子が戻んのを待ってられっかよ」
「っ……」
蛮骨の肩に担がれ戸惑う煉骨。しかし先ほどの言っていたとおり、蛮骨を待たせるわけにもいかない。静かになった煉骨の様子を確認して、そのまま蛮骨は歩き始めた。
「おっ、そうだ」
「?」
何か思いついたような口調の蛮骨に怪訝な表情をうかべる煉骨。と、次の瞬間、さわりと尻を撫でられた。
「!?」
「運んでやる駄賃代わりだと思っとけ」
「ふざけんな!勝手に撫でるんじゃねえ!」
「お前いい尻してるよな、触り心地いいし」
「いいから撫でるのをやめろー!!」