いつの日かの終わり、その時まで「ったく、やってられるか」
ぐい、と煉骨が盃をあおる。ぐびぐびと中の酒を飲み干し、はあ、と息を吐いた。
「蛇骨は人質の女達も皆殺しにしちまうし、睡骨は途中で医者になっちまうしよ……」
酒の入った瓶を傾けながら煉骨が管を巻く。隣に座っていた銀骨は、困ったような心配そうな表情を浮かべていた。
「ぎし……兄貴、今日はたくさん飲んでるな」
「飲まなきゃやってらんねぇ!凶骨は頭が回らなさすぎるし、霧骨は取っ捕まって殺されそうになるしよ……大兄貴だって……」
そこまで話して煉骨の手がぴたりと止まる。動きを止めた煉骨に、銀骨は不思議そうな顔で声をかけた。
「兄貴?」
「なあ、銀骨……大兄貴のやり方で……お前はいいと思うか……?」
「ぎし?」
「このままで……俺たちは本当に……」
先程までの勢いを無くし静かに呟く煉骨に銀骨は戸惑う。煉骨のことを銀骨は慕っていたが、その考えや思考にはいつもついていくことが出来ないでいた。
「銀骨……もしもの時……もしもの時が来たら……お前は大兄貴よりおれをとるよな……?」
酒で顔を赤らめた煉骨がじっとこちらを見つめてくる。心細ささえ感じるその視線にどきりとした。いつだって強く兄貴分として上に立つ煉骨が、こんな表情を見せるのは初めてのことだった。
「ぎ……ぎし……も、もしもの時って……なんだ……?」
煉骨が自分に何かを求めてることはなんとなく感じ取れる。しかし何を求められているのか、それを理解する頭脳を銀骨は持ち合わせていなかった。馬鹿素直に煉骨に尋ねる銀骨。その様子を見て、煉骨はふっと微笑んだ。
「はっ……いや、なんでもねえよ。悪かったな。気にすんな、銀骨」
「ぎし……すまねぇ、兄貴」
「謝らなくたっていいさ。……ん?酒が切れたな……」
期待に添えられなかったと感じる銀骨。その気持ちを労ったところで、煉骨の手元の酒瓶の中身がなくなった。
「兄貴……今日はもう寝たらどうだ?」
「そうだな……そうするか……」
ゆらりと立ち上がって煉骨が布団の敷いてある部屋へと向かう。よたよたした足取りからすると、相当酒に酔っているのだろう。敷いてある布団に、煉骨がごろんと横になった。
「ぎし……兄貴、そこはおれの布団だ」
「んん?そうだったか……?」
銀骨の申し出にとろんとした目付きと声で返事をする煉骨。返事はするものの、動こうとする気配は無い。
「いいだろ、このままここで寝ても……なあ、銀骨……」
甘えているかのような口調でそう喋る煉骨。銀骨はゆっくりと頷く。
「兄貴がそこでいいなら」
「すまねぇな……。はあ……なんだか落ち着くぜ……」
そう言って煉骨が、普段は銀骨が使ってる布団に顔をすり寄せる。その様子を眺めながら、銀骨は無言で布団の横の床の上に寝転んだ。煉骨の布団は空いていたが、そこに寝ようなどとは考えもしなかった。
「なあ、銀骨………ずっと一緒にいろよ……ずっと………」
微笑を浮かべ、うわ言のように呟いてから煉骨が黙り込む。ほどなくして小さな寝息が聞こえ始めた。
「ぎしっ。もちろんだ」
聞こえていないことを承知で返事をする。赤らんだ顔が、穏やかな寝顔を浮かべている。
「最期まで一緒にいる、煉骨」
生身の右手で、眠りに落ちた兄貴分の手を握る。考えのすべてをわかる必要はない。ただ、この人に自分が必要とされている。それだけで存在の、居場所の理由になる。
銀骨も目を閉じた。固い床の上、これまで過ごしてきたどの場所よりも、男の隣が居心地良くて、好きだった。