エイプリルフールでした!ネタバレはないです!「40-30!」
審判の声が響いた。マッチポイントだ。ここを取られるとデュースにもつれ込むことになる。7ゲームマッチ。4ゲーム先取すれば勝ち。ゲームカウントは3-2。ここを取れば、次はいよいよ決勝だった。
快晴はネット近くに詰め、相手の動向に目を凝らす。背後から、何度もボールをつく音が聞こえた。
「入るぞ!」
後ろを振り返ることなく、しかし、すべてを預けるように声を飛ばす。
応えるように、桐継が細く息を吐く。シュル、とボールが高く上げられた音がする。
スパァン!
小気味良い音がして、サーブが入る。安定性と回転を両立した、美しささえあるサーブ。
相手がなんとか返したレシーブに飛びつく。弾くようにボレーを打ったが、フレームに引っかかる感覚に嫌な汗が伝う。
案の定、甘くなったボレーはあっさりと相手の後衛に拾われた。強いストロークが返ってくる。
「しまっ……!」
ミスで一瞬竦んだ体は反応が鈍かった。伸ばしたラケットの先をすり抜けてボールが飛んでいく。桐継がいた反対側のラインすれすれをまっすぐ、この球は相手の得点になるだろう。
自分の中の歯車が空回って、上滑りしていく感覚を覚える。ああ、嫌な流れだ。
汗が嫌に冷えていくのを感じたその瞬間、ダン!とボールが相手コートに返るのを見た。
「快晴、逸るな!」
桐継だ。あいつ、間に合ったのか。すごいな、俺の後衛は。知らず口角があがった。目の前の景色が一段回鮮明さを増す。大丈夫だ。背中は任せてしまえる。俺は好機を逃さないだけだ。
相手の後衛の球筋をジッと見つめる。相手は桐継の体力を削ろうと左右に振ることに注力していた。自分の真横を早い球が行き来する。長く、ラリーが続いた。
そして好機は来る。左右に振ることばかりに意識が向きすぎた球が、球速を鈍くした。すぐさま飛び込んで、再びボレーを打つ。今度は鋭く放たれたそれを、相手の前衛が詰まるようにしてロブを返した。
「貰うぞ!」
素早く下がり、飛び上がる。高く上がった球が、ギラつく太陽と重なった。思い切り振り下ろしたラケットから、ボールが勢いよく飛んでいく。ラインギリギリ、完璧なスマッシュだった。
「ゲームセット!」
「っシャア!」
勝った。桐継と決勝に行ける。いい球を打てた。一気に感情が去来して、それを全部吐き出した。ガッと振り返ると目を喜びに燃やした桐継と目が合った。
パン!と痛いくらいに手を合わせる。
「ナイススマッシュ!」
「お前こそ。あの球、拾ってくれて助かった」
嬉しそうに笑う桐継は、スマッシュのとき見上げた太陽くらい目を焼いた。きっと、次だって勝てる。そう思った。
まだまだ俺たちの夏は終わらないですみそうだと、グッと奥歯を噛み締めてから笑い返した。