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    tofu_ens1234

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    年上組 秋 小説

    年上組 秋今日は気温も心地よく、晴れ間の見える穏やかな空の下、Edenメンバーの私と日和くんは、公園で雑誌の秋の着回しコーデの撮影をすることになっていた。
    私の方は指定通りの撮影を終えて、公園を軽く一周していたが、日和くんはスタッフと離れた場所で相談しているようだった。
    あぁして彼の仕事に対する真剣さを見るのは私は好きだった。時には彼の仕事ぶりがひりつくほどの緊張感を生み出すこともあるが、そういう日和くんも、私は好きなのだ。
    足元の落ち葉をさくさくと踏みしめながら、日和くん達に近づいていくとだんだんと会話が聞こえてくる。
    「……うーん、でもこの着回しってあくまでも20代前半の社会人男性向けで…このコートなら平日ならスーツでも!休日ならカジュアルにも着こなせる!って、コンセプトなんですよね?それなら、あんまり休日に公園ではしゃいでるショットが合うとも思えないんですが…」
    普段のEdenメンバーに対する口調とは違い、敬語でコーディネーターさんに意見をしている日和くんの声が聞こえてきた。
    販売物を売る意識が強い日和くんにとって、雑誌側の考える『Eve』の爽やかさや彼等の想像するアイドルの元気さを押し出したいという雑誌の購入者を意識しすぎるあまりに、販売意識の足りていない雑誌側に対して気に入らないようだ。
    私は日和くんから少し離れたところで、会話を聞きながら考えていた。
    (……本来は日和くんと雑誌側の意見、逆転の意見をもって対立することはありそうだけれど…この業界の私達の価値を考えると…こんな風に逆転することもあるんだね。)
    ふふっと一人で得心していると、少し休憩を取ってから撮り直しになるらしく、日和くんとスタッフ達は休憩に入った。遠くから私を見つけるなり早歩きで不満げな顔をした日和くんが近づいてきた。
    「……上手くいった?」
    「全然?あの分からず屋、商品を売るのとぼくらを使いたいのと、どっちが優先なんだろうね?」
    「……声が大きいよ」
    「本当のことだね?」
    機嫌を直すのに時間がかかりそうな日和くんの手を取り、ひとまず公園のベンチの近くまで連れて行った。近くにあった自販機から日和くん用にホットティーを、私は自分用にホットココアを買って日和くんに手渡した。
    「凪砂くんの方が先に仕事終わっちゃうなんて、なんだかぼくの方が分からず屋みたいで嫌だね…」
    「……私の方は、特にコンセプトとずれているとは思わなかっただけだから…日和くんが悪いわけではないと思うよ」
    「それはそうなんだけどね…。そもそも、ぼくってEveだとそんなに明るくて元気で爽やかなお兄さんみたいなイメージが強いの?世間一般から見てそこまで単調なイメージしか持たれてないと思うと、なんだか悔しいというか…」
    はぁ、と日和くんは短くため息を吐いた。
    (……いつもよりこだわって意見をしているなと思ったらそういうことだったんだ。ただ単に仕事の目的を履き違えていることを危惧していたわけでは無く、『巴日和』本来のイメージの共有ができていなかったから…)
    私は改めて考えに耽っていた。何か日和くんのイメージ像を伝えられるものを探そうとポケットの中のスマートフォンを取り出そうとすると、先ほど公園を見て回っていた時に拾ったどんぐりが手に触れた。
    それをおもむろに取り出し、日和くんに手渡す。
    「また拾ってきたの?どんぐり。凪砂くん公園に行くたびにお花を摘んでみたり、まつぼっくりを拾ってきたりするんだから。ほんとそういうところ、昔から変わらないね?」
    そう言って、困り眉をした日和くんは少し懐かしそうにくすりと笑った。
    「……そうだね。日和くんからしたらどんぐりを拾ってくる私はいつもの『乱凪砂』だけど、きっと今の私たちのやりとりをスタッフさんが見たら彼等の思う『乱凪砂』とはかけ離れているのかもしれない」
    「……」
    私が何を言いたいのか察しているようで、日和くんは黙って話を聞いていた。
    「……私にとっての日和くんは、明るくて快活でいつでも手を引いて私をどこにでも連れて行ってくれるお兄さんだから…ね?」
    「そうだね…そうだったね」
    いつもの慈愛に満ちた優しい瞳でふわりと日和くんは笑った。ギシッとベンチが軋む音を立て、ほぼ同時に立ち上がった。日和くんが手を差し伸べてくるので私はその手を取って手を繋いでスタッフ達の元へと帰っていった。

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    完成した雑誌の着回しコーデの休日回には、私と日和くんが手を繋いで公園を散歩している写真が掲載され、日和くんが私に拾ったイチョウの葉やどんぐりを渡してくれているシーンなんかが撮られていた。
    完成品とSNSの反響を見て大満足の顔をした茨が「次の打ち合わせで、この着回し回を連載しようという話を提案しようと思っているんです!彼等は自分たちEdenの売り出し方に理解があるみたいですしね!」とはしゃぐ茨に、私と日和くんは思わず顔を見合わせ、そして笑い合ったのだった。
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